1 はじめに
間もなく,東日本大震災の発生から3年を迎えようとしている。この間,徐々にではあるが,震災被害からの復旧・復興が進みつつある一方で,現在でもなお多くの被災者が仮設住宅等での生活を余儀なくされ,いまだ生活再建の見通しが立たず,将来に対する不安に苛まれている。また,被災地域における復興事業は,その計画が策定されたものの,事業ごとの縦割りの弊害等により柔軟かつ迅速な復旧・復興活動ができず,その結果,いまだに事業再建の見通しがつかない事業者も数多く存在する。
2 当会のこれまでの活動等
(1)被災者に対する直接的な支援
当会は,震災発生後,被災者と被災地の復旧と復興を支援し,もって基本的人権を擁護し社会正義の実現を図るという弁護士本来の責務を果たすべく,会の力を結集して全力で取り組むことを宣言するとともに(「東日本大震災の復興支援に関する宣言」2011年(平成23年)5月20日),被災者の意思を最大限尊重し,被災者一人一人が立ち直るための「人間の復興」という基本視座のもと,被災者一人一人の生活再建のための支援活動を続けてきた。
当会は,法的支援を必要とする被災者の要望に応えるべく,震災直後から,日本司法支援センター等関係機関と連携し,無料電話相談や県内全域にわたる無料巡回相談を実施し,多くの相談に対応してきた。さらに,いわゆる震災特例法のもと,当会法律相談センターにおいて多くの無料法律相談を実施し,現在も多くの相談に対応している。
また,震災直後に創設した震災ADR制度も利用件数は500件を超え,震災に起因する多数の紛争を短期間で解決に導くことができた。
これらの震災直後からの当会の活動は,被災者の精神的支援,被災者への情報提供,被災者間の迅速な紛争解決の機能を果たしたことはもとより,被災者支援に関する立法事実の収集の側面からも有意義なものであった。
(2)制度・立法に関する提言・意見表明
また,当会は,震災直後からの相談活動や震災ADRで得られた情報を立法事実として,被災者の生活再建,震災復興に関し,日弁連その他関係機関とともに,多くの提言や意見表明を行ってきた。その数は,東日本大震災以降,40件を超える。
その結果,今年度は,平成25年6月19日に,罹災都市借地借家臨時処理法の見直しに関する「大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法」,いわゆる被災マンションの解体要件の緩和を求めた建物の区分所有権等に関する法律の見直しに関する「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」が,それぞれ成立した。また,原発事故被害に関する消滅時効の問題についても,同年12月4日,時効期間を3年から10年に延長する「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」が成立した。
さらには,いわゆる被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)に関し,当会は,個人版私的整理ガイドライン運営委員会の不当な運用等の是正を求めて会長声明を発するとともに,継続的に協議を行ってきた。その結果,不当運用は是正されるとともに,同年10月30日には同運営委員会により「個人版私的整理ガイドライン運用規準」が策定され,制度利用の予測可能性が高まり,利用対象者の要件も従前と比して一定程度緩和されるに至っている。
3 今後対応すべき問題について
上記のような法律の制定及び運用の改善は行われているものの,復旧・復興が徐々に進む中で,以下のような問題も出現している。
(1)まず,災害弔慰金の問題である。昨年末の新聞報道で,宮城県に震災関連死の審査を委託している市町においては,震災発生から半年が経過した以降に死亡した方について関連死の認定が1件もない,という報道がなされた。この問題については,当会においても,事実関係の分析をしたうえで,住民に向けた広報等,改善に向けた提言等をしていく所存である。
(2)次に,被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)に関する問題である。同制度については,一時期見られた不当運用も是正され,また,数次にわたる運用改善の結果,運用開始当初に比較すれば被災者にとって利用しやすい制度となっている。しかしながら,同制度の利用者数は,現時点においても低迷しており,必ずしも同制度に期待された役割を十分に果たしているとは言い難い状態にある。一人でも多くの被災者が救済されるよう,運用のさらなる改善が求められるとともに,関係諸機関との連携のもとに,利用促進に向けた取り組みが今後も求められる。
また,同制度に関しては,債権者にとって強制力のない「私的整理」であるがゆえの限界も指摘されているところである。「災害大国」といわれる我が国において不可避的に発生する二重ローン問題への対応策として,被災ローン減免制度の成果と問題点を踏まえ,今後は制度の立法化も含めた検討がなされるべきである。
(3)第三に,被災事業者の二重ローンに関する問題である。この問題に関し,東日本大震災事業者再生支援機構及び産業復興機構がそれぞれ設立され,被災事業者の相談,債権買取等を通じた事業再建支援を行っている。支援件数は増加しつつあるが,いまだ震災の影響による過大な債務負担が事業再建の妨げになっている事業者は少なくない。被災地の復興のためにも,さらなる柔軟かつ弾力的な運用が求められる。
(4)第四に,原子力損害賠償に関する問題がある。上述のように,東京電力に対する原子力発電所事故の損害賠償請求については,3年の短期消滅時効の時効期間が延長される特例法が成立し,本年3月で時効期間の経過により損害賠償請求ができなくなるという事態は回避できた。しかし,これはあくまでも損害賠償請求権の行使の期間を確保したものにすぎず,被害救済のさらなる具体化は今後の課題である。被害者が速やかに適切な賠償を受けることができるよう,提言等の取り組みをしていく所存である。
(5)第五に,防災集団移転促進事業や土地区画整理事業等に関連し,移転先用地の確保や用地買収の際に,土地所有者の相続関係や行方不明者の問題があり,復興事業が中断してしまうという問題である。当会としては,個人の財産権を尊重しつつ,大規模災害にあたっての復興促進という観点から,新たな法制度の策定も視野に入れた提言等を行う所存である。
4 法制度の抜本的検証
以上のほかにも,子ども,高齢者・障がい者,外国人等のいわゆる災害弱者がかかえる懸案等,復旧・復興過程において生じている課題は山積みであるが,さらに,被災地における復興の事業は,既存の法制度の枠組み,行政機能にとらわれてしまっているがために,事業ごとの縦割りの弊害等が生じ,各被災自治体において,柔軟かつ迅速な復旧・復興活動ができていない,それがために被災者・被災事業者の再建が遅々として進まない,という現状がある。
そこで,いわゆる災害特区をはじめとする災害法制の総合的・抜本的検証をし,復興に関する予算の確保と配分方法,自治体における復興計画策定とそれに関する住民合意形成の在り方,自治体のマンパワーの確保と自治体相互間の支援の方策,被災住宅の移転と再建方法及び防災と復興等の観点から,現在及び将来にわたって,改善すべき点を明らかにするとともに,来るべき大災害に備えた十分な法制度の整備が図られなければならない。
これら検証作業は,被災地弁護士会である当会に課せられた使命ともいうべきものであり,今後,この重要課題に全力を注ぐ決意である。
5 まとめ
いまなお被災者は,いわゆる二重ローン問題,雇用先の確保,住宅の再建等をはじめとする様々な現実的な問題に直面し,多くの不安を抱えている。東日本大震災から3年を迎えるにあたり,当会は,引き続き「人間の復興」という基本的視座に基づき,より一層充実した相談体制の構築,情報提供の充実を図り,被災者の不安を解消し,被災者の生活基盤の確保・充実のための法的支援や被災地の復興に向けた支援活動に邁進するとともに,併せて災害法制の総合的・抜本的検証に取り組む決意であることをここに宣言する。
2014年(平成26年)2月22日
仙 台 弁 護 士 会
会長 内 田 正 之