海賊行為対処法案に反対する会長声明
衆議院は,本年4月23日,海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案(海賊行為対処法案)を可決した。しかし,同法案には,少なくとも以下に述べる憲法上の問題があるため,当会はその制定に反対である。
第一に,法案は,「海上における公共の安全と秩序の維持を図ることを目的」とし(第1条),海賊行為の対処の名目であれば世界のあらゆる海上に自衛隊を派遣できることを可能としている。これは,我が国の防衛を主たる任務とし、必要に応じ領海における公共の秩序を維持する(自衛隊法第3条1項)という自衛隊の活動範囲を逸脱するものであって、憲法第9条に抵触するおそれがある。
第二に,法案は,対象行為を日本船舶だけでなく外国船舶を含む全ての船舶に対する海賊行為にまで拡大し,しかも,特別措置法という時限立法ではないため,恒久的に自衛隊海外派遣を容認するものであり,自衛隊の海外派遣の途を拡大し,海外活動における制約をなし崩しにしていくもので憲法第9条に抵触するおそれがある。
第三に,自衛隊法第82条による海上警備行動に認められている武器使用が,犯人逮捕や正当防衛・緊急避難のために限定されているところ(警職法第7条の準用),法案は,この範囲を超えて,「海賊」が警告射撃などの制止に従わず,「船舶に著しく接近」するなどの行為を継続する場合,「海賊」からの発砲がなくても,先行的に船体射撃を行うことをも許容する規定になっている(第6条,第8条2項)。これは従来堅持されてきた自衛のための武器使用要件を著しく緩和するものであり,かつ国連安保理決議(第1851号)では加盟国は武力行使を含む「あらゆる必要な措置をとることができる」とされている事も考えれば,状況によっては、他国軍隊と一体となった自衛隊の武力行使に至る危険があり,武力行使を禁止した憲法第9条に抵触するおそれがある。
第四に,法案は,自衛隊の海賊対処行動は,防衛大臣と内閣総理大臣の判断のみでなされ,国会には事後報告で足りるとされており(第7条),国会を通じた民主的コントロール上も大きな問題がある。
確かに,ソマリア沖の海賊行為の頻発は,国連安保理決議がなされているなど,深刻な国際問題となっている。この問題解決のために国際協力が重要であることは明らかである。しかし,わが国が今,国際社会の中でソマリア沖海賊対策としてなすべきことは,日本国憲法が宣言する恒久平和主義の精神にのっとり,問題の根源的な解決に寄与すべく,関係国が日本に求める要望等に配慮しながら,非軍事的な人道・経済支援や沿岸諸国の警備力向上のための援助などを行うことである。
よって,当会は,海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の制定に反対する。
2009年(平成21年)5月13日
仙台弁護士会
会 長 我 妻 崇