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平成23年10月20日「仙台市震災復興計画中間案についての意見書」

2011年10月21日

仙台市震災復興計画中間案についての意見書

2011(平成23)年10月20日

仙台市長 奥 山 恵美子 殿

仙台弁護士会       

会長  森  山    博

平成23年9月30日付け「仙台市震災復興計画中間案(以下,「中間案」といいます。)へのご意見・ご提言について(依頼)」に対する仙台弁護士会の意見は以下のとおりです。
なお,本意見書では中間案のすべての項目について意見を述べるものではなく,今後必要に応じて他の項目についても意見を表明していくことも検討中です。

第1 「復興の基本理念」について
1 個人の尊厳に立脚した復興計画でなければならない
(1)今,被災した多くの仙台市民が,震災被害から復旧・復興しようとしています。被災者一人ひとりが震災被害からの復旧・復興を遂げるという問題は,独力では人格的に自律して生きることすら困難となった被災者が,震災後どう立ち直りどのように生きていくかという,個人の人格的自律の回復の問題そのものであります。したがって,一人ひとりが国政の上で最大限尊重されるとする「個人の尊厳」原理(憲法第13条前段)の下においては,何よりもまず,被災者一人ひとりの人格的自律の回復が上位概念として位置づけられなければなりません。
かつて,阪神・淡路大震災後の復旧・復興計画の遂行過程において,被災者がその遂行により二次被災・三次被災した,いわゆる「復興災害」の問題を改めて想起する必要があります(※1) 。基本計画が遂行され,基本構想が実現したが,被災者の復旧・復興は適わなかったということのないよう留意しなければなりません。
(※1)一次災害とは大震災・津波による人的・物的被害を,二次災害とは避難所,仮設住宅,復興公営住宅等急激な生活環境の変化とコミュニティ崩壊による孤独死,病死等を,三次災害とは復興政策の失敗による「複合的復興災害」とも言うべきもので,一次災害と二次災害の上に被災地の住民の貧困化や地域経済,地域社会の衰退,そして被災自治体の財政危機,市民の公共サービスの低下などの人為的災害が重なり複合化している状態をいう(塩崎賢明他編『大震災15年と復興の備え』16頁参照)。

(2)中間案においても,「一人ひとりの暮らしを支える」生活復興プロジェクトの中に上記趣旨は読み取れるところではありますが,上記趣旨の重要性に鑑み,「復興の基本理念」においても,被災者を含めた仙台市民一人ひとりが震災から復旧・復興し,被災者の人格的自律の回復を遂げることが前記各事項にいずれにも優先する第一の優先課題であることを明記するとともに,基本構想・基本計画の遂行によって被災者の人格的自律の回復が不当に妨げられないことを明記する必要があると思料します。
また,震災復興計画が基本計画を補完するものとされていますが,そうだとしても,前記のとおり,被災者一人ひとりの人格的自律の回復が今後遂行すべき最優先の課題であるのですから,基本計画が「個人の尊厳」原理に適うものたらしめるため,震災復興計画が基本構想の実現と基本計画の遂行に不可欠なものであることを明記する必要があると考えられます。
2 被災者の十分な選択権の保障の必要性
(1)中間案は,復興の基本理念として,「100万市民一人ひとりの貴重な経験や厳しい状況を支えた知恵を結集し,『ともに,前へ』歩みを進めていく。それが私たちの目指す復興の姿です。」とし,被災者・市民が復興の主体となっていくという民主主義・住民自治の理念を踏まえたものとして評価できます。
また,被災者が復興計画の策定・遂行に積極的に参画できるようにするためには,被災者が適切な判断をできるだけの情報の提供が不可欠であることは言うまでもありません。この点については,貴市においても相応の配慮がなされてきていることと思料しますが,今後も一層の配慮を要望します。
(2)ところで,情報提供のあり方に関しては一つの選択肢を提案するのではなく,複数の選択肢を提案した上で,かつ被災者が選択できるだけの情報を提供することが必要です。
例えば,貴市において防災集団移転促進事業による集団移転を求める場合においては,津波シミュレーションによる移転の必要性に関する情報提供のみならず,集団移転をする場合のメリット・デメリットや個人の費用負担額の目安,逆に移転をせずに現地に留まる場合のメリット・デメリット,支援の有無・内容等について,できるだけ具体的な情報提供をする必要があります。これらの情報が提供されないと被災者が自己の判断で選択することは困難と思われ,また,情報提供を怠った場合,将来,貴市からの「押しつけ」の計画であったという不満が生じかねません。
今後貴市において予定されている被災者・住民アンケートにおいても,上記観点を踏まえた内容とするよう要望します。
(3)なお,居住場所の問題は基本的人権の問題でもあるため(憲法第22条1項),被災者の意思ができるだけ尊重されるべきであり,その観点からは集団移転に参加しない,あるいは集団移転の対象とならない被災者に対しても,十分な支援策が講じられるべきです。

