大阪市職員に対するアンケート調査に関する会長声明
大阪市(橋下徹市長)は,本年2月9日,同市職員に対して,氏名,職員番号,所属部署を明記させた上で,組合活動や政治活動に関する回答を求めるアンケート調査を実施し,その際市長メッセージとして,「市長の業務命令として,全職員に,真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。」と告知している。
しかしながら,地方公務員も地位利用による選挙運動(公職選挙法136条の2)や政党その他の政治団体の結成関与・役員就任(地方公務員法36条1項),その属する自治体の区域内における選挙運動(同条2項)などが限定的に禁止されているほかは,一般国民と同様,プライバシー権(憲法13条),思想・良心の自由(憲法19条),政治活動の自由(憲法21条),及び団結権(憲法28条)を有するところ,本アンケート調査は,以下に述べるように,市職員の基本的人権を著しく侵害するものであって,憲法上許容されない。
第一に,本アンケート調査は,労働組合への加入の有無や組合活動・政治活動(特定の政治家を応援する活動で,求めに応じて知り合いの住所等を知らせたり,街頭演説を聞いたりする活動も含む。)への参加の有無,組合活動及び選挙運動に関する見解といった市職員の思想信条又はこれと密接に関連する事実についての回答を強制している。これは,思想・良心の自由として絶対的に保障されるべき沈黙の自由(思想の告白を強制されない又は思想を推知されない自由)を侵害するものである。
また,厳密には思想信条に関わるとはいえない事実に関する情報であっても,市職員にとっては私的事項に関するものと思料されるところ,そういった情報を強制的に収集することは,市職員のプライバシー権(自己情報コントロール権)の侵害にもなる。
そして,このような思想・良心の自由やプライバシー権を侵害する調査は,市職員の政治活動に対する萎縮効果を発生させ,政治活動の自由も侵害する。
第二に,本アンケート調査は,違法ないし不適切と思われる組合活動の調査という名目の下,労働組合への加入や組合活動への参加の有無などについて回答を強制し,また任意としているものの組合活動の内容や誘った人の氏名,組合に加入することのメリットや加入しないことによる不利益についての見解,組合に待遇等の改善について相談したことの有無などの回答を求めている。これは,正当な組合活動も対象にしてその参加人員や活動内容を調査しようというものであり,本来使用者からの独立が保障されている労働組合に対する監視行為に等しく,組合活動を妨害する支配介入として,団結権を侵害するものである。
また,本アンケート調査は,市職員が労働組合に加入し又はとどまって組合活動を行うような労働基本権の行使に心理的圧迫を与えることで,その行使を抑止させる効果を有するものである。
当会は,本アンケート調査による人権侵害の重大性に鑑み,このような憲法に違反するアンケート調査を行ったことに強く抗議し,今後,再び行うことのないように求める。
2012(平成24)年4月6日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 髙 橋 春 男