日本郵便株式会社 代表取締役社長 髙橋 亨 殿
総務大臣 高市 早苗 殿
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
レターパック,宅配便及び代金引換サービスを利用して現金を送付させる詐欺への対応に関する要請書
第1 要請の趣旨
1 当会は,日本郵便株式会社に対し,以下のとおり要請する。
(1)特殊詐欺被害に遭った被害者が特殊詐欺等の被害につき迅速に相談することができ,また,被害発生を未然に防ぐ機能をも有する統一的な相談窓口 を設置し,同窓口について周知すること。
(2) 代金引換郵便につき,荷受人から代金の収納をする際,「代金引換を利用した詐欺被害が多発しています」等の声かけ,相談窓口等について記載した注意喚起チラシの配付等,代金引換を利用した特殊詐欺等について更なる注意喚起をすること。
(3) レターパック,宅配便及び代金引換サービス等を利用した特殊詐欺被害の予防・救済のために,同被害予防・救済に取り組む各機関との情報交換等の連携を通じて特殊詐欺被害対策に取り組むこと。
(4) レターパック,宅配便及び代金引換サービスを利用して現金が加害者へ送付された場合,加害者の情報に関し,弁護士法23条の2に基づき照会 がなされた場合には,速やかに報告 すること。
2 当会は,日本郵便株式会社及び総務大臣に対し,代金引換郵便につき,以下のように,利用手続を厳格にする旨の約款変更を行うことを要請する。
(1)法人または個人事業主については,利用にあたり基本契約を締結し,本人特定事項(法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。),事業の内容,取引担当者等を確認し,これらの事項等の確認のために必要な本人確認書類(登記事項証明書,印鑑登録証明書)の原本の提示を求め,その控えを保存すること。
(2)個人については,本人確認書類(運転免許証,旅券(パスポート),住民基本台帳カード,健康保険証等)の原本の提示を求め,その控えを保存し,かつ,引き換え金の送金先口座を利用者本人名義の口座に限定すること。
第2 要請の理由
1 背景
近時,消費者,中でも高齢者の特殊詐欺 (被害者に電話をかけるなどして対面することなく欺もうし,指定した預貯金口座への振込みその他の方法により,不特定または多数の者から現金等をだまし取る犯罪)の被害が増加の一途をたどっており,被害の未然防止・被害回復への取組が極めて重要となっている。
とりわけ,現金送付手段として,口座振込みではなく現金を書籍等と詐称して郵便あるいは宅配便等を利用して送付させるケースが数多く見られ,結果として,郵便あるいは宅配便が詐欺行為のツールとして利用され,詐欺行為に加担することとなっている。
この点について,平成25年9月12日,日本弁護士連合会は「レターパック及び宅配便を利用して現金を送付させる詐欺への対応に関する要請書」を発表し,日本郵便株式会社や総務大臣等に対して係る被害への対策を要請している。しかし,同要請がなされた後も,警察庁の統計上,郵便を現金送付手段とする詐欺被害が,平成25年上半期には458件(うちレターパック349件)であったのに対し,同26年上半期には607件(うちレターパック511件)と急増している。また,被害類型として,送りつけ商法(代金引換サービス等を利用して,健康食品等を一方的に送り付けて購入させる商法)被害が急増し,中でも,平成25年中に警察安全相談等が把握した送り付け商法事犯724件のうち,代金引換サービスが607件(83.8%)を占めており,同商法において,代金引換サービスが広く利用されている。さらに,宮城県内においても,平成26年に県内で発生した特殊詐欺の被害額は約10億2400万円(228件)と初めて10億円を超え,うちゆうパックを利用して現金を受け渡した被害が約2億6800万円(50件),レターパックを利用して現金を受け渡した被害が約1億7010万円(33件)とされ,現金自動預払機からの送金被害(約1億1600万円(122件))を上回る結果となっており,極めて深刻な被害状況となっている。
以上のとおり,結果的に日本郵便株式会社のサービスを利用した詐欺被害が多発しており,極めて深刻な問題となっていることから,かかる詐欺被害を防止すべく,更なる対策が急務となっている。
2 相談窓口の必要性について(要請の趣旨1(1))
レターパック,宅配便及び代金引換サービスにおいては,いずれも現金が加害者へ送付されてしまうと,これを取り戻すことは極めて困難であり,かかる困難性により,現実の被害救済が阻害されていることも指摘されている。そのため,現金等が日本郵便株式会社に留まっている間に,被害者らからの被害申告等を受け,被害を回復するための速やかな措置が極めて重要となる。また,かかる被害は短期的かつ広域的に発生するものであるから,更なる被害を生じさせないためにも,迅速な被害申告・相談等が必要不可欠である。
しかしながら,一般市民にとって,かかる被害が判明した場合,どの窓口に相談すればよいか必ずしも明らかではなく,適切な相談先に相談がなされない間に現金等が加害者に送付されたり,更なる被害を生じるおそれがある。よって,被害を迅速に回復し,また,更なる被害を防ぐためにも,一般市民が容易に詐欺被害について相談・申告できる統一的な窓口の存在が必要不可欠である。
