東日本大震災から半年を経過しての復興支援に関する宣言
1 2011年(平成23年)3月11日に東日本大震災が発生してから半年が経過した。
東日本大震災は,宮城県内では最大震度7を記録し,巨大津波により沿岸部は甚大な被害を受けるとともに,内陸部でも広範囲に渡る地滑りや崖崩れが発生した。また,隣県の福島第一原子力発電所で発生した原子炉事故は今なお収束への明確な見通しがたっておらず,未だ災害自体が継続している状況にある。
東日本大震災による県内の死者数は9469名,行方不明者数は2141名であり,県内97か所の避難所に2122名の住民が避難する状態が続いている。また,県内の全壊家屋は7万5300戸,半壊家屋は9万1300戸にのぼっている(以上,9月21日警察庁発表)。
2 当会では,大震災直後に災害対策本部を設置するとともに,震災復興支援活動に全力を尽くす旨の3月15日付け会長声明を発し,その後,被災者の基本的人権を擁護しつつ復興を支援していく旨を宣言する5月20日付け臨時総会決議を採択した。
これらの宣言に基づき,当会は,法律相談活動,震災ADRの立ち上げ,既存債務問題(いわゆる二重ローン問題)についての取り組み,被災者支援や原発事故問題に関する各種提言活動などの被災者支援活動を行ってきたが,その詳細は別紙のとおりである。
3 しかし,大震災から半年を経過した現時点でも,被災地の復旧・復興の課題は山積しており,弁護士による支援の必要性はますます高まっている。
(1) 法律相談等の法的支援を今後も継続しさらに充実させていくことは,当会にとって大きな課題である。
これまで,当会が法テラス・日弁連の協力のもとに実施してきた無料電話相談は9000件を超え,出張相談は約7800件に及ぶ。
このように,被災者の法的ニーズは大きく,これに対応すべく,当会は石巻と気仙沼の法律相談センターを復旧して相談日程を増強するとともに,震災ADRの現地和解あっせん場所としても利用できるよう整備した。
また,被災が著しかった南三陸町,東松島市及び山元町に開設予定の法テラス臨時出張所に,法律相談センターを設置して無料法律相談を実施するとともに,震災ADRの現地和解あっせん場所としても活用していく予定である。
震災ADRは震災に関する紛争を迅速に解決するために当会が実施しているあっせん手続で,無料もしくは低廉な費用で利用できるシステムである。
現在,270件を超える申立がなされているが,上記現地和解あっせん場所の拡充により,沿岸地域の被災者がより利用しやすくすべく努力していく所存である。
今後も,被災地の実情に応じて,法律相談等の法的支援活動を充実させていくことが強く求められている。
(2) 上記のとおり,県内の避難所は相当程度減少してきているが,まだ数多く存在しており,また仮設住宅での問題も増えてきている。さらに,高台移転などまちづくりに関する問題など新たな課題が生じてきている。
当会では,被災地の現状を把握すべく,8月に避難所や仮設住宅等に赴き,実際の生活状況や直面している課題等をヒアリングする等の現地調査を実施してきた。
今後も,引き続き被災地の実態を把握しながら支援活動を行っていく必要がある。
(3) 当会では,いわゆる二重ローンなど既存債務から被災者を解放すべく,6月2日には中小零細事業者について,同月15日には個人についての提言を発し,これに基づき「既存債務からの解放を求める緊急請願」に関する署名活動を行ってきた。 そして,開始からわずか1か月の間に全国各地より合計10万筆を越える署名が寄せられた。このことは,被災者のみならず,全国民が被災者を既存債務に拘束することの不相当性を理解し,被災者の既存債務問題が抜本的に解消されることを切実に望んでいることを示している。
この解決に向けて,「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」が策定され,8月22日から施行されているが,同ガイドラインについては,真に被災者の復旧・復興のためになるよう運用されなければならない。
また,被災事業者の既存債務については,未だ解決策が講じられておらず,法的スキームが講じられるよう働きかけていかなければならない。
(4) 原発事故に関しては,当会は8月25日に,宮城県全域において放射線モニタリングの強化を求める会長声明を発しているが,今後も被害状況の正確な把握と,これに基づく除染作業など適切な対応が必要である。
県内では,福島県からの避難者も多数おり,かつ風評被害の問題等が生じているところ,被害の迅速かつ十分な回復が果たされるよう対応していく必要がある。
この点,9月から原子力損害賠償紛争解決センターの業務が開始されることに伴い,当会では原発損害賠償請求のための無料説明会を開催するとともに,担当会員の名簿を作成して具体的な相談に対応していく準備を進めている。
(5) 高齢者,障がい者,子ども,女性などの災害弱者については,大震災からの復旧・復興過程においてその人権が侵害され,また,置き去りにされる危険性がある。
