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二重ローン問題対策に関する立法措置を求める意見書

2014年11月13日

二重ローン問題対策に関する立法措置を求める意見書(PDF版)

 

二重ローン問題対策に関する立法措置を求める意見書

 

平成26年11月13日

仙 台 弁 護 士 会

会長 齋 藤 拓 生

 

第1 意見の趣旨

1 当会は,国に対し,災害により発生する個人たる被災者の二重ローン問題に迅速かつ的確に対応して,被災者の生活及び事業の再建,被災地の復興・再活性化を目的とする,災害が発生した場合に速やかに適用が可能となる二重ローン問題対策のための立法措置を,可及的速やかに講じることを求める。

2 前項の立法措置には,以下の内容が盛り込まれるべきである。

⑴ 被災者たる個人債務者に対する債権の買取等の業務を通じて,被災者の生活及び事業の再建を支援することを目的とする機構(以下「機構」という)を設立すること。

⑵ 機構による債権買取等の支援の対象となる債務者の要件を定めるにあたっては,被災者の生活及び事業の再建の観点から,既往債務の存在が生活及び事業の再建の支障となると認められる債務者を広く対象とするものとして定められること。

また,被災者の生活及び事業の再建の観点から,対象債務者の要件はできる限り柔軟に解釈・運用する旨の指針規定を定めること。

⑶ 機構による買取の対象となる債権には,少なくとも以下のものが含まれるものとすること。

① 居住用不動産,自家用自動車等の居住用資産,又は事業所・機械設備・船舶等の事業用資産を担保とする債権であって,当該債権の担保の目的となっている物件が災害により滅失,喪失,全壊,半壊その他著しく損傷し,又は使用不能となったもの

② その他,被災者たる個人債務者の生活及び事業の再建のために買取が必要と認められる債権

⑷ 機構は,金融機関等の債権者より,被災者の現在の弁済能力,当該債権の担保の目的となっている財産の価格,将来における弁済の見通し,被災者の生活状況及び被災状況等を勘案した適正な時価により債権を買取るものとすること。

⑸ 金融機関等の債権者は,機構が行う被災者支援のための業務に協力するとともに,機構による債権を買取る旨の決定を尊重するものとすること。

⑹ 機構による債権の買取を行わない旨の決定に不服がある債務者について,不服申立ての手続を設ける等,適切な救済手段を設けること。

⑺ 機構は,買取債権について,被災者の現在の弁済能力,当該債権の担保の目的となっている財産の価格,将来における弁済の見通し,被災者の生活状況及び被災状況等を考慮し,その全部又は一部の免除その他被災者の生活及び事業の再建のために必要な措置をとるものとすること。なお,免除額を算出するにあたっては,「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)の運用において自由財産とされていた財産については,少なくとも被災者が保有できるようにすること。

⑻ 機構による買取決定がなされた個人債務者について,対象債権者は,債務整理や代位弁済に関する情報等(いわゆる事故情報)を信用情報機関に報告,登録しないものとすること。さらに,機構により買取が実行された場合には,買取債権に関する残高に関する情報を信用情報から抹消する等,被災者が新規融資を受けやすくする方策を講じること。

⑼ 機構による債権の買取及び債務免除等により,債権者及び債務者に租税負担が発生することのないよう,必要な税制上の措置を講ずること。

⑽ 機構は,災害の被災地に事務所ないし相談窓口を設置する等,被災者にとって迅速かつ容易にアクセスでき,かつ,被災者及び被災地の実情に応じたきめ細やかな対応をとることが可能な物的体制を整備するものとすること。

また,機構の構成員には被災地において業務を行っている弁護士を一定数含める等,被災地・被災者の実情が制度運用に適切に反映される人的体制をとるものとすること。

⑾ 国は,金融機関に対して,機構による債権買取等の実績等に応じて公的資金を導入する等,債権者が機構による債権買取等に協力することについて積極的な動機付けとなりうる施策を実施すること。

