少年法等「改正」法案に対する反対声明
少年法等の一部改正に関する法律案(以下,「改正案」という。)が平成17年3月1日に閣議決定を経て国会に提出され,同年6月14日から衆議院において改正案の審議が開始された。 この改正案は,①少年院送致年齢の下限(14歳)を撤廃すること,②保護観察中の遵守事項違反を理由として少年院等への収容を可能とすること,③触法少年及びぐ犯少年に対する警察官の調査権限を法律上明記すること,④国選付添人制度を検察官関与事件等以外にも拡充することを骨子とするものである。
このうち,④については,家庭裁判所の職権で新たに国選付添人が選任されうる場合を一定の重大事件に限定している点で,未だ十分なものとは言えないが,国選付添人制度を拡充すること自体は積極的に評価できる。
しかし,当会は,多くの会員が付添人活動を通じて非行少年に対する福祉的教育的対応を実践してきた実績に照らして,上記①ないし③については,以下のとおり反対の意思を強く表明するものである。
①について
現行法上,小学生など14歳未満の非行少年を少年院に送致することは認められていない。
低年齢の非行少年であるほど,幼少期からの被虐待体験を含む複雑な生育歴を有していることから,家庭的雰囲気の中で子どもとしての「育ちなおし」の場を保障する必要が高く,そのような役割を担う児童福祉施設として児童自立支援施設が設けられているのである。
家庭内で安定した人間関係を築く体験に欠ける小学生や低学年の中学生を「育てなおす」こと抜きに閉鎖的矯正施設たる少年院に収容しても,他者を受け容れて規範を内面化することを期待できず,再非行の防止策としては全く不適当である。
今回の改正案の背景には,触法少年であっても閉鎖的施設で処遇すべき場合を認めるべきだとの考えがあると思われるが,強制的措置を付した児童自立支援施設送致によっても処遇が困難であるとの立法事実は何ら示されてはいない。ましてや,触法少年への児童福祉的対応という大原則を,報道等で煽られた社会的不安の沈静化策として短絡的に変更することは,決して許されるべきではない。
従って,少年院送致年齢の下限を撤廃することには反対である。
②について
少年法の定める保護観察は,少年が自ら立ち直る力を育てるために保護司らが少年に対して粘り強く働きかけながら試行錯誤を見守ることを内容とする終局的保護処分である。
しかし,改正案は,新たな非行事実もないのに遵守事項違反を理由にして,現に保護観察処分を受けている少年を新たに少年院に送致できるとするものであって,実質的に一事不再理効に抵触し,憲法39条の趣旨に反するものとして許されない。
また,改正案は,保護観察の指導をいっそう効果的にするための措置であると説明されているが,実質的には少年院送致を威嚇手段として遵守事項を守らせようとするものに過ぎず,少年自らの立ち直りを見守るという保護観察制度本来の趣旨を没却する措置である。保護司が対応に苦慮するような少年に対しては保護観察官による専門的な指導援助によって対処すべきである。
従って,保護観察中の遵守事項違反を理由とする施設収容を認めることには反対である。
③について
現行法上,触法少年や14歳未満のぐ犯少年に関しては,警察官には捜査権はもちろん,調査権限も認められていない。
これは,低年齢の少年については,①で述べた特性に加えて,被暗示性・迎合性がとりわけ強いことから,子どもの特性に関する専門的知識と経験をもつ児童相談所が主導権をもって調査を行うことが,事実解明及び処遇選択に資するという考えに基づく。
改正案のとおりに警察官が中心となって触法少年等の取調べを行えば,誤った供述が引き出されて冤罪を生む危険性が高く,専門性の不足から当該少年を心理的に傷付けるおそれもある。
この点,触法事件における児童相談所の調査能力が不十分ではないかとの指摘もあるが,実際には,児童相談所による調査及び家庭裁判所の補充調査によっても事実解明に支障をきたした事例はまったく報告されていない。仮にこうした問題があるとすれば,児童相談所の人的物的資源を強化拡充することによって対処すべきであり,警察官の権限を強化することで解決しようとする改正案には賛成できない。
また,改正案は,ぐ犯少年である「疑いのある者」をも調査の対象としているが,そもそもぐ犯自体が将来罪を犯すおそれのあることを要件とする非行類型であることに照らせば,かかる調査対象の設定は事実上限定を欠き,警察による過度の干渉によってぐ犯少年に対する児童福祉的対応が後退させられる危険がある。
従って,警察官に触法事件等の調査権限を付与することにも反対である。
以 上
2005年(平成17年)6月22日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 松 坂 英 明