当会では,既に,「震災精神疾患自宅生活困難者の応急的な居住場所確保に関する提言」(8月25日)を発し,また,子ども・女性を対象とした電話相談等を実施しているところであるが,今後も,災害弱者について不断に配慮していく必要がある。
(6) 各自治体では復興計画が策定されつつある。復興計画やまちづくり計画は,「人間の復興」,すなわち被災者の基本的人権の保障に留意しつつ,生活・営業・労働機会の復興を目的としなければならない。そのためには,今後進められていく種々の復興計画遂行過程において,被災者の意向が反映されていくことが必要不可欠である。
当会では,今後の復興計画遂行過程においても,関係各機関や他分野の専門家と連携を図りながら,被災者の権利・利益が保障され,被災者間の合意形成がなされるよう支援を行っていく必要がある。
4 これらの山積する諸課題に加え,今後,震災復興に関する新たな課題にも対応すべく被災者の声に耳を傾ける必要は高い。特に,生活や生業の再建のための十分な救済がなされないまま,復興の名のもとに開発事業だけが一人歩きし,いわゆる「復興災害」が起きないよう十分に注意を払っていかなければならない。
当会では,被災者と被災地の復旧と復興を支援し,もって,基本的人権を擁護し社会正義の実現を図るという弁護士の使命を果たすべく,今後も,引き続き会の力を結集して上記諸課題に全力で取り組むことを改めて宣言する。
2011(平成23)年9月22日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 森 山 博
仙台弁護士会のこれまでの震災復興支援活動
当会では,3月15日,「東北地方太平洋沖地震にあたっての会長声明」を発するとともに,5月20日に開催された臨時総会において,「東日本大震災の復興支援に関する宣言」を採択し,被災地の弁護士会として,被災者の基本的人権を擁護しつつその復興を支援するために,
①法律相談等の法的支援の継続と充実
②東日本大震災紛争解決支援センター(震災ADR)の活用による紛争解決
③関係各機関や他分野の専門家と連携した支援・施策の実現
④各種提言や意見表明を行うことによる被災者支援の充実
といった諸課題に会の力を結集して取り組むことを宣言した。
1 法律相談等の法的支援
(1) フリーダイヤルによる電話相談
当会では,3月23日から,フリーダイヤルによる被災電話相談を開始した(現在は,日本司法支援センター及び日本弁護士連合会と共催)。当初は3回線,後に6回線に増やし,その後,さらに8回線に増やして,ゴールデンウィーク期間中も実施した(現在は,午前10時から午後6時まで実施)。電話相談の件数は,9月20日現在,累計で9077件となっている。
(2) 法律相談センターにおける相談
仙台弁護士会館の法律相談センターでは,3月28日から通常相談業務を開始し,支部管内の法律相談センターでも4月1日以降順次通常相談を開始した。なお,石巻市では,石巻法律相談センターの隣地である石巻市役所において震災関連の無料相談を実施していたが,8月23日から,石巻法律相談センターにおいて相談業務を再開している(被災が著しかった石巻市及び気仙沼市の法律相談センターでは,相談の需要に応じるため法律相談の実施日を増やしている)。
(3) 出張無料相談
当会では,被災自治体からの要請を受けて,被災地での出張相談を実施してきた(現在は,日本司法支援センターの指定相談場所の指定を受けて実施している)。県沿岸部15の全被災自治体において,既に出張相談を実施済みである。
なお,ゴールデンウィーク期間中の4月29日,30日,5月1日には,県内の約100カ所の避難所・庁舎等において,日本弁護士連合会等から,のべ約300名の弁護士の派遣を受けて,大規模な県内一斉法律相談を実施し,3日間で合計966件の相談を受けた。出張相談の件数は,9月20日現在,累計で7793件となっている。
(4) 被災者への情報提供
電話相談や出張相談は,とりわけ初期の段階では,情報が不足する中で被災者に向けて有益な情報を提供するという意義が大きかった。
当会では,被災者向けの情報提供が,弁護士会が行う法的支援活動の重要な柱の一つであると考え,①相談例についてQ&Aのパンフレットの作成して当会のHPに掲載し,避難所等に配布した。また,②地元紙である河北新報紙上において,4月5日から,「震災法律問題Q&A」を30回にわたり連載した。他にも,③当会会員が,NHK「東北ライフライン情報」に出演(ミニ番組を5本収録し,テレビラジオで繰り返し放映した),「情報パレット」に出演(全8回),宮城テレビ「OH!バンデス」に出演する等,会員がメディアに出演して広く被災者に対して情報提供してきた。
2 震災ADR
当会では,4月20日から,東日本震災を原因として発生した法的紛争を解決するためのいわゆる「震災ADR」を実施している。
現在,震災ADRの申立件数は,開始から約5か月で約270件となっており(9月20日現在,なお,これまでの通常ADRの申立件数は年間100件程度)実際の審理手続も進んでいる。
震災ADRは,今後も,震災を原因とする紛争の簡易,迅速,円満かつ適正な解決に大きな役割を果たしていくことが期待されている。
3 関係各機関や他分野の専門家との連携