⑿ 国は,我が国において災害が発生した場合には機構が速やかに被災者の支援に関する業務を開始することができるよう,平時において必要な体制を整備すべきこと。

3 前項の機構が設立されるまでの間の経過措置として,今後我が国において災害が発生した際にはガイドラインないしはそれに準ずる制度が速やかに適用できるようにすべきである。但し,対象債務者要件をより柔軟に解釈・運用するものとすることや,ガイドライン運営委員会の運営に対象となる災害の被災地の弁護士を一定数関与するものとすること等,必要な修正を施すべきである。

4 前項までの措置とあわせて,被災者生活再建支援金の増額,地震保険金の全部又は一部の差押禁止財産化等,被災者の生活及び事業の再建のために必要な立法措置がはかられるべきである。

 

第2 意見の理由

 

1 東日本大震災における個人版私的整理ガイドラインの策定とその成果・問題点

 

⑴ ガイドラインの策定及びその運用実績

東日本大震災は,東北地方を中心とした各地に甚大な被害をもたらしたが,その中で生起した重大な問題の1つとして,自宅や自動車などといった資産が津波や地震の影響で被災してしまったにもかかわらず,そのローンだけが残ってしまったがために,生活や事業の再建に向けての重大な足かせとなってしまうという,いわゆる二重ローン問題があった。この二重ローン問題に対応するため,政府は平成23年6月17日に「二重債務問題に対する対応方針」を取り纏め,個人の二重ローン問題に対しては,個人向けの私的整理ガイドラインの策定により対応する旨の方針が示された。それを受け,平成23年7月,「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)が策定され,平成23年8月22日に運用が開始された。

それまで,我が国においては,災害により発生する二重ローン問題に対応するための制度は存在していなかった。ガイドラインは,我が国初の二重ローン問題に対応する制度であるという意味では画期的な制度であり,運用開始当初は,約1万人もの利用が見込まれるとも言われ,被災者の救済に活用されることを大いに期待されていた。

そして,ガイドラインは,運用開始後,数次にわたり運用改善がなされたものの,ガイドラインの運用開始から3年以上が経過した現在においても,成立件数は1,131件,準備中の件数は239件にとどまっている(平成26年11月7日現在の一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会(以下「運営委員会」という)による公表値)。しかも,近時は新規の相談件数も1週間に1桁代で推移し,その中で正式に登録専門家委嘱に至るケースはごくわずかである状況に鑑みれば,このまま推移すれば,ガイドラインの成立件数は,1,500件にも及ばないものにとどまることは明らかな状況となっている。

⑵ 東日本大震災における二重ローン救済のニーズ

以上のように,ガイドラインの利用状況は,運用開始当初に見込まれていた利用件数には遠く及ばないものとなっている。しかしながら,以下の諸事実からすれば,東日本大震災における二重ローン救済のニーズは,わずか1,500件弱程度にとどまるようなものでなかったことは明らかであり,ガイドラインが,残念ながらそのニーズに十分に応え切れなかったものと言わざるを得ない。

① 住宅被害等の状況

東日本大震災による住宅被害の状況は,全壊127,291棟,半壊272,810棟に及んでいる(消防庁災害対策本部「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について(第149報)」)。

また,東日本大震災における仮設住宅必要戸数は,53,627戸に及んでいる(国土交通省住宅局「応急仮設住宅着工・完成状況」)。このことは,東日本大震災により,5万人以上の被災者が,生活の本拠たる住居を失う等して,仮設住宅への入居を余儀なくされたことを意味する。

これらの数値の中には,住宅ローンを負担していない住宅も相当数含まれているため,上記の被害等の件数が二重ローン問題に直面した件数に直結するものではないが,上記のような被害規模からすれば,少なくとも二重ローン問題に直面し救済が必要とされる被災者数が,ガイドラインの成立が見込まれる1,500件弱程度にとどまるものでないことは明らかである。

