国際人権(自由権)規約付属の第一選択議定書(個人通報制度)の早期批准を求める決議
わが国が1979年に市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権(自由権)規約」という。)を批准し、同規約は国内法的効力を有するに至った。しかしながら、批准から31年となる今日まで、国際人権(自由権)規約が法規範として、司法・行政等の場で機能しているとは言いがたく、刑事手続、被拘禁者の処遇、女性の地位、在日外国人の人権を含む様々な分野において、国際人権(自由権)規約の求める国際人権保障の水準に達しているとは言いえない状況である。
国際人権(自由権)規約委員会(以下「自由権規約委員会」という)も、2008年10月の第5回定期審査における日本政府提出の定期報告書に対する総括所見において、政府に対する批判の内容を含むビラを郵便受けに配布する行為等表現の自由に対するあらゆる不合理な規制の撤廃、取調べの全過程の録画と代用監獄の廃止のほか、死刑廃止の検討並びに死刑制度のあり方の改善、戸別訪問禁止等表現の自由に対する不合理な制限の撤廃等の個別的人権課題を指摘した。
しかしながら、政府・国会は、例えば、刑事手続においては、取調べの可視化については関心が高まりつつあるも着手が開始されたとはいえない状況であるし、えん罪の温床となっている「代用監獄」の廃止については前進が見られない。
最高裁(第二小法廷)においては、ビラ配付を行った市民が住居侵入罪により逮捕、起訴された、いわゆる自衛隊立川官舎ビラ配付事件、葛飾ビラ配付事件において、それぞれ2008年4月11日、2009年11月30日、いずれも、憲法21条1項の違反はなく、住居侵入罪に該当するとして一審無罪判決を覆し有罪の判断をした原判決を支持した。しかし、その判断において、表現の自由の権利の優越的地位が十分に配慮されなかったことについて、当会を含む各地の弁護士会から強い批判の声が上がった。
このように、日本の人権保障の状況は、国際人権(自由権)規約の求める国際人権保障の水準に遠く及ばないという深刻な状態にある。この状況を打開し、わが国の基本的人権の保障を、国際人権(自由権)規約の求める国際人権保障の水準に前進させるためには、個人通報制度を定める第一選択議定書を批准することが極めて有効である。
即ち、国際人権(自由権)規約に付属する第一選択議定書は、個人通報制度を定める。個人通報制度は、国際人権(自由権)規約で保障された権利を侵害された人々が国内で司法手続等の手を尽くしても権利の回復を実現できない場合、国連の自由権規約委員会に対して直接救済の申し立てができる手続である。
この個人通報を個人が行うことによって、自由権規約委員会が人権侵害を審議し、国際的に人権侵害状況が監視される。そして、人権侵害が認定されると、自由権規約委員会は、直接批准国の政府に対して、改善を促すことになる。
また、個人通報制度が存在することによって、政府や裁判所が、その権力を行使する際に、常に国際人権保障の水準の観点から検証されるということを意識せざるを得なくなるという効果もある。
第一選択議定書の批准は、このように様々な観点から、我が国の基本的人権保障を国際的人権保障の水準に前進させる効果が期待できる。
よって、当会は、日本政府に対し、国際人権(自由権)規約に付属する第一選択議定書を早急に批准し、もって国際人権(自由権)規約の個人通報制度を速やかに実現するよう求める。
2010(平成22)年2月27日
仙台弁護士会
会長 我 妻 崇