第2 「津波から命を守る」津波防災・住まい再建プロジェクトについて
1 中間案では,「『津波から命を守る』津波防災・住まい再建プロジェクト」と題し,安全な住まいの確保のため,住宅の新築や増築の禁止,市西側への住宅移転の促進,一定の建築制限など,居住・移転の権利(憲法第22条1項)や財産権(憲法第29条)の制限に関する事項が掲げられています。
2 住まいの再建について
被災者には,減災のために権利・利益を制限される一方で,被災した状況から人格的自律の回復を遂げる権利があります。被災者が人格的自律の回復を遂げることは,「個人の尊厳」を確保する上で不可欠なものであり,この回復が被災者の独力では著しく困難であるときは,必要な様々な措置を積極的に講じることが,憲法第25条により国に求められています。
貴市は,中間案において,丘陵地区等の宅地に関する貴市独自の被災者支援策を検討するとされていますが,安全な住まいの確保(憲法第13条,第25条等)の観点からは,例えば,沿岸地域など丘陵地区以外の地区についても,宅地のかさ上げ費用の助成等の必要があり,貴市独自の被災者支援策を積極的に講ずることを要望します。
3 建築制限について
貴市は,建築基準法第39条に基づき,沿岸部の災害危険区域に建築制限を課すことを計画しています。
しかし,同条による建築制限は,権利制約の程度が強く,この建築制限が長期に及ぶと,被災者がこれからの復旧・復興の見通しを立てることが困難となるおそれがあります。
ついては,被災者の権利制約が必要最小限度に止まるよう,さらに,被災者の生活再建の目途が早期に立てられるよう,同条による建築制限の対象地区の選定及び建築制限期間の決定について,くれぐれも十分かつ慎重に検討されるよう要望します。
4 地域社会・まちづくりへの配慮について
東部沿岸地区においては,防災集団移転促進事業が予定されていますが,同事業の対象外の地区の一定数の被災者も他地域に移転(転出)することも予想されます。
その場合,住民の転出により従前形成されていた地域社会が変容してしまい,住民転出が激しいと地域社会が衰退してしまうおそれもあります。復興計画策定に際しては,このような事態に陥らないよう住民の意向を十分に調査確認するなどの配慮が必要となります。

第3 避難所運営の見直しについて
1 避難所の運営について
中間案35頁では避難所の課題が述べられています。避難所の運営について,当会は2011年4月14日付け「東日本大震災被災地復興支援に関する第1次緊急提言」において,パーティーションの設置や女性用更衣室を設けたり,乳幼児がいる世帯を同じ部屋に集めるなどの対策を早急に講じ,避難所生活者のプライバシー保護を図るべきであると提言しました。これらのうち一部は対策が講じられましたが,パーティーションの設置は最後まで不十分であったと思われます。
また,中間案では福祉避難所について触れられていますが,福祉避難所以外の通常の避難所においても,十分な数の医師や看護師の確保,医薬品や医療機器の援助等,避難所に避難する病者,高齢者の生命と健康を守るための措置を講じられるようにしておくことが望まれます(前掲第1次緊急提言でも触れています)。
2 震災精神疾患自宅生活困難者の避難所入所について
今回の震災では,自宅マンション自体は大きな被害を受けなかったものの,在宅中に被災したことにより心的外傷後ストレス障害(PTSD)やパニック発作等の精神疾患が発症又は悪化したため,恐怖感等のPTSD症状やその他の精神疾患症状故に自宅で生活することが困難となり,車中生活を余儀なくされている被災者が出ていました。
当会は,2011年8月25日付け「震災精神疾患自宅生活困難者の応急的な居住場所確保に関する提言」において,生存権保障の観点からこのような被災者に対しても避難所入所を認めるべきとの意見を述べましたが,今後改善されるべき問題と考えます。

第4 「復興計画の推進」について
~市民の意見反映と専門家の支援制度の充実化
中間案51頁では,「市民一人ひとりは,それぞれの地域のコミュニティとともに復興の当事者であるとの意識を持ち,自分たちや将来の市民が安全で安心に暮らすことのできるよう,復興まちづくりに主体的に関わることが求められます。」としています。
市民一人ひとりが復興まちづくりに主体的に参画することの必要性はそのとおりです。ただし,それを担保するためには,市民の意見が復興計画及びその遂行過程において十分に反映される仕組みが必要です。そこで,そのような仕組みの一つとして,弁護士等専門家の支援を積極的に取り入れる方策も検討されるべきと思料します。
具体的には,貴市が取り組んでいるまちづくり支援専門家派遣制度を広く広報して活用するなどして,町内会や自治会に専門家を派遣し情報・知識の提供や助言を行うことが考えられます。また,そのための費用についても,政府の復興構想会議提言において,「住民主体の地域づくりを支援するためには,まちづくりプランナー,建築家,大学研究者,弁護士などの専門家(アドバイザー)の役割が重要である」(11頁)とされている以上,復興事業費として国に全額負担を求めるべきと思料します。
また,併せて,震災復興計画が策定された段階で,従前の震災復興検討会議が活動を終えた後は,改めて,継続的に被災者のニーズ調整を図り,これを具体化し,かつ実現するための機関を仙台市の組織の中に設置すべきであり,また,この機関の構成員の拡充が図られる必要があります。具体的には,研究者に加え,弁護士等の実務専門家や女性を含めた住民代表を構成員に加えるべきです。

以 上

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