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平成23年8月25日「震災精神疾患自宅生活困難者の応急的な居住場所確保に関する提言」

2011年08月25日

震災精神疾自宅生活困難者の応急的な居住場所確保に関する提言

第1 提言の趣旨
震災によって自宅が損壊していなくても、震災が原因で心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の精神疾患が発症又は悪化したことにより自宅生活が困難となった被災者(以下、「震災精神疾患自宅生活困難者」という。)が、災害救助法に基づき、避難所や応急仮設住宅の供与による居住場所の確保をできるような運用がなされるべきである。

第2 提言の理由
1 震災を原因とした精神疾患による自宅生活が困難となった者の存在
東日本大震災を自宅で被災したことが原因で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やパニック発作等の精神疾患が発症又は悪化したため、自宅が損壊していなくても、恐怖感等のPTSD症状やその他の精神疾患症状故にその自宅で生活することが困難となり、車中生活を余儀なくされている被災者が出ている。
震災後長期間、車中生活をすることは、心身共に大きな負担をかけ、熱中症やエコノミークラス症候群の危険性に晒されるなど、到底「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法第25条)であるとは認められない。

2 震災精神疾患自宅生活困難者の居住場所確保の必要性
(1)震災による精神疾患とそのケア
震災による体感や被害によるショックが癒えずに、気持ちの落ち込み、意欲の低下、不眠、食欲不振、涙もろさ、苛立ちやすさ、集中力の低下、記憶力の低下、茫然自失等の精神的変化を来し、その程度や持続期間によっては、うつ病、パニック発作、PTSD等の精神疾患の診断がつくこともあるとされている(平成13年度厚生科学特別研究事業「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」)。
このような認識の下、各自治体では地域防災計画として精神保健活動を盛り込んでおり、東日本大震災後も医師等の協力のもと精神保健活動が行われている。
(2)居住場所確保の必要性
しかしながら、精神保健活動は被災者が避難所や仮設住宅に入所していたり、自宅で生活していることを想定しており、被災者が避難所等の居所を確保できていない場合を想定していないと思料される。その結果、前記1で指摘した震災精神疾患自宅生活困難者が出ている。
居住場所の確保は生活の基盤を確保することであり、震災精神疾患自宅生活困難者の心身の疲労、精神的被害を回復していくためにも、安眠できる住環境の確保が必要不可欠な条件である。このことは、前記「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」において、トラウマからの自然回復を促進する条件の一つに「住環境の保全」が掲げられていることからも認められる。
したがって、震災精神疾患自宅生活困難者が新たな自宅を確保し、又は病状が改善するまでの間、路頭に迷うことのないよう応急的に居住場所を確保する必要性がある。
(3)避難所及び応急仮設住宅を居住場所として認めるべき必要性
震災精神疾患自宅生活困難者は、経済的余裕があればすぐに自力で他に居住する場所を確保できるであろうが、そうでない場合には路頭に迷い、路上生活あるいは車中生活を余儀なくされてしまう。
本提言は、このような震災精神疾患自宅生活困難者が路頭に迷うことのないように、応急的に避難所や応急仮設住宅に入所できる選択肢を保障することを求めるものである。

3 災害救助法による救助
(1)避難所供与について
災害救助法は、災害時における生存権保障の理念の下、「当該災害にかかり、現に救助を必要とする者に対して、これを行う。」(第2条)と定めている。
この点、昭和40年5月11日社施第99号厚生省社会局長通知「災害救助法による救助の実施について」では、災害救助の前提となる「被害」の内容について、住家の被害と人的被害として死者・行方不明・負傷を掲げるのみで、精神的被害を掲げていない。
確かに、災害救助法が当初想定していたのは上記被害内容であったと思料される。しかし、阪神・淡路大震災等を経験する中で、災害によるPTSD等の精神疾患の発症も確認されてきた。このような精神疾患を発症した被災者と外科的な負傷を受けた被災者をことさら区別するだけの合理的理由は見出しがたい。
そもそも災害救助法の根本理念である「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権)保障の理念に鑑みれば、災害によって精神的被害を受けたことにより生存権が脅かされるような場合には、「現に救助を必要とする者」として同法による保護を実施すべきである。そして、他の法制度により震災精神疾患自宅生活困難者が居住場所を確保することは、現実的に困難な状況にある。
したがって、震災精神疾患自宅生活困難者も、現に生存権を脅かされている以上、「災害により現に被害を受けた者」と言え、災害救助法に基づく避難所供与の救助を受けることができると解される。
なお、避難所供与に際しては、震災精神疾患自宅生活困難者の状況に応じて福祉避難所の供与も検討されるべきである。
(2)応急仮設住宅供与について
応急仮設住宅についても前記同様、収容を拒否して路上生活や車中生活を強いることは、生存権保障の理念に合致しない。
したがって、震災精神疾患自宅生活困難者は、災害救助法に基づく応急仮設住宅供与の救助も受けることができると解される。
なお、応急仮設住宅供与に際しては、震災精神疾患自宅生活困難者の状況に応じて福祉応急仮設住宅の供与も検討されるべきである。
(3)行政の負担
以上のような解釈・運用を行うことにより、震災精神疾患自宅生活困難者も個人の尊厳を回復し、安心して治療や生活を行うことができるようになる。
また、自宅が無事であるにもかかわらず、震災による精神疾患のために避難所や仮設住宅への入居を希望する者はその精神的被害が相当程度深刻であると推定されるところ、例えば医師の診断書を要求することによって対象範囲を限定すれば、行政に過大な負担を強いることにはならない。

4 結論
よって、当会は、厚生労働省及び関係各自治体に対し、震災精神疾患自宅生活困難者が、災害救助法に基づき避難所や応急仮設住宅の供与による居住場所の確保をできるような運用を求める。

2011(平成23)年8月25日

仙 台 弁 護 士 会          

会 長   森  山   博

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