女性用留置施設の集約化に強く反対し、その撤回を求める会長声明
近年、全国で警察官による女性被留置者へのわいせつ事案が相次いだことを受け、宮城県警察本部(以下「宮城県警」という。)は2023年頃から、当会への事前協議の連絡もなく、宮城県内の警察署が捜査する事件の女性被疑者・被告人(以下「女性被疑者等」という。)を仙台中央警察署及び若林警察署の2か所に集約して留置している(以下「本件集約化」という。)。2025年3月に新設された栗原警察署に女性用の留置施設が設けられたにもかかわらず、現在も運用されていない。そればかりか、元々女性用の設備があった石巻拘置支所や古川拘置支所にも、女性被疑者等を勾留する運用はなされていない。
そもそも、無罪推定を受ける権利を有する被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)の勾留は、厳格な要件の下でなされなければならず、勾留する場合であっても勾留場所は、本来、捜査当局と分離された刑事施設(拘置所・拘置支所等)でなければならない。当会も、従前から警察留置施設を勾留場所とする「代用監獄」制度は、被疑者等の全生活を捜査当局である警察が管理することを容認し、自白強要等によるえん罪の温床になるとしてその廃止を訴えてきた。しかし、本件集約化は、拘置支所ではなく警察署の留置施設に集約するというものであり、「代用監獄」問題を看過するものであって容認できない。
また、本件集約化は、従前は自己の生活圏(宮城県内各地)で犯罪の嫌疑をかけられた際にはその生活圏を所轄する警察署の留置施設や最寄りの拘置支所に身体拘束されていたはずの女性被疑者等が遠方になる仙台市の警察署に身体拘束されることになり、家族や支援者との面会、衣類(下着も含む。)等の差入れにも不便を生じさせ、当該女性被疑者等を精神的にも物理的にも孤立させる結果を招いてしまうおそれがある。このような事態は、当該女性被疑者等の心身の安定を阻害し、防御権行使を実質的に脆弱化させるおそれがあると言わざるを得ない。
そして、この不利益は女性被疑者等のみに課された性別を理由にする取扱いであるところ、女性被疑者等に対する性加害防止という目的達成のための手段として、加害者処罰や再発防止のための教育啓発活動を行うべきことは当然としても、拘置支所での身体拘束等、本件集約化よりも不利益の程度の少ない方法がとられた形跡は認められない。したがって、本件集約化という女性を区別する取扱いに正当性は認め難く法の下の平等を定めた憲法14条1項に鑑みても容認できない。
さらに、現在、全国的に裁判所や検察庁の支部機能の縮小や刑事施設の統廃合が行われる中、本件集約化もその流れの一つとも言える。しかし、安易にこのような縮小や統廃合等を行うことは被疑者等だけでなく地域住民の基本的人権を損なうおそれがあることに留意しなければならない。都市部から離れた地域においても、司法手続を享受できるよう整備することこそ国に求められる役割である。
よって、当会は、警察庁及び宮城県警に対し、女性用留置施設の集約化を直ちに撤回することを求めるとともに、裁判官及び検察官に対し、勾留要件の厳格な審査を行い、仮に勾留する場合であっても、その勾留場所を被疑者等の性別を問わず刑事施設とするよう求める。
2025年(令和7年)9月25日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 千 葉 晃 平