取調べの全過程の録画・録音を求める会長声明-足利事件を受けて-
2009(平成21)年6月4日、1990(平成2)年に栃木県足利市で発生した幼女誘 拐殺人事件、いわゆる「足利事件」において、再審請求人の菅家利和さんは釈放され自由の身となった。
本件は、無実の菅家さんを17年半もの長きにわたって身柄拘束し、無期懲役という筆舌に尽くしがたい絶望と重圧の中に押し込め続けた極めて重大な人権侵害である。その原因は、捜査機関が精度に大きな疑念を持たれていたDNA鑑定の結果をもとに菅家さんを責め続け強引な取調べによって虚偽の自白を強要したことにある。
なぜ、このような違法・不当な取調べによる虚偽自白を防止できなかったのか、それは、わが国の取調べが、警察の施設内にある「代用監獄」において、弁護人の立会いを排除し、外部との連絡を遮断した完全な密室で行われていることにある。足利事件は、密室での取調べでは、犯人でない者でも容易に虚偽自白に追い込まれてしまうこと、および違法・不当な取調べに対して抑止力が働かないことを改めて証明するものである。
このような違法・不当な取調べと、虚偽自白による冤罪を防ぐためには、取調べの全過程の録画・録音の実施が緊急かつ必要不可欠であり、その実施は容易なはずである。当会は、昨年7月16日付け会長声明においても取調べの全過程の録画・録音を強く求めてきたところであるが、まさにその重要性と必要性が本件によって一層明らかになった。
そこで、当会は、捜査機関に対し、直ちに取調べの全過程の録画・録音することを改めて求める。
また、本年4月にも、参議院本会議において取調べの全過程の録画・録音を義務付けることを内容とした刑事訴訟法改正案が可決された。国民の意見としても、取調べの全過程の録画・録音を求める請願署名約112万筆が衆議院議長に提出されている。衆議院においても、速やかに審議・可決し、同法案を成立させることを強く求めるものである。
当会は、違法・不当な取調べによって虚偽の自白が生じることを防止すべく、今後とも、取調べの全過程の録画・録音の実現のために全力を挙げて取り組む所存である。
2009(平成21)年6月17日
仙台弁護士会
会 長 我 妻 崇