東日本大震災から4年が経過しようとしている中,ようやく災害復興公営住宅の整備が進みはじめた。もっとも,災害復興公営住宅への入居には,連帯保証人の確保や,税金の滞納がないこと等を要件としている自治体が少なくない。たとえば、一部の自治体では,同一自治体に居住し独立の生計を営んでいる者を連帯保証人の要件としている。しかしながら,被災者にとって,これらの入居要件をみたすことは,必ずしも容易ではない。東日本大震災によって,近くに住んでいた親類を多く失った被災者にとっては,連帯保証人を確保することは極めて困難である。
このような中,宮城県は,災害復興公営住宅の整備が進んでいる自治体について,応急仮設住宅の入居期限を入居後5年とする方針を固めた。今後,応急仮設住宅入居者に対する,退去要請が本格化することが見込まれる。
災害復興公営住宅は,災害によって家屋を失い,自力で住宅を確保することが困難な被災者にとって,恒久的な住居確保のための事実上の唯一の選択肢である。仮に,災害復興公営住宅に入居できない被災者に対し,応急仮設住宅からの退去を求めるような事態に至れば,被災者に大きな混乱をもたらすことは明白である。
実際,当会による応急仮設住宅入居者からのヒアリングでは,連帯保証人の確保ができていない被災者は少なくなく,災害復興公営住宅が完成しても入居できないのではないかとの不安の声が寄せられている。他方において,災害復興公営住宅建設の根拠法たる公営住宅法では,連帯保証人の確保や,税金の滞納がないことを必須とされていないにもかかわらず、これらを災害復興公営住宅の入居要件とし、被災者の恒久的な住まいの確保の途を閉ざすことは,「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与すること」(同法第1条)を目的に定めた同法の趣旨に悖るものである。
応急仮設住宅における生活環境が極めて厳しい状況であることは,報道されているとおりである。安全で快適な住宅が確保されなければ,個人の尊厳や幸福追求の基盤が損なわれ,健康で文化的な最低限度の生活を営むこともできない。災害復興公営住宅の入居要件は,恒久的な住まいの確保が,被災者一人一人が立ち直るための「人間の復興」に不可欠であるとの視座のもとに検討されなければならない。
したがって,当会は,災害公営住宅の運営主体たる各自治体に対し,災害復興公営住宅の入居要件を緩和し,もしくは被災者の実態に即した柔軟な運用をするなどして,被災者が恒久的な住居を確保するための適切な対応をすることを求める。
2015(平成27)年3月6日
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生