「拡声機の使用による暴騒音の規制に関する条例」の一部を改正する条例案に対する会長声明
1 新聞報道によれば、宮城県は、「拡声機の使用による暴騒音の規制に関する条例」(以下、単に「条例」という)の一部を改正する条例案を県議会2月定例会に提出するとのことである。
2 当会は、条例の制定に先立ち、1991年(平成3年)11月20日の会長声明において、拡声機使用について規制の必要性があることは認めつつも、その規制は、憲法上保障され民主主義政治にとって不可欠な基本的人権である市民の表現活動の自由を損なうものであってはならないとの見地から、条例の問題を4点にわたって具体的に指摘した。
3 今回の改正案は、 ①暴騒音の測定方法の変更、 ②拡声機の使用を要求する者等に対する義務・勧告規定の新設、③暴騒音の再発防止命令の新設及び④虚偽答弁者への罰則の適用の4点とされており、いずれも現行の規制を強化する内容となっている。
①「暴騒音の測定方法の変更」は、10メートル未満の地点においても音量測定可能とするものである。現行の測定方法では、測定場所が地形地物に左右されたり、測定場所が確保できなかったりする場合があるから見直しを行うとするが、改正条例の文言はそのような場合に限定する文言になっていない。これでは、測定者である警察官等が、その判断において、拡声機を使用する者の身近まで接近して音量測定をすることが可能であり、市民の街頭活動への威圧や萎縮効果をもたらすことが懸念される。
②「拡声機の使用を要求する者等に対する義務・勧告規定の新設」は、規制の対象を、拡声機使用者にとどまらずその上位の者や団体(市民団体・労働組合・政党など)さらには拡声機の所有者(管理者)に過ぎない者にまで拡大させうるものであり、規制の対象があまりに広範かつ漠然としている点で、表現活動の自由や結社の自由に対する脅威となる。
③「暴騒音の再発防止命令の新設」は、85デシベルを越える音を発している者が停止命令に従わなかった場合、警察署長が24時間以内なら拡声機使用停止等の措置をとることができるとするものであるが、事前抑制は本来仮処分等の司法的措置に拠るべきであり、法律より下位の条例で、しかも、「警察署長」だけでの判断でこのような表現の自由の事前抑止を可能とすることは立法上も重大な問題がある。
④「虚偽答弁者への罰則の適用」は、現行条例の立入調査の際の立入・調査の拒否・妨害・忌避に加えて、「虚偽答弁」に対して10万円以下の罰金を科すものであるが、立入調査の際の「虚偽答弁」とは具体的にどのような場面を想定しているのか曖昧であり処罰の範囲を不当に拡大するおそれがある。また、質問事項が広範ななかで、「虚偽答弁」を刑罰で処罰することは、結果的には、拡声機使用者の活動や背景の詳細についての情報提供を強要することになりかねず、これまた表現活動の自由や結社の自由に対する脅威となる。
4 このように今回の改正案は、その内容においても、表現の自由や結社の自由など憲法上保障される人権について多くの重大な問題を包含しているといわざるをえず、しかも、改正を必要とする立法事実の存在も不明確であるので、当会は、今回の改正案に対しても反対せざるを得ない。より慎重かつ十分な検討を望む次第である。
2006年(平成18年)2月17日
仙台弁護士会
会長 松坂英明