死刑執行に関する会長声明
平成20年(2008年)9月11日、東京拘置所において1名、大阪拘置所において2名の各死刑確定者に対し、死刑が執行された。今年に入って、既に13名(2月1日3名、4月10日4名、6月17日3名、9月11日3名)の死刑が執行されたことになり、高いペースでの死刑執行がなされていると言わざるを得ない。
死刑については、1989年12月の国連総会で死刑廃止条約が採択され、当時の国連人権委員会は、1997年4月以降毎年、日本などの死刑存置国に対し、死刑廃止に向けて死刑の執行を停止することを求めている。また、2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告では、死刑の執行を速やかに停止すべきことなどが勧告され、同年12月18日には、国連総会において、日本を含む死刑存置国に対し、死刑制度の廃止を視野に入れた死刑執行停止などを求める決議が採択された。その決議に先立つ2007年12月7日のわが国における死刑執行に対して、国連人権高等弁務官から強い遺憾の意が表明された。
国際的にみても死刑廃止国は着実に増加し、2008年2月現在、死刑存置国62か国、死刑廃止国135か国である。アジアにおいても、カンボジア、ネパール、東チモール等が全面的に死刑を廃止したほか、韓国や台湾でも、事実上死刑の執行が停止されており、死刑廃止ないし停止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
いうまでもないが、わが国では、4つの死刑確定事件(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)の再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが、このような誤判が生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善が図られていない。
このような状況の中、近時重罰化の傾向が進み、2007年の1年間で47人もの被告人に死刑判決が言い渡されており、2年連続で年間の死刑判決言渡数が増加し、死刑確定者の人数も100名を超えている。このようなペースでの死刑執行は、国際社会における死刑を抑制しようとする潮流に逆行するものといわざるを得ない。
しかも、我が国では、死刑執行を決定するにあたり、誰がいつどのような基準でいかなる記録・資料をもとに判断するのか、執行方法は具体的にどのようなものか、また、死刑判決確定から執行までどのような処遇がなされ、死刑確定者においてどのような心情が形成されるのかなど、重要な情報はほとんど明らかにされていない。わずかに2007年12月の死刑執行から、死刑囚の氏名等が公表されているにすぎず、死刑に関する本質的情報を前提とした国民的議論はほとんどなされていない。
当会は、これまで、1997年9月25日、1998年7月31日、2002年10月16日の会長声明において、死刑制度に関する情報が明らかにされず死刑問題に関する議論がないままでの死刑執行が極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対して、今後死刑の執行を差し控えるべきとの強い要請を重ねてきたが、今回の死刑執行は、そのような議論を一切行うことなくなされたものであり、誠に遺憾である。
当会は、改めて法務大臣に対し、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう重ねて強く要請するものである。
2008(平成20)年9月26日
仙台弁護士会
会 長 荒 中