② 金融機関による条件変更等の状況

金融機関は,東日本大震災発生後,融資先に対する約定返済一時停止や,条件変更契約締結(いわゆるリスケジュール)を積極的に進めてきた。

被災3県に所在する金融機関においては,平成26年7月末時点で,約定返済一時停止112件,条件変更契約締結は10,107件であり,被災地では1万件以上が約定返済一時停止あるいは条件変更を受けていることになる(金融庁「東日本大震災以降に約定返済停止等をおこなっている債務者数及び債権額」)。

約定返済の停止,あるいは条件変更を受けている被災者は,程度の差こそあれ,震災の影響により約定弁済の継続に支障が生じた者が大部分であると考えられることからすれば,二重ローンの負担により何らかの救済が必要とされた被災者数も,少なくともガイドライン成立見込の1,500件弱を大きく上回る相当の件数に上るのではないかと強く推測される(なお,被災後3年半以上経過した時点において約定返済一時停止及び条件変更契約締結件数が1万件を超えていることは,ガイドライン運用当初の利用見込件数である1万件という数字が,必ずしも不合理なものではなかったことを裏付けるものとも言える)。

③ 各種相談件数

運営委員会に対する個別相談件数は,5,413件(H26.11.7現在)に及んでいる。個別相談を行った者のほとんどは,何らかの形で自己の債務の減免を希望したものであると考えられるが,このうち,登録専門家が委嘱され,弁済計画案が成立した,あるいは成立する可能性のある件数は,前述のとおり約1,500件弱程度にとどまる。

また,日弁連がH23.4.29~H23.5.1に宮城県内95ヶ所の避難所で実施した926件の法律相談で,「住宅・車・船等のローン,リース」の相談割合は18.0%にのぼった。

これらの相談件数からも,二重ローンからの救済を望む被災者が相当数に及んでいたことが推測される。

 

以上の諸事実からも,二重ローン対策に対する潜在的需要は,少なくともガイドラインの成立見込み件数1,500件弱程度にとどまるものでなかったことは明らかである。

 

⑶ ガイドラインの問題点

以上のとおり,ガイドラインは,我が国初の二重ローン救済スキームとして一定の成果はあげたものの,東日本大震災における二重ローン問題対策へのニーズに対し,十分にその期待にこたえることまではできなかったものと評価せざるを得ない。

その原因としては,様々な要因が複合的に影響しているものと思われるが,大きく整理すると,以下の点が挙げられる。

① 対象債務者要件(特に支払不能要件)の厳格さ

ガイドラインの対象債務者要件,特に,「東日本大震災の影響を受けたことによって,既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること」との要件(以下「支払不能要件」という)がネックとなり,ガイドラインの利用を断念せざるを得なかった被災者が相当数あった。

前述のとおり,運営委員会への個別相談件数は5,000件を超える中で,登録専門家紹介に進むのはごく一部であり,成立見込み件数(現在準備中の件数を含む)は1,500件弱にとどまる。

すなわち,ガイドラインの利用を検討し,個別相談を行った被災者のうちの7割程度が,ガイドラインによる救済を受けることができなかったことになる。そして,制度の利用を断念せざるを得なかった被災者のうちの相当数が,いわゆる支払不能要件を充足しない旨の判断が運営委員会によりなされたことが理由であるものと思われる。また,被災地の弁護士が登録専門家として関与した事案において,被災地の弁護士が専門的見地から,制度の利用要件を充足するものと判断したにもかかわらず,運営委員会により利用要件を充足しないとの理由で,手続の進行が認められなかったというケースも複数見られた。

さらに,かような対象債務者要件の間口の狭さから,被災者の間には,「利用しにくい」との風評が広がるという副次的影響もあり(このことは,多くの被災者が被災地の弁護士や自治体等の関係者に口にしていたところである),これがさらに利用躊躇の要因となったものと考えられる。

