憲法改正手続法案(国民投票法案)に反対し参議院での慎重審議を求める緊急会長声明
与党は、2007年(平成19年)4月13日、衆議院本会議において日本国憲法の改正手続に関する法案(いわゆる国民投票法案)を強行採決した。与党は参議院においても5月3日までに本会議採決を目指しているとされる。
しかし、同法案には、国民に対する中立公正な情報提供、自由かつ十分な投票運動の保障、投票結果への国民意思の正確な反映等の観点から重大な疑義が存在する。これらの問題点については既に2006年(平成18年)7月7日の東北弁護士会連合会大会決議、同年8月22日付け日本弁護士連合会意見書、当会の2007年(平成19年)2月24日の総会決議において指摘されているところである。
憲法96条1項の「国民の承認にはその過半数の賛成を必要とする」の意味については諸説があるが、憲法が、憲法改正について国民の承認という特別の手続を定めたのは、憲法改正は主権者である国民自らの意思によらなければならないという国民主権原理に基づく。そして国民自らの意思による改正と言えるためには、少なくとも改正に賛成する票が白票や無効票を含む全投票総数の過半数を超えたときに国民の承認があったものとされるべきである。
しかしこのように解したとしても最低投票率の制度を設けなければ、投票率が低い場合、投票権者の少数の賛成で憲法改正が可能となってしまうが、それでは国民自らの意思による憲法改正とは到底評価できない。従って国民自らの意思による憲法改正と言えるためには一定の最低投票率の定めが不可欠である。
もっとも最低投票率の定めについては、憲法がそれに言及していない以上そのような制度を設けることは憲法に違反するとの見解もある。しかし、最低投票率の制度は、最低投票率にも達しないような投票結果では真に国民自らの意思とは評価できないので「国民の承認あり」とすべきでないとの考えに基づくものである。従って最低投票率の定めはむしろ憲法96条1項の要求するところであって、条文が最低投票率に言及していないとの一事で憲法に違反すると考えることは妥当でない。
そして最近の世論調査によれば、最低投票率の定めが必要とする意見は79%にも達している。また昨日仙台市で開催された参議院地方公聴会においても、公述人は最低投票率の定めは絶対に必要との考えを述べている。
しかるに与党案は最低投票率の定めを欠いている。与党案については、それ以外にも、公務員及び教員の投票運動を禁止していること、憲法改正の発議後投票日14日前までの有料意見広告を可能にしていること、発議後投票日までの期間が短すぎること等重大な問題点が指摘されている。
ところが与党は衆議院において、拙速審議との強い批判にもかかわらず与党単独での強行採決を行った。そして今また参議院送付後僅か2週間程度で再び強行採決を目指している。主権者たる国民の意思が正確に反映されるよう万全を期すべき国民投票法案についてかかる拙速な審議がなされることは誠に由々しき事態と言わねばならない。
当会は、我が国の在り方の根幹に関わる国民投票法案が、上記の重大な問題を残したままで制定されることに断固反対である。参議院においては、さらに全国各地で公聴会を開催するなど国民の意思を十分に汲み取り、良識の府にふさわしい慎重な審議を尽くすよう強く求めるものである。
2007年(平成19年)4月25日
仙台弁護士会 会 長 角 山 正