当会では,これまで,関係自治体をはじめ,国(行政庁,国会議員等),日本弁護士連合会,各弁護士会連合会,各単位弁護士会,日本司法支援センター,宮城県災害復興支援士業連絡会等の関係各機関や他分野の専門家と連絡を取り,協力を得ながら震災復興支援活動を行ってきた。上記出張相談は,主として沿岸部の自治体からの要請を受けて実施してきた。また,震災関連の研修会・講演会・シンポジウム等は,下記のとおり,3月25日以降,現在まで27回以上開催している(共催を含む)。
記
(1)3月25日 会内研修会①「災害時の法律相談」
(2)4月16日 講演会①「災害救助法の活用による復興支援」
(3)4月27日 会内研修会②「震災相談Q&A~実践編」
(4)5月 2日 三まちづくり支援機構(阪神淡路まちづくり支援機構、東京都まちづくり支援機構、士業連絡会)のシンポジウム①
(5)5月 9日 会内研修会③(大阪弁護士会研修会のDVD上映)
(6)5月13日 震災ADR研修会
(7)5月14日 士業連絡会連続学習会「今般の被災相談から」①社会保険労務士②土地家屋調査士)
(8)5月19日 大阪府他士業ADRとの協議会
(9)5月23日 神戸市職員との懇談会
(10)5月28日 士業連絡会連続学習会「今般の被災相談から」③建築士④司法書士
(11)6月 2日 会内研修会④「震災に関する社会保険労務士の実務」
(12)6月 4日 士業連絡会連続学習会「今般の被災相談から」⑤行政書士⑥税理士
(13)6月 7日 講演会②「原発震災の現状と展望」
(14)6月10日 政府復興会議委員・ニュースステーション解説員との懇談会
(15)6月11日 士業連絡会連続学習会「今般の被災相談から」⑦建築士⑧不動産鑑定士
(16)6月11日 講演会③「漁業の復興を考える~漁業権とは何か~」
(17)6月18日 講演会④「まちづくりの仕組み~まちづくりにおける弁護士の役割」
(18)6月25日 士業連絡会連続学習会「今般の被災相談から」⑨弁護士会⑩弁護士会の復興支援活動(弁護士会)
(19)7月12日 震災対応セミナー(公法研究会・実務公法学会,士業連絡会との共催)
(20)7月12日 講演会⑤「震災からの復興と個人の尊厳・生存権」
(21)7月22日 相談分析結果説明会
(22)7月28日 県南放射能汚染状況学習会
(23)8月 3日 東日本大震災と高齢者・障害者問題講演会
(24)8月 7日 三まちづくり支援機構(阪神淡路まちづくり支援機構、東京都まちづくり支援機構、士業連絡会)のシンポジウム②
(25)8月18日 原発損害賠償実務の基礎知識(DVD上映)
(26)8月19日 「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」学習会
(27)8月28日 「原発損害賠償請求のための無料説明会」
4 各種提言や意見表明
当会では,上記のとおり,「東北地方太平洋沖地震にあたっての会長声明」,「東日本大震災の復興支援に関する宣言」の他,「東日本大震災被災地復興支援に関する第1次緊急提言」(4月14日)等,下記のとおり,これまでに20件以上の提言・意見等を発している(仙台弁護士会のホームページにも掲載している)。
記
<会長声明・各種提言等>
(1) 3月15日 「東北地方太平洋沖地震にあたっての会長声明」
(2) 4月14日 「東日本大震災被災地復興支援に関する第1次緊急提言」
(3) 5月20日 「東日本大震災の復興支援に関する宣言」
(4) 5月25日 「東日本大震災への罹災都市借地借家臨時処理法の適用に関する意見書」
(5) 5月25日 「権利保全特別措置法第6条の適用に関する意見書」
(6) 6月 2日 「東日本大震災により被災した中小・零細事業者を対象とする救済策に関する提言」
(7) 6月 2日 「日本司法支援センターに対する要望書」
(8) 6月 2日 「被災者の信用情報の取扱に関する要請書」
(9) 6月15日 「災害救助法の費用支出を全額国負担とする提言」
(10) 6月15日 「被災者に対する各種受給権の差押禁止債権化を求める提言」
(11) 6月15日 「東日本大震災の被災者が抱える既存債務からの解放を求める緊急提言」
(12) 6月15日 「平成23年度新司法試験についての要請書」
(13) 6月17日 「東日本大震災に伴う東北地方の高速道路の無料措置通行方法について修正を求める緊急提言」
(14) 7月 1日 「災害救助法の積極的活用等を求める提言」
(15) 7月27日 「既存債務解放に解する緊急請願署名活動へのご協力に感謝の意を表する会長談話」
(16) 8月25日 「宮城県全域において放射線モニタリングの強化を求める会長声明」
(17) 8月25日 「震災精神疾患自宅生活困難者の応急的な居住場所確保に関する提言」
(18) 9月 2日 「生活保護世帯が受給する義援金等の収入認定に関する申し入れ」
(19) 9月 2日 「個人債務者の私的整理に関するガイドラインの運用開始にあたっての会長声明」
(20) 9月 2日 「個人版私的整理ガイドライン運営委員会に対し,登録専門家による確認・報告業務に関する運用についての申し入れ」
以上