② 全債権者の同意が必要であったこと

ガイドラインは,あくまで私的整理であるため,全ての対象債権者の同意を得ることが,弁済計画成立の条件とされている。そのため,事案によっては,一部の対象債権者より不同意意見が出されたことにより,救済されない件もあった。

さらに,運営委員会としても,債権者の意向を忖度せざるを得ない結果,思い切った運用をしにくいという影響が見られた。個別の事案においても,運営委員会が債権者の意向を必要以上の忖度し,案件の進行が阻害されるとも思われるケースもあった。

また,被災者にとっては,自らが救済されるのか否かが,債権者の同意意見が表明される最終段階に至るまでわからず,極めて不安な立場に置かれていたことが少なくなかった。

③ 運営委員会の人的・物的体制

ガイドラインの運用方針の決定・個別案件の処理を行っている運営委員会の内部には,被災地にて職務を行う弁護士がおらず,被災者・被災地の実情が制度運営に適切に反映されていたとは必ずしも言い難い面があった。そして,時に,被災者の実情や被災者目線を踏まえていないと思われる運用があった。

また,運営委員会のマンパワーも十分であったとはいえず,提出書類の検討等に1月以上要する時期もあった。

さらに,物的体制の面においても,沿岸被災地に相談場所がなく,被災者にとってアクセスが良好とはいえなかった。

④ 不服申立手続の不存在

ガイドラインでは不服申立手続きがなかったため,運営委員会によりガイドライン不適合の判断がなされた場合,いかにそれが不合理な内容であっても制度の利用を事実上諦めざるをえなかった。この点は,被災者救済制度としては不備と言わざるを得ない。

⑤ 金融機関の動機づけの乏しさ

相当額が一括弁済される事案はともかく,少額の弁済にとどまる事案や分割弁済の事案は,金融機関にとって免除額について無税償却可能ということのみでは,積極的に利用を促す動機づけに乏しかったと思われる。

この点は,特に運用開始当初,金融機関による積極的周知は少なく,他方で相当数の被災者がガイドラインの利用ではなく,条件変更契約(リスケジュール)の利用に流れた要因ともなったものと思われる。

⑥ 周知不足

ガイドラインについては,特に制度運用開始の初期段階において,効果的な周知が極めて不十分であった。そのため,本来であれば,もっとも多数の利用が見込まれるはずの制度運用開始初期段階において,利用件数が伸び悩んだ(他方,同時期において,金融機関による条件変更契約締結件数は順調に伸びていることからすれば,ガイドラインの運用開始初期段階において,多くの被災者は,ガイドラインの利用ではなく,条件変更契約締結に流れたものと推測される)。

 

2 将来発生が予想される大災害への二重ローン問題対策の事前策定の必要性

 

⑴ 我が国における二重ローン問題の不可避性

我が国は災害立国とも言われる。

東日本大震災はいうに及ばず,平成以降も阪神淡路大震災,新潟県中越地震をはじめとする大規模災害が発生し,近い将来においても,首都直下型地震,南海トラフ地震等,甚大な被害が予想される大規模災害の発生が現実的なものとして想定されている。

そして,住宅取得者の相当数が住宅ローンを利用しているという我が国の状況からすれば,災害が発生すれば,不可避的に二重ローン問題は発生する。すなわち,我が国においては,二重ローン問題は常に発生する可能性を秘めている社会問題であり,この問題に適切に対応していく仕組みづくりが必要である。

 

⑵ 災害発生後速やかに適用される制度の必要性

東日本大震災においては,災害発生時からガイドライン運用開始まで5か月以上の時間を要した。しかも,ガイドライン運用開始当初は,仮設住宅入居中の被災者が原則として利用が困難である等,その救済範囲が極めて限定されていた上に,効果的な周知もなされなかったため,本来であればもっとも多くの利用がなされるべき制度運用開始当初の利用が伸び悩んだ。その間,二重ローンに直面していた被災者の相当数は,約定弁済を継続し,なかには,金融機関の勧めにより,地震保険金にて一括繰上げ返済を行ったという被災者も一定数存在した。このような被災者の中には,本来であれば,ガイドラインを利用することにより,債務の減免を受けることができたものも一定数含まれていたものと思われる。

