改正貸金業法完全施行後2年を迎えるにあたっての会長声明
2006年(平成18年)12月に改正貸金業法(以下「改正法」という)が成立し,その後2010年(平成22年)6月18日に改正法が完全施行されてから,まもなく2年を迎えようとしている。改正法前,多重債務問題は深刻な社会問題となっており,その原因である高金利,過剰融資,過酷な取立てに対する抜本的な改革が求められていた。
貸金業法の改正に向けた取り組みは,日本弁護士連合会において,上限金利引き下げ実現本部を立ち上げたのを受け,当会においても会を上げて推進してきた重要課題であった。このような取り組みが実を結び成立した改正法は,「上限金利の引き下げ」や「総量規制の導入」などを内容とする画期的なものであり,改正法成立時には全国で200万人を超えると言われていた「借入件数5件以上」の多重債務者の数は,現在約44万人にまで激減している。
また,2006年(平成18年)には年間約17万人であった自己破産者の数は,昨年は年間約10万人に減少するとともに,多重債務を理由とする自殺者は改正法成立前と比べほぼ半減しており,同法の改正は多重債務対策として極めて大きな成果を上げている。
改正法成立時に危惧されていたヤミ金融業者(以下「ヤミ金融」という)の増加の懸念についても,2011年(平成23年)4月に行われた金融庁の委託調査によれば,同法の完全施行後に金融機関に借入れ申込みをした2082人のうち,希望どおりの借入れができずヤミ金融融から借入れをした者は10人とのことであり,回答者全体に占める割合はわずか0.48%に過ぎない。
さらに,中小企業の資金繰りの悪化の懸念についても,金融庁による全国の商工会議所へのアンケート調査では,中小企業の資金繰り悪化の要因としては販売不振や震災の影響などが大きな比重を占め,改正法の影響はきわめて小さいことがわかっている。
それにも関わらず,国会内では,一部の議員から「正規の業者から借りられない人がヤミ金融から借り入れせざるを得ず潜在的なヤミ金融被害が広がっている」とか「零細な中小企業の短期の借り入れが出来なくなくて経営に行き詰まっている」等として,改正法の中核である金利規制や総量規制の見直しを求める意見が唱えられている。
しかし,ヤミ金融が増えていることを示す具体的事実は存在せず,現時点で法規制を緩和する必要は全くないというべきである。ヤミ金融規制については,2008年(平成20年)10月から施行された犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律による口座利用規制が大きな成果を上げたことからわかるように,金利の引き上げではなく,取り締まりの徹底化によって根絶していくべきである。
また,社会が二極化し貧困層が拡大していることに鑑みれば,「高利に頼らなくても生活できる」セーフティネットの再構築や生活困難者への総合的な支援体制のさらなる充実こそが,今求められる重要な課題と言うべきである。そして,中小事業者に対しては,2009年(平成21年)12月の中小企業金融円滑化法が施行され,その期限が切れる来年3月以降に備えて,すでに政府は「中小企業経営力強化支援法案」を閣議決定しており,円滑化法で支払い猶予を受けた中小企業推計43万社については,今後,立ち直る会社,廃業に至る会社,経営支援が必要な会社ごとに総合的な経営支援をすることが求められている。
我々は,改正貸金業法が完全施行されてから2年を迎えるのを機に,改正法の成果を踏まえ残された諸課題にも積極的に取り組んで行くことを確認するとともに,改正法の成果を帳消しにしてしまいかねない金利規制・総量規制の緩和に強く反対する。
2012年(平成24年)6月13日
仙台弁護士会
会長 髙橋春男