犯罪被害者参加人制度及び付帯私訴制度導入に強く反対する決議
1 法制審議会は,平成19年2月7日,被害者参加人制度及び付帯私訴制度を柱とする要綱を決定した。これを受けて政府は,今国会に法案を提出する構えである。
しかし,上記両制度は,現行刑事裁判制度の根幹を揺るがすものであり,その導入は断じて容認することができない。
2 被害者参加人制度は,故意に人を死傷させた事件等について,犯罪被害者や遺族(以下,「被害者等」という。)に,在廷することを認めた上で被告人に質問し,証人に対しては情状に関する内容について質問し,そして検察官の論告求刑後,独自に論告求刑をするなどの権限を付与するものであり,「参加人」と称しつつも,まぎれもなく訴訟当事者としての地位を認めるものである。
しかし,近代刑事司法制度においては,私的復讐が公的刑罰に昇華された結果,国家と被告人が対立当事者として予定されることとなり,ここに私人としての被害者等が当事者として加わることは,法廷を復讐の場に逆行させる大きな危険を孕むものである。
いうまでもなく,被告人は,有罪判決が確定するまでは無罪と推定されなければならない。被害者等が刑事裁判に当事者として参加することは,当該被告人が犯人であることが前提となっており,無罪推定の原則が侵害される結果となる。
本制度が導入されるときには,被告人が,被害者等から怒りや悲しみなどを前面に出した質問を直接に受けることになり,時には供述したいことを控えざるを得なくなるなど防御活動を萎縮させる可能性が極めて高い。
また,被害者が在廷すること,及び直接に質問又は論告求刑を行うことは,特に平成21年に実施される予定の裁判員裁判においては,裁判員の情緒に強く働きかける結果,証拠に基づいて冷静になされるべき事実認定について不当な影響を与える危険性も強い。
更に,被害者等の直接関与により,検察官の訴追活動と異なる被害者等の訴訟活動が行われれば,検察官の訴追方針との不整合が生じ得ることは容易に予想されるところであり,被告人は,それら全てに対して防御することを余儀なくされ,防御すべき対象が拡大することとなり,被告人の防御を著しく困難にする。
3 付帯私訴制度は,有罪判決言渡直後に,刑事事件と同一の裁判官が引き続き刑事裁判で認定した事実や,刑事記録を証拠として,被告人に対する損害賠償額を決定するというものである。
しかし,そもそも,同制度は起訴後何時でも付帯私訴申立書を提出することが許されているため,同申立書記載内容が証拠法則の吟味を受けずに裁判所が目にすることを意味し,まさに証拠裁判主義に反し,ひいては予断排除,無罪推定原則にも抵触する。特にこの弊害は,刑事裁判についての経験に乏しい裁判員による裁判において顕著であるといわざるをえない。
また,そもそも刑事事件と民事事件には,立証責任の所在や自白法則等,重要な相違点がある。刑事裁判に引き続き損害賠償命令を出せるとすることは,刑事裁判と民事裁判との相違点を無視することを意味する。
更に,この制度においては,被告人及び弁護人としては,過失相殺など損害賠償請求についての審理で争点となると予測される事項を強く意識して審理に対応せざるを得なくなり,刑事訴訟が遅延するとともに,争うこと自体が量刑上不利な情状として考慮されるおそれを感じることで,十分な防御権の行使ができなくなる恐れもある。
4 以上述べてきたとおり,両制度には大きな問題点があり,これを導入することは到底容認できないので,当会は,政府に対し,このような制度を含む刑事訴訟法の改正案を国会に提出しないように求めるとともに,国会にも上記改正案を成立させないよう強く求める次第である。
以上のとおり,決議する。
平成19年(2007年)2月24日
仙台弁護士会 会 長 氏 家 和 男