1 近時、国会等において、証券・金融、商品を横断的に一括して取り扱う「総合的な取引所」実現のための検討が行われているが、本年6月19日、内閣府担当副大臣は、衆議院経済産業委員会における総合取引所での円滑な運営のための法整備に関する議論の中で、商品先物取引について「金融と同様に不招請勧誘の禁止を解除して、取引所取引については行えるようにする、そのような方向で推進をしてまいりたい。」との答弁を行い、総合取引所における商品先物取引について、不招請勧誘禁止規制を撤廃することを検討していることを明らかにした。しかし、このような方針は、以下に述べるような商品先物取引の被害実態や不招請勧誘禁止規制が導入されるに至った経緯を軽視するものであり、到底受け入れることはできない。
2 我が国では、1960年(昭和35年)頃から、商品先物取引の存在や危険性を知らず、当該取引をする必要もない一般消費者に対して、商品取引員の電話や訪問などによる営業が行われるようになり、重大な被害が多発するようになった。特に2000年(平成12年)から2004年(同16年)頃にかけては、国民生活センターに毎年4000件を超える苦情・相談が寄せられ、生活資金を一挙に失って人間不信、家庭崩壊、精神疾患、自殺などの悲惨な状況に追いやられた事案や、被害者自身が横領等の罪を犯してしまう事案など、深刻な被害・結果が後を絶たなかった。こうした深刻な被害実態と原因分析を踏まえ、被害の元となる勧誘自体を抜本的に規制する必要性が認識され、2009年(平成21年)の商品取引所法改正でようやく不招請勧誘禁止規定が導入された。
それにもかかわらず、前記内閣府担当副大臣の答弁に加え、内閣府第137回消費者委員会(本年11月26日)において、金融庁等から、「法令及び業界の自主規制」「不招請勧誘禁止以外の代替措置」などにより被害を防止できる旨の発言がなされ、不招請勧誘規制の撤廃に向けた動きが勢いを増している。
3 不招請勧誘の禁止規定が導入されて以後、商品先物取引に関する相談・被害数は著しく減少しており、不招請勧誘の禁止が被害を防止する極めて有効な方策であることは明らかである。また、商品先物取引被害については、今なお適合性原則違反等による業者の違法性を認める判決が出されていることに鑑みると、「法令及び自主規制」を中心とした消費者・委託者保護方策が有効に機能することを期待することは困難である。さらに、「不招請勧誘の禁止規定以外の代替措置」についても、現時点において実効的な代替措置は示されていないのであり、撤廃論者が唱える「不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ない」ことを裏付ける根拠は認め難い。
4 不招請勧誘規制を維持することは昨年8月に公表された「産業構造審議会商品先物取引分科会報告書」においても、「同規制の施行後1年半ほどしか経過しておらず、引き続き相談被害の実態を見守りつつ、できる限り効果分析を試みていくべき」として、規制の維持が確認されたばかりである。それにもかかわらず、上記報告書の公表から1年程しか経過していない今の時期に、特段の検証もせずに規制の撤廃を検討することは、これまでに繰り返されてきた被害の深刻さと、規制の導入の意義とを著しく軽視するものに他ならない。
5 以上のような理由から、商品先物取引について不招請勧誘禁止規制は維持されるべきであり、同規制を撤廃することに対して、強く反対する。
2013年(平成25年)12月13日
仙 台 弁 護 士 会
会長 内 田 正 之