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出入国在留管理庁が発表した「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針」に対する会長声明

2023年10月20日

出入国在留管理庁が発表した「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針」に対する会長声明

 2023年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」という。)を発表した。
対応方針は、2023年6月成立の改正入管法の施行時(年内施行部分を除き、公布日から起算して1年以内に施行)までに、日本で出生して小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活をしていくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可をするとしている。

 「送還忌避者」とは、退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、自らの意思で日本からの退去を拒んでいる者を指す。その中には、難民であることや日本に家族がいること等を理由に、日本での在留を希望している者が多く含まれている。
 日本で教育を受けた在留資格のない子どもについては、親の送還と引き換えに在留特別許可が付与されてきたという従前の扱いに比較すると、今回の対応方針は、それが示す範囲では、家族一体として在留資格を与えるものであり、その点は一定程度評価しうる。
 一方で、対応方針の以下の点については、懸念がある。

 まず、対応方針は、子どもが「本邦で出生」したことを要件としているが、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)を保護するとの観点からみれば、日本で出生したかどうかだけで線引きをする合理性はない。法務省によると、昨年末時点で、在留資格のない送還忌避者のうち、日本で出生した子どもは201人、日本で出生していない子どもは94人いるとのことであり、上記要件によれば約100名の子どもが形式的理由により対象から外れることになる。日本で子どもが成長してきた環境、人格を形成してきた過程に着目し、子どもの最善の利益を保護すべく、対応方針の要件を改めるべきである。

 次に、対応方針は、その対象として、日本で出生した「子ども」であること、すなわち改正法施行時点で18歳未満であることを要件としているため、仮に日本で出生(あるいは幼少期から日本で成長)していたとしても18歳を超えてしまった者は対応方針の対象外となる。しかしながら、自由権規約12条4項は、「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない。」と定め、同項についての自由権規約委員会の一般的意見27は、同項は自国を離れた後に帰国する権利だけでなく、自国にとどまる権利があることを含意すること、また、ここでいう「自国」の範囲は、国籍国の概念より広く、少なくとも、当該国に対して特別の関係又は請求権を有するが故に、単なる外国人と見なすことはできない個人が在留している国を含むとしている。したがって、日本で生育し暮らしてきた環境、人格形成過程を保護するとの観点からすれば、現在18歳を超えている者についても「自国」として日本に在留する権利が認められてしかるべきである。加えて、18歳を超えているかどうかは対応方針の実施が遅きに失したという、本人が如何ともし難い事象によるものでもあるうえ、前記のとおり現時点では改正法施行日も未定であって、施行日という偶然の事情により対象に線引きがなされることに合理性はない。したがって、18歳を超えている者であっても、日本で出生した者や日本で育った者は対応方針の対象とすべきである。

 最後に、対応方針の上記各要件を満たすとしても、親が入国・上陸の際に不法入国・不法上陸であったこと等の「親に看過し難い消極事情がある場合」は対応方針の対象外とされている。対応方針に従えば、親にこのような消極事情がある場合には、家族一体として在留資格が与えられないこととなる。
しかし、子どもは親の付属物ではないから親の消極事情を考慮すべきではない。子ども自身の在留資格については、その最善の利益を検討して在留資格を与えるべきである。その上で、親だけを送還するか否かについては、家族結合権(自由権規約17条、23条)の保障や比例原則の観点から慎重に判断すべきである。

 そもそも、日本においては、いわゆる先進国の中でも難民認定率が極めて低く、その他難民をはじめとする外国人の保護法制にも問題があることについては、当会が2021年6月24日「出入国管理及び難民認定法改正案の取下げを受け、同法の抜本的な改正を求める会長声明」、2023年2月9日「入管法改正法案の再提出に強く反対する会長声明」等で指摘したところである。
こうした点も踏まえて、当会は、日本で出生した子どものみならず、日本で育った子どもや、その後成年となった者などについても、在留資格の有無にかかわらず、その人権が擁護されるよう、対応方針の対象拡大を強く求める。

2023年(令和5年)10月19日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  野 呂   圭

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