国選弁護報酬・費用の大幅増額と予算措置を求める決議
1 憲法37条3項は,被告人に国選弁護人を付する義務を国に課している。
また,被疑者の弁護人依頼権は憲法上保障されているが,貧困等のため弁護人を依頼できない被疑者に対しては,憲法と国際人権法の諸規定に鑑み,国が弁護人を付す責務を負っているというべきであり,平成18年10月から実施された被疑者国選弁護制度も,こうした憲法上の要請を受けて定められたものである。
このような憲法上の要請を受けて活動する国選弁護人の職責は極めて重いものであり,国は国選弁護人に対してその職責に応じた適切な報酬と実費を支払うべきである。
しかるに,国は,これまで国選弁護人報酬額を極めて低額な報酬にとどめ置いてきたばかりか,記録謄写料,交通費等の実費を原則として支給しなかった。これは,国選弁護人制度の実施にあたり,被告人の権利擁護のために努力する弁護士の犠牲的活動に依存し,国の経済的負担を不当に回避してきたものと言わざるを得ない。
このような視点から,当会はこれまで,二度にわたる会長声明において国選弁護報酬の引き下げに厳重に抗議するとともに,適正な報酬額にするよう求めてきた。
2 このような経過の下において,平成18年5月に定められた日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」に基づく国選弁護報酬及び費用(以下「新算定基準」という。)は,以下のとおり,極めて低額に据え置かれてきた報酬額をさらに減額したばかりでなく,加算基準の内容において極めて不合理な点があり到底容認できない。
まず,被告人国選弁護の基礎報酬は,これまでの報酬額を更に下回るもので低廉に過ぎる。
次に,被疑者国選弁護の報酬は,接見回数に2万円を乗じた金額(但し初回接見2万4000円)となっている。
そもそも,被疑者弁護活動は接見に尽きるものではなく,事実調査を行なったり,自白強要等不当な取調べを阻止したり,家族との意思疎通を図ることで社会復帰に向けての環境を整備したり,示談を進めたり,また被疑事実及び情状について検察官に意見を述べるなどの様々な活動を含む。従って,接見回数のみによって報酬額を決定することに合理性がないことは明らかであり,別途基礎報酬を設定する必要がある。
また,新算定基準によれば,報酬の特別成果加算として,示談成立が挙げられているものの,犯罪事実すべてについて示談が成立しなければ全く加算されないこととなっている。しかし,一部についての示談であったとしても,その成立のため弁護人が一定の活動をした結果,執行猶予や減刑の可能性が高まるのが通常であることからすると,このような成果を特別加算の対象とすべきは当然である。
更に,被疑者弁護における起訴猶予,嫌疑不十分・嫌疑なしによる不起訴処分,被告人弁護における執行猶予や無罪及び保釈等の獲得に対する特別成果加算が認められていない。しかし,これらの結果は,弁護人が被疑者等に有利な情状,被疑者等と犯罪事実とのつながりを否定する事情や当該行為が犯罪を構成しない理由,また保釈を認めるべき相当な事情等を検察官や裁判所に対して主張した結果であることが通常であり,類型的に見れば,まさに弁護人の諸活動の成果であることは明らかであって,このような成果を特別成果加算の対象とすべきは当然である。
実費についても,新算定基準によれば往復100キロメートル未満では弁護活動のための交通費の支払はなされず,200枚以内の謄写枚数に対して記録謄写料の支払さえなされないこととなっている。しかし,弁護活動に必要な実費さえ支給しないことは,低額な国選弁護報酬をさらに実質的に削減することを意味し,到底容認できない。
3 平成21年には,被疑者国選弁護の対象が必要的弁護事件に拡大し,国選弁護制度を支えるために弁護士はさらなる経済的犠牲を求められ,前述した問題点が一層その深刻さを増すことは明らかである。
そこで,当会は,持続可能性のある国選弁護制度の確立のためには制度を支える弁護士に対して適切な報酬及び費用が支払われるべきであるという視点から,日本司法支援センターに対しては,国選弁護報酬・費用の大幅増額及び合理的な加算基準を求めるとともに,国に対しては上記増額のために必要な予算措置を求める次第である。
以上のとおり,決議する。
平成19年(2007年)2月24日
仙台弁護士会 会 長 氏 家 和 男