したがって,特殊詐欺被害に遭った被害者が特殊詐欺等の被害につき相談することができ,また,被害発生を未然に防ぐ機能をも有する統一的な相談窓口を設置し,同窓口について周知するよう要請するものである。
3 詐欺被害にかかる注意喚起について(要請の趣旨1(2))
日本郵便株式会社のサービスを利用する詐欺について,レターパック,宅配便を利用するものについては,近時,警察庁ホームページにおいて,「『レターパック,宅配便で現金送れ』は,全て詐欺」と注意喚起がなされているほか,平成26年7月1日からは,全郵便局窓口において,窓口ディスプレイ広告の表示,レシートに注意喚起文の掲載,「ご注意ください!『レターパック等で現金送れ』はすべて詐欺です。また,レターパックで現金を送ることは郵便法違反です」等と記載した注意喚起チラシを配付する等の取り組みがなされ,詐欺被害の予防に寄与している。
代金引換サービスを利用した詐欺被害についても,かかる注意喚起等が被害予防のために極めて有用である。また,更なる被害予防・救済のためには,同チラシに,要請の趣旨1記載の相談窓口についても記載し,これを広く周知することが有用である。
したがって,代金引換郵便物につき,荷受人から代金の収納をする際等に,「代金引換を利用した詐欺被害が多発しています」等の声かけ,新たに要請の趣旨1記載の相談窓口についても記載した注意喚起チラシの配付等,代金引換サービスを利用した特殊詐欺等について注意喚起をするよう要請するものである。
4 他機関との連携について(要請の趣旨1(3))
レターパック,宅配便及び代金引換サービスを利用して現金を送付させる詐欺を防止し,被害回復を図るためには,日本郵便株式会社が弁護士会や消費生活相談に取り組む各自治体等と連携し,情報共有するなどの対応も必要となる。
また,警察庁が作成する「詐取金送付先リスト」を活用するなどして被害を未然に防止できた事例が数多く存在する。なお,日本郵便株式会社と同様のサービスを行っているヤマト運輸株式会社においては,特殊詐欺詐取金対策の強化がなされている。
したがって,日本郵便株式会社においても,レターパック,宅配便及び代金引換サービス等を利用した特殊詐欺被害の予防・救済のために,弁護士会や消費生活相談に取り組む各自治体と連携するとともに,警察が所持する情報を取得・活用するなどして特殊詐欺被害対策に取り組むよう要請するものである。
5 弁護士法23条の2に基づく照会への回答について(要請の趣旨1(4))
レターパック,宅配便及び代金引換サービスを利用して現金が加害者へ送付された場合,加害者に対する損害賠償請求等を行う上では,その前提として,加害者を探知・特定することが必要不可欠である。下記6(要請の趣旨2)で利用者から徴求する本人確認書類の写し等も加害者特定のためには必要不可欠である。
加害者を探知・特定するための手段として,日本郵便株式会社に対する弁護士法23条の2に基づく照会がなされることが想定されるところ,同法に基づく照会は郵便法上の守秘義務に優越するものである(東京高等裁判所平成22年9月29日判決・判時2105号11頁等参照。)。
したがって,レターパック,宅配便及び代金引換サービスを利用して現金が加害者へ送付された場合,加害者の情報に関し,弁護士法23条の2に基づき照会がなされた場合には,速やかに報告するよう要請するものである。
6 代金引換サービスの利用条件の厳格化について(要請の趣旨2)
日本郵便株式会社の代金引換サービスは,個人でも利用でき,かつ,利用申込みの際に,専用ラベルに記載すれば足りるなど,簡易なものである。すなわち,偽名での利用も可能なため,結果的に特殊詐欺や送りつけ商法等の加害者にとっても利用しやすいサービスとなっており,被害を拡大化する要因の一つとなっている。
偽名での利用がなされると,現金が加害者に交付された後に被害救済を図ろうとしても,加害者を特定する手段がなくなってしまうので,後に加害者が誰なのかを特定するだけの資料の確保は必要不可欠である。
この点,日本郵便株式会社では,同サービスにつき,平成26年11月25日より,代金引換郵便物等の差し出し又は郵便窓口における引き取りの際には運転免許証や登記簿謄本等の本人確認書類の提示を求め,また,引き換え金の為替送金を廃止するなど,利用手続の厳格化がなされており,これらは特殊詐欺等の防止に繋がりうるものである。しかしながら,基本契約の締結は必要とされておらず,本人確認書類の控えは必ずしも保存しないなどいまだ不十分であり,更なる抜本的対策が必要である。
他方,同様のサービスを実施しているヤマト運輸株式会社においては,サービス利用にあたり運送契約が必要となるほか,法人または個人事業主のみ利用可能となっている。さらに,同社においては,申込みにあたり,会社の基本情報のほか,業態,事業内容,取扱商品,販売形態,担当者氏名・連絡先等の確認が必要不可欠であり,かつ,申込み後も審査があり必要に応じて資料等の提出が求められる。これらの仕組みが同サービスの特殊詐欺等への利用防止に機能している。
以上のように,代金引換サービスを利用した被害を防止するためには,更なる利用条件・本人確認手続の厳格化が必要不可欠である。したがって,代金引換郵便につき,要請の趣旨4記載のとおり,利用手続を厳格にする旨の約款変更を行うことを要請するものである(なお,約款変更については,総務大臣の認可が必要となる(郵便法68条参照。))。