1 2007年6月に陸上自衛隊情報保全隊(現在は自衛隊情報保全隊,以下「情報保全隊」という。)が個人・団体の動向を監視し,その情報を系統的に収集・分析していた資料の存在が明らかになった際,当会は同年7月18日付け「陸上自衛隊情報保全隊による国民監視活動に抗議しその中止を求める会長声明」を発した。しかし,その後も情報保全隊が引き続き国民の種々の活動を監視していた実態が新たな内部資料(2010年12月1日付け,同年12月15日付け,同年12月22日付けの各週報)の発覚により明らかになった。
これらの新たな内部資料(各週報)は現在仙台高等裁判所に係属中の自衛隊情報保全隊監視差止等訴訟において提出されたものであるが,これらの内部資料から認められる情報保全隊の活動実態の概要は以下のとおりである。
① 情報保全課は,当該週に報告された主要な事項及び翌週の主要な予定を整理し,今後の注目点を示す目的で毎週「週報」を作成している。
② 「週報」には,「王城寺原演習場近傍地域(色麻町内)において『11.22米軍実弾砲撃演習やめよ!宮城県(現地抗議)集会」における大和町議の発言(12月1日付け週報)や「自衛隊の国民監視訴訟を支援するみやぎの会」が約60名を集め,仙台市内において「裁判の勝利をめざす総決起集会」を行ったこと(同週報),「12.8開戦記念日関連動向」(12月15日付け週報)などといった市民集会のほか,「地方自治体等の動向」として自治体の首長や自治体幹部の言動(各週報),2010(平成22)年11月28日投開票が行われた沖縄知事選の候補者の動向・結果分析(12月1日付け週報)などが記録されている。
③ また,12月1日付け「週報」は,「横田基地の撤去を求める西多摩の会」の座り込み行動について,通算回数を明記しているほか,「今回の行動での動員数,主張内容に,過去の取り組みとの変化は認められない。」と継続的に監視していなければ記載できない内容も記録されている。
④ さらに,各「週報」には,「イスラム勢力・国際テロ組織関連動向」という項目において,全国のモスク(イスラム寺院)へ礼拝に訪れたイスラム教徒を分類し,特異動向の有無や人数も下一桁まで記録されている。
2 当会が前記2007年7月18日付け会長声明及び2012年4月6日付け「仙台地裁判決を受けて,改めて自衛隊情報保全隊による国民監視活動の中止を求めるとともに秘密保全法制の法案化に反対する会長声明」において指摘したように,情報保全隊による国民監視は立憲主義に反し,プライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害するものである。
また,情報保全隊は,上記のような集会やデモ行進の監視のみならず,「イスラム勢力・国際テロ組織関連動向」という項目のもと,全国のモスク(イスラム寺院)へ礼拝に訪れたイスラム教徒を監視している。このような監視活動は,表現行為及び宗教行為に対する強い萎縮効果をもたらし,ひいては表現の自由及び信教の自由に対し重大な脅威を与えるものである。
そもそも,情報保全隊の任務は,自衛隊の保有する内部情報の流出や漏洩の防止にあり,情報収集活動はその任務に必要な範囲内でしか許されない。しかるに,上記情報保全隊の監視活動は自衛隊の内部情報の流出や漏洩防止とは無関係であって,その範囲を逸脱していることは明らかであり,法的根拠を有しない違法な活動である。
3 にもかかわらず,2010年12月時点においても情報保全隊が人権保障の理念を顧みず国民監視を継続していたことは由々しき事態である。そして,現在も同様のことが継続して行われている疑いを払拭させるような情報もない。
4 よって,当会は,このような憲法や人権保障を無視する情報保全隊による国民監視を即刻中止するよう改めて強く求める。
また,このような憲法違反の監視活動も,法案提出が企図されている「秘密保全法」が制定されてしまうと「特別秘密」として「保護」され,これを明らかにして追及しようという国民の行為や監視活動を内部告発することが「犯罪」として処罰されかねない。当会は,このような事態を生じさせる「秘密保全法」の制定に断固反対する。
2013(平成25)年3月13日
仙台弁護士会
会長 髙 橋 春 男