簡易裁判所判事及び副検事経験者に対して「準弁護士」資格を付与することに反対する決議
最高裁判所と法務省は,簡易裁判所判事(以下「簡裁判事」という)及び副検事経験者に対し,次のとおり簡易裁判所(以下「簡裁という」)管轄の事件を中心に弁護士業務を行うことが出来るいわゆる「準弁護士」資格を付与することを提案している。すなわち,刑事に関しては簡裁判事及び副検事経験者とも,①簡裁における被告人の弁護,②法定刑に死刑または無期懲役がある罪以外の被疑者(少年を含む)の弁護,③上記①及び② に関わる示談,④刑事事件に関する法律相談が出来るものとされ,民事に関しては,簡裁判事経験者には,①簡裁における民事訴訟等の代理,②法律相談(訴額による制限なし),③裁判外の和解代理(訴額による制限なし)が出来るものとされている。
今次の司法改革は,法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度のもとで,高い資質,能力を確保しつつ,法曹人口を大幅に増員し,法曹が社会生活上の医師として社会の多様なニーズに対応することをめざしている。法曹資格を取得するには,これまで以上にプロセスを重視した養成課程を経ることが強く要求され,司法試験合格者数も平成22年以降は毎年3000人となり,法曹人口が急速かつ大幅に増加していくことが見込まれている。
このようなときに,官公庁内部の登用試験で採用された簡裁判事や副検事に,本来の法曹養成課程を経ない「準弁護士」なる資格を創設,付与することは,上記改革の理念に反し,改革の流れに逆行するものである。しかも官公庁の内部試験を経た特定の公務員のみに,「準弁護士」の資格まで与えることは,司法制度改革審議会の意見書がいう「簡裁判事,副検事の専門性の活用」の範囲を明らかに逸脱するものであり,むしろ官の優遇策,退職者の天下り先確保策との批判を免れない。
「準弁護士」のように,取扱い業務が極めて限定され,本来の弁護士とは異質な資格者が存在することは,利用者である国民からみても極めてわかりにくく,混乱を生ぜしめ,ひいては司法への不信を招く恐れすらある。また,法曹養成課程を経ない簡裁判事や副検事経験者が被告人や被疑者の弁護人となることは,憲法上保障された弁護人依頼権の保障の観点からも,到底容認し難いものである。
なお,これら準弁護士資格の付与は,地方における弁護士不足解消のために必要であるとの意見もあるが,そもそも司法試験合格者は平成22年度までに飛躍的に増大することが確実となっており,弁護士不足の問題が日弁連・弁護士会が取り組んでいる全国の法律相談センター活動,公設事務所の推進,地域司法計画の展開,事務所法人化,法律扶助制度の拡充等により解決することのできる問題であることからすれば,準弁護士資格を付与する制度を新設する必要性はこの点においても全くないものといわざるを得ない。
以上の理由により,当会は準弁護士制度を新設し,簡裁判事及び副検事に準弁護士資格を付与することに強く反対する。
以 上
以上のとおり決議する。
2003年(平成15年)2月22日
仙台弁護士会会長 犬 飼 健 郎