「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下,「本法案」という)が,2015(平成27)年8月7日,衆議院にて可決された。しかし,本法案には,当会が従前指摘してきた通り,以下のような重大な問題点がある。
まず,通信傍受について,対象犯罪の拡大と手続簡略化を認めている点である。通信傍受(盗聴)は,憲法の定める令状主義に違反するおそれが強い上,通信の秘密やプライバシー権を侵害する捜査手法であることから,組織的な重大犯罪のみを対象とし,かつ通信事業者の立会が要件とされているものである。ところが,本法案は,通信傍受の対象を,傷害・窃盗・詐欺・恐喝等の一般的な犯罪にまで拡大することとし,さらに通信傍受を行う際の通信事業者による立会を不要とする手続簡略化を行うこととしている。これは,憲法に違反する疑いが極めて強い法改正であり許されない。いわゆる組織性の要件も抽象的であり,暴力団等の犯罪的組織に限られず通信傍受がなされる可能性がある。また,通信傍受の際に捜査に関わらない警察官を立ち会わせる運用が検討されているようであるが,通信事業者の立会と比較するとその公正さの担保は著しく欠けていると言わざるを得ない。本法案は,捜査機関が不当に広く一般市民の通信を傍受しうる内容となっている。
次の問題点は,本法案がいわゆる司法取引(捜査・公判協力型協議・合意制度)の導入を認めている点である。本法案にいう司法取引は自らの罪を認めることで罰を軽減するものではなく,他人の罪を捜査機関に告げることで自己の罰を軽減しうるというものである。このような制度は「引っ張り込み(自己に有利な結果を得るために他人の罪をねつ造し,無実の他人を陥れること)」の危険を大幅に高め,それによる誤判・えん罪を増加させるものであり,そもそも導入されるべきではない。本法案は,司法取引の協議については弁護人の関与を義務付けることとしているが,司法取引によってえん罪の被害を受ける危険性があるのは取引に使われる(犯人として告げられる)側の者である。取引をする側の者に弁護人を付けたとしても,かえって弁護人を被疑者・被告人の権利擁護と社会正義(えん罪防止)の板挟みに陥らせるだけであり,根本的な解決になっていない。
なお,本法案の中には,刑事事件全体でみればほんの一部とはいえ取調べの可視化を明文で認め,附帯決議において可視化の義務がない場合でも可視化の努力を求めている点や,国選弁護制度を拡充している点など,被疑者・被告人の権利擁護について,一定程度前進している部分も見受けられる。しかし,全体として見た時には上記のような大きな問題が残っており,かえって被疑者・被告人その他一般国民に対し重大な人権侵害をもたらすおそれのある法案となっている。
当会は,衆議院が本法案の問題点を看過し,本法案を可決したことに対して強く抗議し,本法案の廃案を求める。
2015(平成27)年8月27日
仙 台 弁 護 士 会
会長 岩渕 健彦