刑事再審手続に関する要綱(骨子)に反対し、速やかに議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明
法制審議会(佐伯仁志会長)は、本年2月12日に刑事再審手続に関する要綱(骨子)記載の法整備を行うべきとする答申を採択し、これを法務大臣に提出した。しかし、法制審議会総会でも要綱(骨子)については、会長を除く出席委員17名のうち4名が反対の意見を表明し、1名が棄権するなど、幅広い合意が形成されたとは言い難い。そして、要綱(骨子)の内容は、えん罪被害者の救済を迅速かつ容易にするという再審法改正の目的に沿ったものではなく、かえって今まで以上に救済を困難にしかねない内容を含んでいる。その主な問題点は、以下のとおりである。
第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、裁判所が再審請求について調査した結果、「理由がないことが明らかである」と認めるときは、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することを義務付けている。
しかし、このような規律を設けてしまうと、再審請求人が手紙しか提出していなかった財田川事件(死刑再審えん罪事件の一つ)のような事案において、再審請求についての再審請求人からの意見聴取すらなされることなく、再審請求が棄却されることになってしまうおそれがあり、えん罪救済手続としては後退となる。
第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象を「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって、「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。
過去の再審無罪事件から明らかなとおり、証拠開示が必要とされるのは、無罪につながる証拠が捜査機関の手元にあるためである。また、当該証拠が無罪につながる証拠であることが裁判所から見て、一見して明らかな場合は少なく、その判断のためには、再審請求人や弁護人による検討と、それを踏まえた主張が欠かせない。したがって、再審請求人や弁護人がその主張立証を準備するために必要な証拠については、幅広く彼らに直接開示されることが必要不可欠である。
しかし、要綱(骨子)によれば、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は、捜査機関が保管する証拠の開示を受けることができないことになる。このような極めて限定された規律の下では、無罪を示す証拠が開示されないおそれがあり、過去の再審無罪事件における証拠開示と比較しても後退する結果となりかねない。
第3に、要綱(骨子)は、弁護人が検察官から提出を受けた開示証拠を再審請求の目的以外の目的で使用することにつき罰則をもって禁止している。
しかし、禁止される行為の外延が明確でないため、例えば新証拠の獲得に向けた活動において開示証拠を支援者や報道機関に開示することも、目的外使用にあたるのではないかとの懸念から、これを躊躇するおそれがあり、再審請求人や弁護人の活動を萎縮させるおそれがあり、えん罪被害者の救済を困難にさせる。
第4に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止しておらず、これまでどおり、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行うことを無制限に認めている。
しかし、職権主義的審理構造のもとで、利益再審のみを認め、再審制度の目的をえん罪被害者の救済に純化した現行の再審請求手続においては、検察官は当事者ではなく、「公益の代表者」として裁判所の審理に協力する立場に過ぎないのであるから、検察官に不服申立権を認める必要はない(有罪無罪の判断は再審公判で行われるため、検察官に再審開始決定に対する不服申立を認めなくても不都合はない。)。また、近時再審無罪が確定した「袴田事件」や「福井女子中学生殺人事件」がまさにそうであったように、検察官による不服申立てによって再審開始が遅延し、えん罪被害者の速やかな救済が阻害される事態となっている。このことは、本年2月24日に最高裁判所第二小法廷がいわゆる「日野町事件」第2次再審請求事件において検察官による特別抗告の棄却を決定し、2018年7月11日の大津地方裁判所による再審開始決定が確定するまでに約7年7ヶ月もの年月を要したという事実からも認められる。
このように要綱(骨子)は、えん罪被害者の速やかな救済という再審法改正の目的からは程遠いものである。
ところで、再審法改正に関しては、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議連法案」という。)を取りまとめている。当会でも、2025年8月28日、「臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明」において、議連法案の可決・成立を進めるよう求めたところである。議連法案は、再審請求手続における検察官保管証拠等(送致書類等目録を含む。)の開示を幅広く認めるとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止している点など再審制度によってえん罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする観点から策定されており、えん罪被害者の迅速かつ容易な救済を指向するものであって、高く評価できる。議連法案は、2026年1月23日の衆議院の解散によって廃案になったが、今特別国会において、改めて議連法案と同内容の法案を議員立法として提出し、審議の上で成立させるべきである。
よって、当会は、要綱(骨子)に反対するとともに、議員立法により、速やかに議連法案と同内容の再審法改正を実現することを求める。
2026年(令和8年)3月12日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 千 葉 晃 平
















