日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理すること」を行政書士の業務範囲に加えることを求める運動を推進してきた。本年3月には,「行政書士が作成することができる」を「行政書士が作成した」と修正する案を作成しており,この修正案が今国会に法案として提出され、成立しかねない状況にある。
しかし,以下に述べるとおり,行政不服申立の代理業務を行政書士が行い得るとすることには問題がある。当会は,たとえ対象範囲を上記修正案のように限定したとしても,改正に反対する立場であることを表明する。
第一に,行政書士の立場は行政不服申立ての代理業務と相容れない。
行政書士法は行政に関する手続の円滑な実施に寄与することを主たる目的としており,その担い手である行政書士も,官公署に提出する書類等の作成を主たる業務としている。一方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な処分から国民の権利利益を救済することを目的とするものである。行政手続の円滑な実施に寄与すべき立場にある行政書士にとって,行政庁の行った処分の是正を求めるということは,本質的に相容れない業務である。行政庁の行為に対する行政不服申立ての代理行為は,弁護士自治で国家機関からの独立を担保された弁護士こそが行うべきである。
第二に,行政書士の能力担保は十分ではない。
行政不服申立制度は最終的に国民の権利利益の救済を図ることを目的とする制度であり,その手続の代理人には,十分な能力が担保されていなければならない。また,行政不服申立ての結果によっては行政訴訟の提起が必要になり得ることから,代理人は,行政訴訟の提起とその見通しも視野に入れて手続を進める必要がある。
行政書士には,依頼者の意思内容を整序して書類作成を行うための一般的な法律知識は担保されていても,それを超える高度の専門性が担保されているわけではない。また,行政事件訴訟法や民事訴訟法について精通しておらず,行政訴訟の提起とその見通しまで視野に入れた手続遂行は困難と言わざるを得ない。
第三に,行政書士の倫理綱領は,行政と対峙することを前提としていない。
このような倫理綱領のもとでは,国民と行政庁とが鋭く対立する行政不服申立事案において,行政書士が代理行為を行うことが国民の権利利益に資するのか疑問である。
以上のとおり,行政不服申立ての代理を行政書士の業務範囲に加えることには問題がある。そして,一度これを許せば,本来国民の権利利益を擁護するための制度であるはずの行政不服申立制度が十全に機能しなくなるおそれがある。
弁護士は,これまで行政による違法又は不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。そして,今後も,行政不服申立ての分野にも弁護士が一層積極的に関与していくことが予想される。それにもかかわらず,弊害を生じる危険を冒してまで,これを行政書士の業務範囲に加える必要性は存在しない。
よって,当会は,行政不服申立ての代理業務を行政書士が行い得るようにする行政書士法の改正には反対する。
2014(平成26)年6月12日
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生