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東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権につき,早急に,短期消滅時効の適用を排除する立法措置を求める意見書

2013年06月14日

東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権につき,早急に,短期消滅時効の適用を排除する立法措置を求める意見書

 

2013年(平成25年)6月14日

仙台弁護士会 会長 内 田 正 之

 

第1 意見の趣旨

東京電力福島第一原子力発電所の事故により生じた原子力損害の損害賠償請求権に関し,2013年(平成25年)5月29日に成立した「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律」では全面的な被害者の救済とならないことから,少なくとも,平成25年度中に3年間の短期消滅時効(民法724条前段)の適用除外を定める立法措置を行うべきである。

 

第2 意見の理由

1 2011年(平成23年)3月11日に東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という)が発生してから既に2年3か月が経過した。

本件事故は,避難対象区域に居住していた約21万人の生活基盤を根こそぎ奪い去り,今なお多くの人々が福島県内外において長期にわたる避難生活を強いられている。さらには,農漁業,観光業等に対する風評被害を生じさせるなど,本件事故による被害は,広範囲にわたり極めて深刻なものとなっており,しかも,これらの被害は今なお継続し,その終息も見えない状況となっている。それのみならず,事故の性質上,本件事故から長期間を経過した後に新たな被害が顕在化する危険性も秘めている。

宮城県内においても,本件事故直後から福島県からの被害者が多く避難していることに加え,とりわけ福島県と隣接する県南地域における放射線量が高い数値で推移するなど,福島県内と変わらない被害状況に置かれている。また,農漁業,観光業等に対する深刻な汚染被害,風評被害等も発生している。

このような被害状況を踏まえ,東京電力株式会社(以下「東京電力」という)は,本件事故の被害者に対し,本件事故に起因する損害について十分な損害賠償を行い,被害者の全面的な救済を行うことが強く求められている。

 

2 今回成立した「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律」(以下「本法」という)は,本件事故の被害者から東京電力に対する損害賠償請求(民法709条,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という)第3条)に関し,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」という)に対する和解の仲介の申立てに時効中断効を付与し,和解仲介手続が打切りとなった場合でも打切りの通知を受けた日から1か月以内に裁判所に訴訟提起すれば,和解仲介申立時に訴えを提起したものとみなすという内容となっている。

本法に対しては,原紛センターに和解仲介の申立てをした被害者に関して時効中断効が付与される点について一定の評価はできる。

しかし,和解仲介申立てをした被害者は,平成24年末時点においてわずか1万3030名ほどに過ぎず,その利用はごく一部の限られたものにとどまっており,本法によっても被害者の救済を十分図ることはできないことは明らかである。さらに,時効中断効は和解仲介申立てをした損害項目に限られる可能性があるために被害者が全損害項目についての申立てを強いられる事態になりかねないこと,訴訟提起のための準備期間がごく短期間であること,本件事故後,長期間経過してから被害が顕在化する可能性などを考慮すれば,本法は被害者にとって極めて酷な結果を招来する危険を孕むものであって,不十分な内容であると言わざるを得ない。

 

3 本法は,本件事故の損害賠償請求権の本質が不法行為であり,消滅時効について民法724条前段が適用され「損害及び加害者を知った時から3年間」の短期消滅時効により消滅することを前提としている。

しかし,本件事故による被害が広範囲にわたる深刻なものであって,この被害状況が今後も長期間継続するという特質を有することに鑑みれば,被害者に事故や被害発生から短期間での本件事故における損害賠償請求を行うことを期待することは困難であり,一方,東京電力の,短期消滅時効により早期に損害賠償請求の範囲が確定され被害者との間でどのような損害賠償責任を負うのかなどについての不安定な地位から解放されるであろう信頼は保護に値しない。

そうなると,本件事故の損害賠償請求について,権利の上に眠る者を保護しない,あるいは,法的安定性を図るといった短期消滅時効の趣旨が妥当する余地はなく,本件事故の損害賠償請求権についてはそもそも短期消滅時効(民法724条前段)の適用は除外されなければならないものである。

 

4 東京電力は,本件事故の損害賠償請求権について,原子力損害賠償紛争審査会が損害賠償の範囲等に関して示した中間指針などに基づき賠償請求の受付を開始した,平成23年9月を起算点とするとの見解を公表するとともに,時効期間が経過しても消滅時効を援用せずに賠償に応じる姿勢を打ち出している。

しかし,このような見解もあくまで現段階のものであって今後変更される危険を残すものであるし,そもそも加害者である東京電力に損害賠償請求権の存否の判断を委ねることは被害者の地位を過度に不安定にするものである。このような東京電力の対応では被害者の救済としてなお不十分であると言わざるを得ない。

 

5 本法の決議に当たっては,衆議院において「東京電力福島第一原子力発電所事故の被害の特性に鑑み,東日本大震災に係る原子力損害の損害賠償請求権については,すべての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう,短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して検討を加え,法的措置の検討を含む必要な措置を講ずること」との付帯決議が,参議院において「東京電力福島第一原子力発電所事故の被害の特性に鑑み,東日本大震災に係る原子力損害の賠償請求権については,全ての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう,平成25年度中に短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して,法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」との付帯決議がそれぞれなされている。

 

6 なお,本件事故による被害の特殊性,また,チェルノブイリ原発事故においては事故発生後25年を経過した後でも,新たな被害が発生し続けているとの事実が報告されていることに鑑みれば,本件事故にかかる損害賠償請求権については,10年経過後に時効によって消滅すること(民法167条第1項)も,20年経過後に除斥期間によって消滅すること(民法724条後段)も許されないものと考えるべきであるが,とりわけ来年3月11日の経過をもって本件事故の損害賠償請求権について3年間の短期消滅時効が成立し得る事態は絶対に回避されなければならない。

 

7 よって,当会は,国に対し,参議院の付帯決議の内容を実現し,本件事故の損害賠償請求権について,少なくとも,平成25年度中に3年間の短期消滅時効の適用除外を定める立法措置を講じることを強く求める。

以  上

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