個人版私的整理ガイドラインの弁済期間の柔軟な運用について
一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会
代表理事 高木 新二郎 殿
金融庁長官 畑中 龍太郎 殿
申 入 書
(個人版私的整理ガイドラインの弁済期間の柔軟な運用について)
仙台弁護士会
会長 髙 橋 春 男
第1 申入れの趣旨
1 一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会は,被災者の生活及び事業の再建,被災地の復興・再活性化という個人版私的整理ガイドラインの目的に鑑み,弁済計画案における弁済期間について事案に応じて5年を超えることも認める等,被災地の実情を踏まえた柔軟な運用をされたい。
2 金融庁は,一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会が,前項記載の適切な運用をするよう指導監督されたい。
第2 申入れの理由
1 「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)は,未曾有の大災害となった東日本大震災の影響によって,住宅ローン等の既存債務の弁済が困難となった被災者の生活及び事業の再建を支援し,ひいては被災地の復興・再活性化を図ることを目的として策定された制度であり,その運用は一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会(以下「運営委員会」という)によって担われている。
2 ところで,東日本大震災においては,地震,津波等により全壊12万9944戸,半壊25万8839戸,一部損壊71万1839戸という膨大な件数の建物被害が生じているが(平成24年6月6日現在・警察庁緊急災害警備本部),残存した建物の相当数については,震災後補修がされており,現在もなお被災者の生活基盤たる住居として使用され続けている(被災住宅の修理を支援する応急修理制度の申込みは,被災3県で7万7282件にも及んでいる(平成24年3月1日時事通信))。
被災者が,それまで生活の基盤となっていた住居を補修等により維持し,住み慣れた生活環境,コミュニティのなかで生活再建を果たしたいと考えることは,極めて当然の願いである。また,被災者が従前の生活基盤において生活再建をはかることは,被災者の迅速かつ安定的な生活再建を可能にし,またコミュニティの維持にもつながり,ひいては,被災地の復興・再活性化にも資することになる。
3 この点,ガイドラインでは,被災者が土地建物の価値相当額を債権者に弁済することにより,当該土地建物の保有を継続するという内容の弁済計画案を認めている。そして,その弁済を分割で行う場合の期間は「原則5年以内」と規定している。
ところが,土地建物の価値相当額については,被災した土地建物であっても,その復興計画や現況によっては必ずしも低額になるとは限らず,1000万円を超える鑑定評価がなされる事案も出てきている。しかも,東日本大震災の影響により失業や減収となった被災者も少なくなく(失業した被災者は12万人に及ぶとの報道もされている),仮に減収がなくとも多くの被災者は家財等の購入など生活再建費用に相当の負担をしていることが多い。さらに,建物を維持するために多額の修理費用等の支払いを余儀なくされる被災者も多い。
このような被災地の実情から,被災者が住居の保持を希望しているにもかかわらず,土地建物の価値相当額を5年間という短期間で弁済することが困難な事案は少なくない。被災者が住居を保持しつつ生活再建をはかるためには,5年を超える長期分割払いによる弁済計画案が認められる必要がある。
4 しかしながら,現時点において,運営委員会は,「原則5年以内」とするガイドラインの定めに固執した厳格な運用を行っており,そのため,ガイドラインの申出を躊躇せざるを得ない状態に陥っているとの事例も報告されている。
このような事態は,被災者の生活や事業の再建,被災地の復興や再活性化というガイドラインの目的に反するものであることは明らかである。
5 よって,当会は,被災者の生活及び事業の再建,被災地の復興・再活性化というガイドラインの目的に鑑み,一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会に対しては,弁済計画案における弁済期間について事案に応じて5年を超えることも認める等被災地の実情を踏まえた柔軟な運用をすることを求め,金融庁に対しては,運営委員会が適切な運用を行うよう指導監督することを求めるものである。
以 上