共謀罪の新設に反対する会長声明
「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という。)が、第156通常国会に提出され、一度廃案になったものの、現在、第162通常国会において審議されている。そして、その中に、共謀罪(または謀議罪、以下「共謀罪」という。)と呼ばれる新たな犯罪類方の新設が盛り込まれている。 共謀罪とは、団体の活動として、組織により行われるものの遂行を共謀したことだけで処罰するものである。死刑又は無期若しくは長期10年を越える懲役若しくは禁錮の刑が定められている犯罪について共謀した場合には5年以下の懲役又は禁錮の刑に処するものとし、長期4年以上10年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている犯罪について共謀した場合には2年以下の懲役又は禁錮の刑に処するものとされている。
しかし、共謀罪、犯罪の実行行為の着手がないばかりでなく、予備行為さえも行っていない段階で、共謀をしたというだけで処罰するものとなっており、処罰時期を著しく前倒しにするものである。したがって、抽象的危険の存否すら不明な段階であろうとも、会話ないし通信をしたことだけで刑罰を科されることになりうる危険がある。しかも、現行刑法では、予備行為が処罰されているのは殺人ないし放火などの重大犯罪に限られているところ、この共謀罪では、長期4年以上の刑罰が科せられる犯罪について成立が認められていることから、500以上にものぼる非常に広範囲な犯罪が実行前において処罰の対象とされてしまう。
また、「共謀」という不明確な概念を構成要件としているため、刑罰法規の明確性原則に反する。共謀は抽象的概念であるため、特定の行為からその認定は困難であり、行為者の会話のみならず内心にまで踏み込まなければ判断できない以上、行為者の思想、信条、主義にまで捜査機関が調査権限を及ぼすことを招き、その結果、国民の思想、信条の自由を侵害してしまうことになりかねない。そして、思想、信条を表現するための通信、出版などの情報伝達及び外部公表行為に対する萎縮的効果を極めて甚大となる。また、共謀の事実を捜査するためとして、捜査機関が、市民の一般的な会話や電話、そして電子メールのやりとりなどに対する監視ないし管理を強化していくという事態をももたらしかねない。
このように、共謀罪の新設は、民主主義を支える表現の自由、そして個人として最も尊重されるべき思想信条の自由を侵害するおそれがあり、到底受け入れることができないのである。
そもそもこの法案は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条例」(以下「犯罪防止条約」という。)の批准のための国内法を整備するため上程された。それであれば、法規制は犯罪防止条約が求める範囲においてなされれば足りる。ところが、犯罪防止条約においては、その適用範囲は「性質上越境的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」に限定されているにもかかわらず、共謀罪ではこの「越境性」「組織的な犯罪集団の関与」を要件としていない。もって、条約批准に伴う国内法整備という範囲を超えて、過度にその適用範囲を拡大しているものである。
このように、共謀罪の新設は、構成要件の明確性を欠き、更に処罰時期を著しく早め、処罰範囲を一気に拡大して、事実上刑法を全面改悪するに等しい。これは刑法の原則である罪刑法定主義に反し、憲法上の言論の自由、結社の自由などの基本的人権に対する重大な脅威である。
よって、当会は、共謀罪の新設に反対するものである。
以 上
2005年(平成17年)7月20日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 松 坂 英 明