1 2013年(平成25年)12月、国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する有志の議員によって、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が国会に提出され、今国会において審議されると報道されている。
2 IR議連は、観光振興、地域振興に資する成長戦略の一つとしてカジノ解禁推進法案を位置づけており、いわゆる「IR方式」(統合型リゾート方式。ここでは、カジノ施設、会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設を一体として設置する手法をいう。)を用い、複合施設を作ることで、観光振興と国・地方の経済の活性化、財政への寄与が期待されるとしている。
一方、暴力団の介入や犯罪の温床になることへの懸念、マネーロンダリングへの懸念、地域風俗環境の悪化、公序良俗の乱れへの懸念、青少年に対する悪影響への懸念、ギャンブル依存症患者の増大等の社会的な懸念要因については、カジノを設置運営する民間事業者を適切に管理すること等により払拭できるとする。
3 しかし、カジノ先進国であるアメリカ議会上院の調査報告(米国ギャンブル影響調査委員会報告書:National Gambling Impact Study Commission Report 1999)によれば、カジノ建設によって税収と雇用の増加は認められるものの、他方で多くのギャンブル依存症(病的賭博)患者が生み出されるほか、犯罪、破産、自殺、抑鬱症などの病気が増加し、社会的サービス費用(失業保険や精神治療にかかる費用)、政府の規制費用等の社会的コストが増大することが指摘されている。特にギャンブル依存症については、その治療困難性がつとに指摘されており、カジノ解禁により確実に生じるであろうギャンブル依存症患者にかかる社会的コストは軽視できない。カジノ解禁は、一面では経済振興をもたらすとしても、社会的コストの増加も回避できず、有効な経済成長戦略といえるか、疑問を禁じ得ない。
また、カジノへの暴力団や反社会的集団による介入を完全に排除することは困難であり、したがって、カジノ施設及びその周辺において、犯罪の温床となる、地域風俗環境が悪化する、公序良俗が乱れる、青少年健全育成が阻害される等の悪影響等を引き起こす懸念は大きい。
そもそもカジノは賭博場そのものである。我が国においては、賭博行為は、国民に怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、勤労の美風を害するばかりでなく、犯罪を誘発し、国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれがあるとして禁止されている(刑法第185条及び刑法第186条)。カジノ解禁によってもたらされる悪影響については、この賭博罪の立法趣旨も踏まえ十分かつ慎重な検討がなされるべきであって、経済振興のみをもって推進することは国の政策として失当であると言わざるを得ない。
4 また、被災地においては、住居や職を失った喪失感などから、被災者がギャンブル依存に陥る例が少なくないとされる。ギャンブル依存症が、被災者個人の生活の再建を遅らせかねない。
5 以上のとおり、カジノが解禁されれば、刑事罰をもって賭博を禁止してきた立法趣旨が損なわれ、上記のようにギャンブル依存症患者や、犯罪、破産、自殺等の増加等さまざまな弊害や悪影響が現実化するおそれがある。また、カジノ解禁の唯一の根拠である経済振興自体、同時に生み出される社会的コストを考慮すれば、法案を成立させる根拠となりえない。
よって、当会はカジノ解禁推進法案に断固反対する。
2014年(平成26年)5月23日
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生