憲法第96条は憲法改正発議要件として衆参各議院の総議員の3分の2以上の特別多数の賛成を要すると定めている。近時,この定めを過半数に緩和する旨の主張が複数の政党からなされている。 しかし,このような改正発議要件の緩和は,以下に述べるとおり,立憲主義を著しく軽視し,基本的人権の保障を危うくしかねないものであるから,当会はこれに強く反対する。
憲法は,基本的人権を守るために,国家権力の組織を定め,たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても権力が濫用されるおそれがあるので,その濫用を防止するために国家権力に縛りをかけている(立憲主義)。また,憲法が,最高法規性を有するのは(憲法第98条),基本的人権の永久・不可侵性(憲法第97条)を実質的な根拠とするものであり,憲法第96条の厳格な改正手続は,この基本的人権尊重の理念を実質的な根拠とする憲法の最高法規性を支えるものである。
憲法第96条の厳格な憲法改正発議要件は,全国民を代表する国会議員による慎重かつ十分な討論・審議を通して合意形成が行われることを制度的に担保したものであって,多数派による横暴を防止し,基本的人権を保障する機能を有する。まさに,立憲主義の思想に基づくものであって,基本的人権の保障を核心とする最高法規にふさわしいものである。また,改正発議要件の緩和は,時の政権の都合によって安易に憲法の改正が発議されることを可能にし,その結果,国の基本法である憲法の安定性を損なうことにつながるのであって,立憲主義軽視も著しく,基本的人権の保障を危うくしかねない。
ところで,改正発議要件の緩和を主張する改正論者の中には,厳格な改正発議要件が国会での発議を困難とし,国民投票や国民の意思表明の機会を狭めていると主張する者もいる。しかし,この主張は,前述のとおり,全国民を代表する国会議員による慎重かつ十分な討論・審議・合意形成を疎かにしかねず,結論を国民投票による単純多数決に委ねてしまうおそれがあり,容認できない。
よって,当会は,憲法第96条の改正発議要件の緩和に強く反対する。
2013年(平成25年)6月14日
仙 台 弁 護 士 会
会長 内 田 正 之