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生活保護受給者の住居の確保についての意見書

2013年12月13日

2013年(平成25年)12月13日

生活保護受給者の住居の確保についての意見書

           仙 台 弁 護 士 会

会長 内 田 正 之

 

第1 意見の趣旨

1 厚生労働大臣は、大臣告示をもって定めている生活保護の住宅扶助特別基準について、被災地域である宮城県・仙台市における支給上限額を、賃料の上昇率に見合った額に引き上げるべきである。

2 宮城県内の各福祉事務所は、生活保護受給者の意向を踏まえた上で、生活保護の住宅扶助代理納付制度を活用することや、住宅の確保を支援する人員を配置するなどの住居の確保に向けた策を講じるべきである。

 

第2 意見の理由

1 生活保護法における賃料の支給について

生活保護法第11条3号及び第14条1号は、生活保護の扶助の1つとして住宅扶助が行われることを定め、また、住宅扶助について同法33条1項本文は「住宅扶助は、金銭給付によつて行うものとする」としており、地代や家賃について原則として金銭給付によることが規定されている。

その金額については、昭和38年4月1日厚生省告示第158号・別表第3 住宅扶助基準の2により、都道府県又は中核市ごとに厚生労働大臣が別に定める額の範囲内とするとされている。

上記を受けて厚生労働大臣が具体的に定めた基準のうち、宮城県(仙台市を除く)と仙台市を取り上げると、各級地及び世帯人数別の上限額は以下のとおりである。

宮城県(1級地・2級地)

     1人世帯 3万5000円

     2~6人世帯 4万5100円

     7人世帯 5万5000円

    (3級地)

     1人世帯 2万8000円

     2~6人世帯 3万7000円

     7人世帯 4万5000円

仙台市 1人世帯 3万7000円

     2~6人世帯 4万8000円

     7人世帯 5万8000円

2 宮城県・仙台市における生活保護受給者の住宅事情

(1)賃貸住宅の供給の減少

現在、宮城県内、特に仙台市内では、生活保護受給者またはこれから生活保護を受給しようとする者が、新たに住宅を借りることが困難になっている。

その理由の1つとして、東日本大震災によってそれまで住んでいた住宅を失った被災者が数多くおり、賃貸住宅市場において新たな住居を求める需要が供給を上回る状況が続いているため、借主を募集している賃貸住宅の絶対数が少ないことが挙げられる。

このことを裏付けるデータとしては、仙台市の推計で、震災直前の平成23年3月1日時点の人口104万6737人・世帯数46万5811世帯とされるところ、平成25年10月1日時点の人口106万8511人・世帯数48万5397世帯と、震災を経て約2万人・2万世帯が増加していることが挙げられる。つまり、増加した人口・世帯の多くは賃貸物件に入居したと考えられるので、その分だけ入居可能な賃貸住宅が減ったということは想像に難くない。

そのため、従来であれば、住んでいる賃貸住宅の賃料が上記の住宅扶助の支給上限額を超える場合、上限額を超える家賃を生活扶助相当部分から支出することになり世帯の生計を圧迫することを理由として、福祉事務所は保護受給者に対し、当該賃貸住宅から住宅扶助上限額基準内の賃貸住宅への転居を指示し、保護受給者もそれに従って転居をしていた。しかし、現在の宮城県内及び仙台市内の賃貸住宅の供給が少ない状況下では、福祉事務所から転居の指示を受けても転居先を見つけることができず、住宅扶助支給上限額を超える部分の家賃を、生活扶助相当部分からやりくりして支払い続けなければならない事例も少なくない。

(2)賃料の上昇傾向

また、各都市の2009年第1四半期から2013年第2四半期までの賃料の動向をまとめた「マンション賃料インデックス」(アットホーム株式会社作成)によれば、仙台市の賃貸マンションの賃料は、2009年第1四半期を100とした場合、その後の指数が右肩上がりを続け、2013年第2四半期では総合では118.88、ファミリータイプに限れば122.77となっている。