救済が必要な被災者を救済するためには,何より,災害発生後に速やかに制度の利用が可能となること,制度の存在が周知されること,利用対象者を制度利用に誘導する仕組みがつくられることが重要である。

そのためには,災害発生後に制度を策定するのでは,時機を失する。平時において,災害発生時には即時に適用できる制度を策定しておくことが極めて重要である。

そして,策定される制度の内容としては,上記もガイドラインにおける問題点を踏まえ,①既往債務からの解放を必要とする被災者を幅広く救済の対象とできるように利用要件に広汎性・柔軟性があり,②債権者も制度運営機関の判断を尊重すべき制度設計であることが望まれる。また,③制度運営機関の人的・物的体制においても被災者・被災地に根差したものであること,④適切な不服申立手続が設けられていることも求められる。さらに,制度を実効的に運用するためには,⑤債権者にとっても制度利用の動機づけを持てる制度であることが必要である。そして,多くの被災者に利用してもらうためには,⑥適切かつ効果的な周知も必要である。

 

3 策定されるべき制度の内容

以上の理由から,二重ローン問題対策として,以下のような内容の制度を策定すべきである。

 

⑴ 買取機構の設立

被災者の二重ローンからの救済を迅速にはかるためには,当該制度が被災者の生活及び事業の再建に資するものであることはもとより,対象債権者にとっても,できる限り負担が少なく,メリットがある制度であることが望ましい。

この点,ガイドラインのように単純な債権放棄を求める制度の場合,対象債権者にとって無税償却が可能というのみではメリットは少なく,特に長期分割弁済を内容とする弁済計画の場合には,債権者としても即時償却ができず,制度の利用に積極的に協力する誘因が乏しかったものと言える。

これに対し,債権買取機構の方法による場合には,対象債権者にとっては,一定のディスカウントがなされるとはいえ,当該債権の時価に相当する金銭を一括にて支払を受けたうえで債権処理を行うことが可能であり,利用のメリットは少なくないと考えられる。

また,機構に,新規融資の調整機能を付与することにより,既存のローンの買取及び新規融資を一体的に調整・実施することが可能となり,被災者にとっても,また,金融機関にとってもそのメリットは大きい。

なお,東日本大震災においては,事業者向けの二重ローン問題対策として株式会社東日本大震災事業者再生支援機構が設立され,また,被災地の各県に産業復興機構及び産業復興相談センターが設立された。株式会社東日本大震災事業者再生支援機構による支援決定件数は508件(うち債権買取決定は476件),支援決定に向けて最終調整中が246件であり(平成26年10月末現在),産業復興相談センターにおける支援決定数は669件(うち債権買取決定は288件),合意取付に向けて対応中は114件となっている(平成26年10月31日現在)。個人の被災者に比較して案件1件あたりの規模・複雑さは大きく上回ると思われる事業者の二重ローン問題対応における上記実績は,ガイドラインと比較すれば成果をあげたものと評価でき,債権買取機構方式が,二重ローン問題対策において有効であることの証左であるといえる。

以上より,個人の被災者の二重ローン問題対策としては,買取機構を設立することが最も適切かつ有効というべきである。

 

