民間競売手続きの導入に反対する会長声明
1 民間競売導入の動き
政府の規制改革会議及び自民党司法制度調査会(明るい民間競売プロジェクトチーム)において「競売手続きの合理化、迅速化などのため」としてアメリカの競売制度を参考とした民間競売手続きの導入が検討されている。民間競売手続きとは裁判所が関与しない非司法手続きによる競売手続きのことをいう。
現在、検討されている案は、融資時に債権者と債務者、所有者との間で競売の実行方法を取り決め、実行時には民間オークション方式により売却を行おうとするものである。この案によると、現行の裁判所の競売手続で作成されている現況調査報告書、評価書、物件明細書(いわゆる3点セット)が作成されず、売却価格の下限制限も設けることなく、競売手続が実施されることとなる。
2 現行競売制度の運用状況
現行の競売手続については、引渡命令の対象拡大、不当な執行抗告の制限、保全処分の活用等によって、不当な執行妨害を排除し、透明かつ迅速な手続とするための改善がなされてきた。平成18年度においては、不動産競売事件の約4分の3は申立から半年以内に売却実施処分に付され、売却率も全国平均で約81%、東京、大阪においては100%に近い数字となっている。このような状況下において、現行の競売手続を大きく変更して民間競売手続を導入する必要性は見当たらない。
我が国におけるこれまでの競売手続に関する中心的な課題は、暴力団をはじめとする反社会的勢力や悪質な競売ブローカーなどによる執行妨害を排除し、公正で開かれた競売制度を確立することにあり、その方向での改善が着実に進んでいるのである。
3 民間競売手続の問題点
民間競売手続においては、いわゆる3点セットが作成されないため、担保物件についての的確な情報を入手することができず、一般人が競売に参加することが困難になる。その結果、競売に悪質な金融業者や不動産ブローカーが参加し、反社会的勢力の資金源として暴力団関係者に利用されることも懸念される。これは、安心して多くの買受希望者が参加できる開かれた競売制度を目指してきた担保執行法制の流れに明らかに逆行するものである。
また、売却価格の下限制限がなくなれば、担保物件が低い価格で売却される可能性が高くなる。アメリカでは、担保物件の売却後は債務者や保証人に残債務を請求できないノンリコースローンが広く普及しているため、担保物件の売却価格が債務者や保証人に影響を与えることはない。しかし、ノンリコースローンが普及していない日本では、担保物件が低い価格で売却されれば、残債務について支払い義務を負う債務者や保証人に大きな不利益を与えることとなる。
さらに現在、検討されている案は、融資時に予め債権者と債務者・所有者が民間競売手続に合意するというものであり、債務者らの選択権を認める体裁をとっている。しかし、融資時における債権者と債務者らとの力関係からすれば、債務者らは債権者の意向に従わざるを得ず、事実上民間競売手続を強制されることになりかねない。
4 結論
当会は、民間競売手続については、①新たに導入する必要性がないこと、②競売手続の公正や透明性の確保が困難になること、③債務者、保証人の保護に欠けることになるなど多くの問題点があることから、同手続の導入に強く反対するものである。
2008(平成20)年3月24日
仙台弁護士会
会 長 角 山 正