他都市が横ばいもしくはやや上昇(総合で、仙台市以外で最も上昇した大阪市でも108.17)という程度にとどまっていることからすると、特異な上昇傾向を示している。

しかし、住宅扶助の上限を定める額が引き上げられることはなかったため、生活保護受給者の住宅探しの困難さは一層増すこととなった。

(3)家賃滞納リスクと「代理納付」の活用の遅れ

また、生活保護受給者の中で、長い期間路上生活をしていたり、あるいは知的な障害があったりして金銭管理の能力が十分ではない者が、賃料を滞納させる事例があり、そういったことから貸主が、生活保護受給者に対して賃貸住宅を貸すことを躊躇するという事態も生じている。

このように、住宅扶助が支給されながら賃料の滞納が生じることを防ぐため、「代理納付」の制度が設けられている。

住宅扶助の支給について定める生活保護法第33条4項は、「世帯主又はこれに準ずる者」に交付するとしているところ、平成18年4月1日より施行された同法第37条の2及び同法施行令第3条によって、住宅扶助を、賃貸住宅の貸主(「当該被保護者に対し法第14条各号に掲げる事項の提供に係る債権を有する者」)に対して直接支払うことが認められることとなった。このような直接払いを行うことを「代理納付」と呼んでいる。

このような「代理納付」が行われれば、賃料滞納のリスクが減少することとなるため、賃貸物件の貸主が、生活保護受給者に対して住宅を貸しやすくなることが期待される。

厚労省も、このような「代理納付」について、住宅扶助の流用を防ぐという観点から、積極的に活用するよう求める通知を複数回にわたり発出している。

しかし、宮城県・仙台市では、公営住宅については「代理納付」の活用が一部で進んでいるものの、民間の賃貸住宅についてはほとんど進んでいない。

3 厚生労働大臣・県内各福祉事務所に求められる対策

以上のような状況を改善するため、厚生労働大臣及び県内各福祉事務所には、以下のような対策を講じることが求められる。

(1)厚生労働大臣に求められる対策

上記2(1)で見てきたように、現在の宮城県、特に仙台市における賃貸住宅の供給量は少なくなっており、特に住宅扶助の支給上限額の範囲内で借りられるような世帯向けの物件は、供給が極めて限られている現状がある。

そこで、住宅扶助の支給上限額を定める権限のある厚生労働大臣に対しては、被災地域である宮城県・仙台市において、生活保護受給者が従前の住宅扶助の支給上限額の範囲内の賃貸住宅を見つけることが困難であることを考慮し、震災が賃貸住宅市場に与える影響が収まるまでの間は、住宅扶助の支給上限額を賃料の上昇率に見合った額に引き上げるよう要請する。

(2)県内各福祉事務所に求められる対策

県内福祉事務所に対しては、「代理納付」の活用を進めることが、生活保護受給者に対する賃貸住宅の供給を増やす可能性があることを踏まえ、公営住宅に限らず民間の賃貸住宅についても、本人の意向を確認した上で「代理納付」を活用するよう求める。

この点、「代理納付」制度の活用については、①賃貸住宅の貸主に、制度への理解を求める作業に時間と労力を要するという問題があるほか、②生活保護受給者であることを貸主に知られることになる(プライバシーの問題)、③生活保護費が受給者に全額渡されるべきであるという原則に反するなどの否定的見解もある。

しかし、①については、導入時にそのようなコストはかかるものの、一度導入すればその後も継続するものであって、一時的なものにとどまる一方、導入によるメリットの方が大きいと考えられる。

②③の問題については、本人の意向確認を条件とすることで、解決が可能であると考える。

ただし、住宅の確保が困難な生活保護受給者又はこれから生活保護を受給しようとする者については、代理納付の制度が導入されるだけで入居が可能となるものではないと思われる。

例えば、埼玉県では、無料低額宿泊所に入居している生活保護受給者のアパートへの転居を支援するために、専門的な職員である「住宅ソーシャルワーカー」を置いている。生活保護ケースワーカーの抱える世帯数が多く、個別の受給者の居宅の確保まで手が回らない現状を考えれば、このような施策を講じることも検討されるべきである。

以 上

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