耐震強度偽装問題についての会長声明
2005年11月、虚偽の構造計算書に基づき設計施工された複数のマンション等について構造耐力が建築基準法の耐震基準を大きく下回り、倒壊の恐れもあるという事実が発覚し、その後同様の被害が次々と明らかになるなど、いわゆる「耐震強度偽装問題」が広がっている。
この問題に関して、虚偽の構造計算書を作成した建築士、設計事務所、販売業者、施工業者らが法的責任を負うべきことはもちろん、同計算書の偽装を見逃した指定確認検査機関の責任、並びに、同検査機関の確認検査業務について最終的に責任を負担すべき特定行政庁の責任は重大である。また、確認検査制度の民間開放を推進するに際し本件の如き偽装行為の発生を未然に防止するための制度設計を怠った国の責任もまた看過し得ないものがある。
当会は、本年7月23日に、日本弁護士連合会及び東北弁護士会連合会との共催により、仙台市において、「中間検査制度の現状と課題」というテーマのシンポジウムを開催し、「安全な住宅」を確保するという観点から同制度を検証した。その結果、施工途中に第三者機関によって行われる中間検査は、それが適切に実施されれば、安全な住宅を確保する有効な手段であることが確認されたものの、現状では、中間検査が不十分であることなど、多くの問題が存在することが明らかになった。また、日本弁護士連合会が1998年3月18日付で建設大臣宛に提出した「建築基準法改正についての申入書」では、指定確認検査機関が営利を目的とする株式会社であるが故に、受注量の増加を企図して安易かつ杜撰な検査に走ることが危惧されるため、同検査機関に対する特定行政庁による指導監督が重要であることなどの課題を指摘していた。今回の耐震強度偽装問題は、上記シンポジウムや日弁連申入書が指摘した、確認・検査制度の問題点が不幸にも現実化したものである。
今回の問題は、本年11月11日に開催した日本弁護士連合会人権擁護大会において決議した「安全な住宅に居住する権利」を現実に侵害し、我が国の住宅の安全性や建築清算システムに対する市民の信頼を根本から脅かす重大な事態を招来した。国及び地方自治体は、被害者に対する救済策を速やかに実行に移すとともに、国民の「安全な住宅に居住する権利」を確保し、建築生産システムに対する信頼を回復するために、建築確認・検査制度の抜本的な改善を図るべきである。
更に、宮城県内でも被害発生の可能性が指摘されている現状に鑑み。宮城県・仙台市他県内で確認検査業務を行っている特定行政庁に対し、以下1)2)のとおり、緊急に県民及び市民の不安感を早急に除去するための施策を講じるべきことを要望するとともに、国土交通省に対し、地方自治体が緊急施策を速やかに実施するため国として必要な助言勧告を行うよう求める。
1)民間確認検査機関に立ち入るなどして、確認・検査業務が適正に行われているかどうかを厳格調査すること
2)宮城県内のホテル、マンション等のうち耐震強度偽装が疑われる建築物について、設計図書や構造計算書を再点検したり、相談に応じるなど、マンション管理組合や所有者らの不安を早急に除去するための緊急体制を整備すること
2005年12月14日
仙台弁護士会
会長 松坂英明