自衛隊法,武力攻撃事態法,周辺事態法,国連平和維持活動協力法等を改正する平和安全法制整備法案,及び新規立法である国際平和支援法案(以下併せて「本法案」という。)が内閣により国会に提出さ れ,現在衆議院で審議されている。
しかしながら,本法案は,内容面及び手続面の双方から見ても憲法違反であることは明らかであり,廃案にされるべきである。
内容面についてみると,本法案は,「存立危機事態」(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)に集団的自衛権の行使を可能としている。しかし,集団的自衛権の行使は,当会がこれまで繰り返し指摘してきたとおり,我が国に対する武力攻撃がないにもかかわらず,他国間の戦争に加わっていくものであって,憲法第9条に違反し許されない。また,「存立危機事態」の概念も漠然としていて不明確であるため,歯止めのない集団的自衛権行使を事実上容認するものと言わざるを得ない。政府及び国会は,本年6月4日に開催された衆議院憲法審査会で,与野党の推薦により参考人として出席した憲法研究者3名全員が,集団的自衛権行使を可能にすることは憲法違反であると言明したことを重く受け止めるべきである。
また,本法案は,「重要影響事態」(我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)における「後方支援活動」や「国際平和共同対処事態」(国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって,その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従って共同して対処する活動を行い,かつ,我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの)における「協力支援活動」を可能としている。これらは,他国軍隊に対する自衛隊の支援活動であるところ,その活動範囲については地理的限定を撤廃したうえ,「現に戦闘行為が行われている現場」以外の場所での活動を許容している。また,支援内容も拡大され,イラク特措法等で禁止されていた戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油や弾薬の提供までをも可能としている。これでは,他国軍隊の武力行使との一体化は避けられず,憲法第9条第1項が禁止する「武力の行使」にあたり,許されない。
さらに,本法案は,戦闘行為に発展しかねない自衛隊の武器使用権限の拡大を規定しており,憲法第9条等が定める恒久平和主義に反する。
手続面についてみると,本法案は,昨年7月1日の集団的自衛権の行使容認閣議決定及び本年4月27日に改定された日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)を具体化する立法であるところ,閣議決定やガイドライン改定は,集団的自衛権の行使は憲法違反であるとして長年積み重ねられてきた政府解釈や自衛隊の米軍に対する軍事的支援についての制約を,国民的議論を経ないまま一内閣の一存で覆そうというものであった。本法案は,この延長線上にあり,憲法第9条を憲法改正手続(憲法第96条)によらずに法律によって事実上改変するものである。このような手法は,国家権力を憲法による制約の下に置くこととした立憲主義に反すると同時に,主権が国民に存することとした国民主権にも反する。
よって,当会は,憲法の定める恒久平和主義や立憲主義,国民主権に反する本法案に反対し,その廃案を求める。
平成27(2015)年6月17日
仙 台 弁 護 士 会
会長 岩 渕 健 彦