本年4月26日,東京拘置所において2名の死刑確定者に対する死刑の執行が行われた。谷垣禎一法務大臣による2度目の死刑執行である。
死刑は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を内包している。また,わが国の刑事裁判においては,4つの死刑確定事件(免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)の再審無罪判決が確定し,死刑確定事件における誤判の存在が明らかになっている。このように,死刑は誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものである以上,当会はこれまでも政府に対して,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行い,その間死刑執行を停止するよう求めてきた。
これに対して,政府は,国民世論の多数が極めて悪質,凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えていること,多数の者に対する殺人,誘拐殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況にあること,死刑制度の存在が長期的に見た場合の国民の規範意識の維持に有用であることは否定し難く,死刑制度は,凶悪犯罪の抑止のために一定の効果を有しているものと理解していること,を理由に死刑制度を廃止することは適当でないという見解を示している(平成20年2月12日付第169回国会衆議院質問49号に対する政府答弁書)。 しかし,殺人等の凶悪犯罪数の推移,死刑廃止国における凶悪犯罪の発生率,死刑の犯罪抑止力に関する研究成果等の情報をはじめとして,死刑確定者の処遇・心情・その形成過程,被害者遺族の死刑確定者に対する心情の変化の有無等の重要な情報が国民に周知されていない状況における世論調査は,死刑制度を正当化するものとしては説得力に乏しいと言わざるを得ない。我々国民が,死刑制度の存廃について十分に議論を尽くして意見を形成するためには,まず上記の情報のほか,死刑執行の意思決定の基準・手続,執行方法,被害者遺族の権利保障の実情,死刑制度に関する国際動向などといった死刑に関する情報が広く公開されることが必要である。 さらには,政府見解のいう死刑の犯罪抑止効果は科学的・統計的に証明されているとは言い難い。
今回の死刑執行は,このような国民への情報公開,国民間の議論を尽くさない中で行われた。 当会は,このような死刑執行に対して深い憂慮の念を示すとともに,死刑を執行した政府に対して強く抗議する。
また,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることに鑑み,2013年4月時点で死刑廃止国(事実上の廃止国を含む)は140か国となり世界の71%の国が死刑廃止国となっている国際的潮流を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始することを強く要請する。
2013年(平成25年)5月22日
仙 台 弁 護 士 会
会長 内 田 正 之