共謀罪の新設に反対する会長声明
2006(平成18)年5月現在、衆議院において、共謀罪新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」の審議がなされている。
当会は、昨年度までに2度にわたり、この共謀罪の新設に反対する会長声明を出した。
与党は法案審議の過程で、当初の政府法案を修正する法案を提出した。しかし、この与党修正案をもってしても、当会が上記の会長声明で指摘した問題点は解決されていない。このまま立法がなされるときには市民の思想・信条の自由が侵害され、ひいては情報伝達や情報発信という自由な活動に対する萎縮効果が見込まれ、これを看過することは到底できない。
まず、上記政府法案及び与党修正案の最大の問題点は、犯罪の共謀があっただけで犯罪が成立することである。現行刑法では、共謀段階で犯罪が成立するのは、内乱罪・外患罪のみであり、きわめて重大な犯罪に限定されているが、政府法案及び与党修正案では615もの犯罪について、共謀を行っただけで犯罪が成立することとになる。
しかも、共謀のみによって共謀罪の成立を認めるということは、犯罪の抽象的な危険の存否すら不明な段階であっても、犯罪に関する会話や通信をしたことだけで犯罪が成立するとされる虞がある。例えば、マンション建設反対運動の話し合いをしただけで、威力業務妨害共謀罪に当たるとして逮捕される可能性があるのである。
また、政府法案及び与党修正案では、共謀とは犯罪実現の意思を通じることとされており、構成要件として抽象的であり明確性を欠いている。かかる抽象的、不明確な構成要件の共謀罪の捜査においては、特定の行為だけで構成要件該当性を認定することができないため、市民の思想、信条まで捜査対象となり国民の思想信条を侵害する虞がある。さらに、共謀の事実の捜査の名のもとに捜査機関が市民の一般的な会話を傍受したり、電話や電子メールのやり取りを監視する事態も予想される。このような捜査方法が認められるならば、市民の情報伝達や情報発信という自由な活動が萎縮することは避けられない。
結局、共謀罪を新設し、615もの犯罪について、その共謀のみをもって犯罪の成立を認めるということは、思想信条の自由を侵害し、民主主義を支える市民間の自由な情報の流通、とりわけ表現の自由に対する重大な脅威となるものであり、到底容認することはできない。
よって、当会は、あらためて、上記政府法案及び与党修正案に対し、強く反対することを表明するものである。
2006(平成18)年5月18日
仙台弁護士会
会 長 氏 家 和 男