⑵ 対象債務者の要件

対象債務者の要件を定めるにあたっては,被災者の生活及び事業の再建の観点から,既往債務からの解放を必要とする被災者を幅広く救済の対象とできるようにすべきである。

この点,ガイドラインにおいては,前述のとおり,いわゆる支払不能要件がネックとなり,制度の利用を断念するに至った被災者が相当数に及んでいる。

しかしながら,たとえ「支払不能(のおそれ)」の状態にまでは達していなくとも,既往債務の存在が被災者の家計を圧迫し,生活や事業の再建のために必要な支出や被災前であれば負担しえたであろう生活上ないし事業上の支出を抑制せざるを得なくなったり,あるいは新たな住宅の取得を躊躇させる要因となった例は少なくないと考えられる。そこで,機構による債権買取等の支援の対象となる債務者の要件を定めるにあたっては,被災者の生活及び事業の再建の観点から,既往債務の存在が生活及び事業の再建の支障となると認められる債務者を広く対象とするものとして定められるべきである。

そして,既往債務の存在が生活及び事業の再建の支障となるか否かを判断するにあたっては,被災者世帯の被災前の収入状況や世帯人数等に照らし,同水準の世帯における標準的な家計支出額(総務省統計局の家計調査等を参考とすることが考えられる)や災害からの生活及び事業の再建のために必要と考え得られる支出に加えて,既往債務の負担に耐えうるか,という視点を用いる方法などが考えられる。

また,対象債務者要件は,被災者の生活・事業再建支援という本制度の目的に鑑み,できる限り柔軟に解釈・運用する旨の指針規定を定めるべきである。

なお,対象債権者は,機構による債権買取決定を尊重する義務は負うものの(後述⑸),買取決定に法的に拘束されるものではないことからすれば,「支払不能(のおそれ)」を対象債務者要件としなかったとしても,対象債権者の権利を不当に侵害するものとは言えない。

 

⑶ 買取対象債権の範囲

機構による買取の対象となる債権の範囲は,基本的には,被災した住宅にかかる住宅ローンや,被災した自動車にかかる自動車ローン等,担保物件が災害により滅失等した場合における被担保債権が主たる対象となるが,それ以外にも,被災者の生活及び事業の再建のために買取が必要な債権(担保が滅失していない,あるいは無担保であるが,債務の減免が認められなければ生活や事業の再建に支障が生じるような場合)については広く買取の対象とすべきである。

 

⑷ 買取価額の算定方法

機構による債権買取価額は,適切な時価とすべきである。

そして,時価の算定にあたっては,被災者の現在の弁済能力,当該債権の担保の目的となっている財産の価格のみならず,将来における弁済の見通し,被災者の生活状況及び被災状況等を総合的に判断して決定するものとすべきである。

 

⑸ 買取決定に対する対象債権者の尊重義務

機構の買取等の決定に実効性を持たせるため,金融機関等の債権者は,機構が行う被災者支援のための業務に協力するとともに,機構による債権を買取る旨の決定を尊重するものとするべきである。

 

⑹ 不服申立手続の整備

ガイドラインにおいては,運営委員会の判断に対する不服申立ての手続きがなかったため,仮に運営委員会の判断が不合理な内容であったとしても,これを是正することは極めて困難であり,結果として制度の利用を断念せざるをえないことが少なくなかった。

そこで,機構による債権買取を行わない旨の決定に対しては不服のある債務者について,適切な不服申立手続を設ける等の措置を講ずるべきである。

 

⑺ 買取後の措置

機構は,買取後,被災者の現在の弁済能力,当該債権の担保の目的となっている財産の価格,将来における弁済の見通し,被災者の生活状況及び被災状況等を考慮し,債務の全部又は一部の免除等,被災者の生活及び事業の再建のために必要な措置をとることとすべきである。

なお,弁済猶予や条件変更のみでは,被災者にとって債務が残存することには変わりはなく,生活及び事業の再建に向けての根本的な解決とはならない場合が多いと思われることから,早期の債務免除が原則的措置とされるべきである。

 

⑻ 信用情報の取り扱い

たとえ機構の買取決定により,既往債務についての減免等が認められても,既往債務について事故情報等として登録されてしまえば,新規融資を受けることが困難となり,ひいては生活や事業の再建が困難となる。そこで,ガイドラインの取り扱いと同様,買取決定によっても事故情報として登録されないこととされるべきである。

