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「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」の国会提出及び衆議院での可決に抗議し、国会での廃案を求める会長声明

2024年04月11日

「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」の国会提出及び衆議院での可決に抗議し、国会での廃案を求める会長声明

1 政府は、2024年2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(以下、「本法案」という)を閣議決定し、国会に提出した。
 本法案の概要は、①重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏洩が我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿する必要があるものを、重要経済安保情報として秘密指定する(特別防衛秘密及び特定秘密に該当する情報を除く)(本法案第3条)、②重要経済安保情報を漏洩した者と不正に取得した第三者を、最高5年の拘禁刑に処す(本法案第3条、第22条以下)、③重要経済安保情報を取り扱う業務は、適性評価(本法案第12条~第17条)により、重要経済安保情報を漏洩するおそれがないと認められた者に制限する、というものである。これは、特定秘密保護法を経済安全保障分野に拡大しようとするものであるが、本法案には以下に指摘するとおり、憲法上重大な問題がある。

2 特定秘密保護法自体の問題点
 特定秘密保護法とは、外交・防衛・テロ・スパイ活動の4分野の情報のうち特に秘匿されるべきものを「特定秘密」として指定し、これらの機密を漏らした公務員や関係者に最長懲役10年の罰則を設けた法律である。
 この法律には、まず、同法における特定秘密の範囲が広範かつ不明確であり、原則30年の秘密指定期間に大幅な例外の適用によって半永久化を許容している点で国民の知る権利を侵害しているという問題がある。また、同法は個人に対し、特定秘密を取り扱う者を選別する適性評価制度に基づく調査をすることができるという点でプライバシー権を侵害する危険を有する。さらに、同法は、対象となる特定秘密の内容が明かされないまま刑罰が科される恐れがある点で罪刑法定主義、適正手続に反する。
 当会は、このような憲法上重大な問題をいくつも抱える特定秘密保護法の制定に反対する会長声明を4回発し、更に2014年2月22日には当会の定期総会において同法の廃止を求める決議を採択して、一貫して同法に反対してきた。
 また、国際自由権規約委員会も、第6回(2014年)及び第7回(2022年)の日本政府報告書審査で、同法について、①特定秘密の対象となる情報カテゴリーを明確にすること、②国家の安全という抽象的な概念により表現の自由を制約するのではなく自由権規約第19条第3項に則った制約となるようにすること、③公共の利益に関する情報を流布することにより個人が処罰されないことを保証することを、政府に求め続けてきている。
 しかしながら、今日まで、政府において上記のような同法の問題点を払拭しようという姿勢は全く見られないまま、今般、同法を経済安全保障分野に拡大する性質を有する本法案が閣議決定され、国会に提出されるに至っている。

3 本法案の問題点 
(1)本法案は、特定秘密保護法と同様の憲法上の重大な問題を複数抱えていることに加え、以下のとおり、それを上回る問題がある。
 第一に、秘密指定される重要経済安保情報の範囲は抽象的で、極めて広範かつ不明確である。政府が作成した本法案の解説では、「経済安全保障上の重要な情報」のうち、漏洩等があることで「著しい支障」が生じるものを「特定秘密」とし、それには至らない「支障」相当のものを「重要経済安保情報」として区分したうえで、本法案は後者の「重要経済安保情報」を対象とするものとされているが、特定秘密保護法のように外交・防衛・テロ・スパイ活動の4分野に限定されているわけでもなく、特定秘密保護法以上に対象範囲が広範かつ不明確といわざるをえない。しかも、秘密指定が適正になされているかをチェックするための政府から独立した第三者機関がおかれていない。これでは、「重要経済安保情報」が恣意的に拡大される懸念がある以上、捜査権等の濫用や企業の萎縮効果を招きかねない。
 第二に、特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であったが、本法案では広範な民間事業者や大学、研究機関等も対象とされ、当事者のみならず家族や同居人も対象とされるなど、対象範囲が極めて広い。調査内容も、精神疾患に関する事項や経済状況等も含む広範かつ私事性・秘匿性の高い高度なプライバシー事項が対象とされている。適性評価のための調査の行き過ぎを抑止するための仕組みも想定されていないようであり、プライバシー保障の観点から疑問がある。
(2)また、2013年6月2日、70か国以上の500人を超える専門家によって起草された「国家安全保障と情報への権利に関する国際条約(ツワネ原則)」が発表されている。ツワネ原則は、国家安全保障分野において立法を行う者に対して、国家安全保障上の理由による情報非公開と、政府情報への国民のアクセス権を保障することとの両立を図って作成された実務的ガイドラインであり、知る権利の制約の必要最小限性を検討する上でも重要であるが、本法案では、このツワネ原則に即した①違法秘密の指定禁止、②公共利害に関わる情報を公表した市民とジャーナリストが刑事責任を問われない保障、③秘密指定された情報が期間の経過によって公開される制度などが欠けており、国民の知る権利及びプライバシー権が侵害されないための制度的な保障はなされていない。

4 結語
 以上述べてきたとおり、本法案についても、憲法上の重大な問題が複数あることは、特定秘密保護法と全く同様である。同法の抱える憲法上の重大な問題を何ら改善しないまま、本法案の制定により経済安全保障分野に拡大することは許されるべきではない。また、本法案は、同法以上に対象範囲が広範かつ不明確であり、秘密が恣意的に拡大するおそれがより高いと言わざるを得ない。なお、衆議院で可決するにあたり本法案は若干修正されたものの、その修正によっても本会長声明で指摘した問題は解決されない。
 よって、当会は、本法案の国会提出及び衆議院での可決に抗議し、国会に対し本法案を廃案とすることを求める。

2024年(令和6年)4月11日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  藤 田 祐 子

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