宮城県全域において放射線モニタリングの強化を求める会長声明
1 3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により大量の放射性物質の拡散が問題となる中,その被害が宮城県において深刻となっている。
丸森町では,小学校など計3施設の校庭等において除染の実施を余儀なくされ,角田市では,全小中学校の屋外プールが使用中止となった。さらに,県北地域においても,牧草や稲わらから暫定規制値を超える放射線量が確認され,宮城県全県下で肉牛が出荷停止となる事態が発生した。
このように,宮城県全域において,放射線被害が生じており,一般住民に対する影響が無視できないことにくわえ,情報不足からくる食品等への風評被害の恐れも否定できない。このような宮城県内の被害に対し,適切な対応をとる前提として継続的かつ多地点でのモニタリングを行い,その結果(年間累積被曝線量を含む)の公表及び結果に基づく適切な措置が必要不可欠となっている。
2 一般に,放射線による影響は,低線量であっても遺伝子障害が起きない保障はなく,がん等の晩発性障害の発生原因となる。特に今回大量に放出されたセシウム137は,人間の体内に取り込まれると全身の筋肉等に蓄積され,半減期が30年と長く,長期間にわたる警戒が必要になる。とりわけ子どもは,細胞分裂が盛んなため,放射線に対する感受性が強いことから,子どもを守る放射線対策が急務となる。
そこで,土壌等からの外部被曝のみならず,母乳や農水産物等の食料の摂取にともなう内部被曝の人体への影響について今後長期間にわたり目を向けていく必要がある。
3 ところで,原子力施設等に放射性物質や放射線の異常な放出がある場合等には,災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法に基づき,周辺環境の放射性物質又は放射線に関するモニタリングが実施されることとなっている。
しかし,放射線被害の対策の前提となるモニタリングについて,宮城県は,今年6月になって測定指針を発表し,その後もモニタリング強化への動きはみせているものの,その実施状況は子どもの被曝や内部被曝の観点から不十分と言わざるを得ない。測定指針において,幼稚園,保育園及び小学校では,地上0.5メートルの高さの空間放射線量を計測するとしているが,低年齢の児童ほど放射線に対する感受性が強く,砂場遊びなど地面に接する活動を行なう年代であることに照らして,上記の測定指針では不十分である。また,内部被曝対策のうえで,食料等の測定品目や,土壌調査の測定地点も宮城県の被害状況からみて不足している。
4 そこで,当会は,下記のとおり,宮城県及び県内自治体に対し,宮城県民,とりわけ子どもの安全・安心な未来を確保するために,適切なモニタリングの実施,結果の公表及びその結果に基づく適切な措置を求めるとともに,国に対し,地方公共団体が十分なモニタリング等を実施できるよう予算等の措置を講じることを求める。
記
① 農林畜産物や水産物全般について,今後も大幅に検体数を引上げ,宮城県全域における継続的なモニタリングを実施し,その結果を公表すること
② 土壌調査について,宮城県全域において,福島原発から80㎞の範囲で行なわれている2㎞×2㎞メッシュでのモニタリングを行ない,測定地点を細密化した土壌マップを作成・公表すること
③ 幼稚園や保育園,小学校といった低年齢層が利用する施設を中心に地上から1センチメートルでのモニタリングを行なうとともに,学校施設内及び通学路等に点在するホットスポットとなり易い用水路・雨樋の下等でも継続的なモニタリングを実施し,その結果を公表すること
④ モニタリング実施の結果,高い放射線量が計測された場合には,除染,健康調査の実施,出荷停止等,早急に必要な措置を講じること
以上
2011年(平成23年)8月25日
仙台弁護士会
会 長 森 山 博