さらに,たとえ事故情報としては登録されなくとも,買取決定後も既往債務の残高情報が残存する場合,新規融資の可否や融資額に影響を及ぼす可能性がある。そこで,買取決定がなされた債務については,買取債権にかかる残高情報を抹消する等,被災者が新規融資を受けやすい方策を講じることが求められる。

 

⑼ 税制上の措置

機構による債権の買取及び債務免除等により,債権者や債務者に税務上の負担が発生するのは相当ではない。そこで,かようなことのないよう,必要な税制上の措置を講ずることとすべきである。

 

⑽ 機構の人的・物的体制

二重ローン対策がより有効に機能するためには,被災者にとって制度利用へのアクセスが容易であることが重要である。そこで,機構は,被災地に事務所及び相談窓口を設置する等,被災者にとって迅速にアクセスでき,かつ,被災者及び被災地の実情に応じたきめ細やかな対応をとることが可能な物的体制を整備するものとすべきである。

また,二重ローン対策が実効性あるものとするためには,制度の運用に被災者及び被災地の実情が十分に反映される必要がある。そこで,機構の構成員に被災地において活動する弁護士を一定数含める等,被災地・被災者の実情が制度運用に適切に反映される人的体制をとるべきである。

 

⑾ 債権者に対する施策

二重ローン対策が十分に機能するためには,債権者が機構の業務への協力や債権の買取について積極的に応じることが求められる。また,被災者の制度利用促進には,債権者が被災者に対して制度の利用を促すことが最も効果的である。そこで,機構による債権買取等の実績等に応じて公的資金を導入する等,債権者が機構による債権買取等に協力することについて積極的な動機付けとなりうる施策を実施すべきである。

 

⑿ 発災後迅速な運用開始のための措置

前述のとおり,二重ローン対策が十分に機能するためには,災害発生時に即時に制度が適用されることが極めて重要である。そこで,災害が発生した場合には機構が速やかに被災者の支援に関する業務を開始することができるよう,平時において必要な体制を整備すべきである。

 

⒀ 機構設立までの経過措置

買取機構の設立までは,一定の時間を要する可能性もあるが,我が国においてはいつ何時災害が発生してもおかしくない。その場合には,経過的措置として,現状のガイドラインをベースに必要な修正を加えた制度が迅速に適用されるようにすべきである。但し,この制度では,今回のガイドラインの問題点を踏まえ,対象債務者要件をより柔軟に解釈・運用するものとすることや,運営委員会に被災地の弁護士を一定数関与するものとすること等,必要な修正を施すべきである。

 

⒁ その他の被災者たる個人債務者への支援策の実施

上記の債務免除等の措置とあわせて,被災者生活再建支援金の増額,地震保険金の全部又は一部の差押禁止財産化等,被災者の生活及び事業の再建のために必要な立法措置がはかられるべきである。

 

4 結び

当会は,個人の「二重ローン」問題救済に向けて,平成23年6月15日,「東日本大震災の被災者が抱える既存債務からの解放を求める緊急提言」を行い,震災により毀損・滅失した物と牽連性のある債権を国が買い取り,これを免除するなどの方法で被災者を既存債務から解放することを求めた。また,これと併せて,同趣旨の請願署名活動を開始したところ,わずか1ヶ月程度の間に,全国から107,335筆の署名を得,これを衆参両議院に提出した。これは,被災者自身の救いを求める声であると同時に,「二重ローン」にあえぐ被災者を救うべきであるという国民全体の声でもある。

この署名活動の成果にあらわれた多数の国民の声に鑑みても,被災者のみに負担を負わせるのではなく,国や金融機関等が応分の負担をすることによって,生活や事業の再建のために支障となっている既存債務から債務者を解放する立法制定がなされるべきである。

可及的速やかに,被災者が広くかつ確実に,救済の対象となる抜本的な「二重ローン」対策立法がなされるべきである。

以 上

 

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