消費者が主役の消費者行政新組織の実現を求める会長声明
近年、食品の安全・表示分野における輸入冷凍餃子への毒物混入事件、こんにゃくゼリーによる窒息死事故や一連の食品偽装表示事件、製品の安全分野におけるガス湯沸かし器一酸化炭素中毒事故、シュレッダーによる指切断事故、取引分野における大和都市管財事件、英会話教室NOVA事件、悪質商法被害や多重債務被害など、多くの分野での消費者被害が次々と発生ないし顕在化した。そして、これら被害を救済・防止できない消費者行政の仕組みや体制の問題性が指摘されている。
また、各地の消費生活センターなど地方自治体の相談窓口による相談・あっせん解決は、消費者にとって身近で頼りになる被害救済手段として重要である。しかるに、自治体の地方消費者行政予算は、ピーク時の平成7年度には全国200億円(都道府県127億円)だったものが平成19年度は108億円(都道府県46億円)に落ち込むなど年々削減されており、地方の相談窓口は、十分な相談体制がとれない、あっせん率低下、被害救済委員会が機能していないなど、多くの問題を抱えている。
福田総理大臣は、消費者・生活者重視への政策転換、消費者行政の一元化・強化の方針を打ち出した。自民党消費者問題調査会は本年3月19日、「産業育成官庁から独立し、消費者・生活者目線で他省庁に司令を出す『消費者庁』の新設(強い監督権限)」、「地方消費者行政の充実」「違法収益のはく奪」「相談窓口の一元化」などを骨子とする最終とりまとめを行い、民主党も消費者保護官(オンブズマン)構想を提言するなど、野党各党も検討を進めている。本年3月27日には国民生活審議会総合企画部会報告のとりまとめ、政府が設置した消費者行政推進会議でも、4月2日、「消費者主役の行政のかじ取り役として強力な権限を持った新たな組織の創設」「消費者が頼れるわかりやすい窓口の設置」「国と地方双方の消費者行政の一元化」などを検討すべきとの論点整理を行い、5月中にも最終報告を取りまとめる予定である。
このような中、福田総理大臣は、本日開催された同会議において、「『消費者を主役とする政府の舵取り役』となる消費者庁(仮称)を来年度から発足させる」との意向を明らかにした。そこで示された、消費者に身近な問題を取り扱う法律は消費者庁に移管すること、地方消費者行政の強化などの諸方針は、当会の後記の提言と方向性を同じくするものとして高く評価できる。
当会は、昨年、宮城県消費生活センターの民間委託が検討され始めたことを契機に消費者行政のあり方について調査検討を重ね、本年4月19日「消費者行政一元化と地方消費者行政の強化策を考える」シンポジウムを開催、同月消費生活センター民間委託問題に関する意見書を採択するなど、この問題について精力的に取り組んできた。
当会は、消費者の権利擁護の理念に立ち、消費者が主役の消費者行政を実現するため、以下のような権限・機能を有する新組織や制度の創設を強く求める。
1 新組織が消費者政策の企画・立案を行うとともに、消費者被害が多発する主要な分野については事業者に対する規制権限を直接行使できるよう、関係法の所管を新組織に移管し、又は必要な立法を行うこと。
2 消費者の苦情相談が国及び地方自治体の消費生活相談窓口で適切に助言・あっせん等により解決されるよう、地方の相談体制の拡充、情報の集約と発信、国と地方の連携等の施策を推進できるような制度・体制を構築すること。
3 消費者、事業者、公益通報者等からの被害関連情報を、新組織が一元的に集約し、調査・分析・公表する権限と原因究明機関を持つこと
4 新組織ないし関係省庁が調査把握した情報に基づき、違法収益の機動的な凍結及びはく奪を行い、被害者に分配する制度を導入すること
5 新組織が消費者の権利擁護の理念の下にその責任を果たせるよう、消費者団体に新組織に対して調査や勧告権限発動を求める申立権を付与するなど、新組織の運営に消費者が参加したりこれを監視する制度及び消費者・消費者団体の活動を支援する制度を整備すること
2008(平成20)年4月23日
仙台弁護士会
会 長 荒 中