平成27年12月16日
割賦販売法改正についての意見書
仙 台 弁 護 士 会
会長 岩渕 健彦
第1 意見の趣旨
今後,改正が見込まれている割賦販売法の見直しにあたり,以下の法規制を設けることを求める。
1 アクワイアラー及び決済代行業者に課すべき加盟店調査義務として,少なくとも,加盟店契約締結時における事業責任者の身分情報や事業者の取引に関する基本情報の確認・保管,及び,契約締結後における途上審査として事業形態の変更の有無,売上・販売方法等の定期的な調査等を実施することを具体的に規定すべきである。
2 イシュアーに苦情伝達義務及び苦情処理体制の構築義務を課し,併せて業務改善命令・業務停止・登録取消等の義務履行を担保する制度を創設するべきである。
3 マンスリークリア取引に関して,抗弁接続制度等の制度的な措置を追加するべきである。
第2 意見の理由
1 現状及びこれに対する迅速な法規制の必要性
⑴ 我が国のクレジットカード取引においては,従前から,クレジットカード発行会社(以下「イシュアー」という。)が加盟店を管理する加盟店契約締結会社(以下「アクワイアラー」という。)としての業務にも携わっていたところ,かかる両者の立場を兼ねていたクレジットカード発行会社は「包括信用購入あっせん業者」として現行割賦販売法の登録規制を受けるとともに(法31条等),カード会員からの苦情を受けたクレジットカード発行会社が,自ら直接的に悪質加盟店の排除措置をとっていたという側面があった。
しかしながら,近年のクレジットカート取引においては,従前と異なり,イシュアーとアクワイアラーが国際ブランド会社を介して分離するケースが増加し,またアクワイアラーと各加盟店の間にいわゆる決済代行業者が介在するケースが増加しつつあることにより,現行の法規制下での悪質加盟店の排除が不十分となっている。
また,近年は,翌月一回払いと呼ばれる決済方法(以下「マンスリークリア取引」という。)を利用したカード取引が拡大しているところ,現行割賦販売法はマンスリークリア取引を適用外としているため,同法による行為規制や被害救済が利用できないことによる消費者被害の発生が問題視され,とりわけインターネット取引においては,イシュアーによる直接管理の及ばない悪質サイト業者による消費者の苦情相談が急増している実態がある。
⑵ そこで,現行割賦販売法の見直しに関して,産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会が,「中間的な論点整理」(平成26年12月25日付)を取りまとめ,今般,「報告書~クレジットカード取引システムの健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて~」(平成27年7月3日付。以下「報告書」という。)が公表されるに至った。
報告書では,上記現状及びこれに伴う消費者被害の増大を指摘し,その対応措置を提示しているが,報告書作成過程において様々な意見が挙げられていたにもかかわらずなお不十分な点が見受けられる。
平成28年1月以降,通常国会にて報告書に沿った法改正が行われることが見込まれるところ,このままでは消費者保護が不十分なままでの法改正が行われてしまうおそれがあるため,以下のとおり意見を述べる。
2 アクワイアラー及び決済代行業者に課すべき加盟店調査義務内容の具体化(意見書の趣旨1について)
⑴ 報告書においては,イシュアーとアクワイアラーが分離した取引が一般化しつつあることを前提に,イシュアー・アクワイアラー各々が,その機能に応じた責任を負担するという制度作りが必要であると指摘し,アクワイアラーについて,国内に営業所を有すること等を要件とした登録制を導入して行政調査権・行政処分規定や無登録営業に対する罰則等を設けるべきとしているところ,この点については消費者被害対策の観点から評価できる。
併せて,アクワイアラーに対して,契約する各加盟店の初期審査や途上審査等の加盟店調査義務を課す方向性を提示したことについても賛成である。
また,報告書は,アクワイアラーと加盟店のあいだのいわゆる決済代行業者の登録を任意としつつ,登録を受けた決済代行業者のみと取引を行うアクワイアラーには加盟店調査体制等の登録要件を軽減するなどの誘導措置を講じることを通じて,悪質な決済代行業者を排除する方向性を示しており,一定の評価ができる。
⑵ もっとも調査義務の内容については事業者の個々の判断に委ねることが示唆されているところ,このままではアクワイアラーごとに調査体制の水準が異なることになり,悪質加盟店が調査体制の水準の低いアクワイアラーと契約締結を行うことで消費者被害を生じさせる取引を継続できてしまうことは容易に予想され,極めて不十分である。
また,済代行業者が介在する形態の取引においては,アクワイアラーが個々の加盟店を直接管理できず,悪質な加盟店による消費者被害の発生を生じやすくしている現状を踏まえれば,実質的にアクワイアラー類似の業務を行っている決済代行業者にもアクワイアラーと同様の加盟店調査義務を課すべきである。
以上を踏まえ,アクワイアラー及び決済代行業者に関し,少なくとも,加盟店契約締結時における事業責任者の身分情報や事業者の取引に関する基本情報の確認・保管,及び,契約締結後における途上審査として事業形態の変更の有無,売上・販売方法等の定期的な調査等を実施することを具体的に規定すべきである。
3 イシュアーに苦情伝達義務及び苦情処理体制の構築義務を課すこと(意見書の趣旨2について)
⑴ 報告書では,現状の「包括信用購入あつせん」について,イシュアーとアクワイアラーの分離・区別を前提に,イシュアー機能のみに着目した概念へ見直し,加盟店との取引に係る規定を削除する等の整理を行う旨の提言が行われている。即ち,カード利用者による加盟店に関する苦情の処理については,イシュアーがアクワイアラーに苦情を伝達し,伝達を受けたアクワイアラーが苦情処理を行う形に整理するということである。
⑵ しかし,消費者からの苦情をまず受けるのは通常イシュアーである。
アクワイアラーが加盟店調査を実効的に遂行するためには,イシュアーからアクワイアラーに対し,加盟店に関する苦情が適切に伝達されることが必要であるが,報告書では,イシュアーによる苦情伝達について,具体的な義務を課すことについては言及しておらず,イシュアーがアクワイアラーに対する苦情伝達を怠った場合にイシュアーが何ら責任を負わないとなると,加盟店調査の実効性が確保できないこととなる。
したがって,加盟店調査の実効性を確保するため,イシュアーがアクワイアラーに対して苦情を伝達することを怠った場合には業務改善命令・業務停止・登録取消等の行政処分の対象とするなど,イシュアーの義務履行を担保する制度にするべきである。
4 マンスリークリア取引に関して,抗弁接続制度等の制度的な措置を追加するべきであること(意見書の趣旨3について)
⑴ 報告書は,マンスリークリア取引に関する消費者からの相談件数に増加傾向があり,加盟店の中に悪質な者が存在していることを認めつつも,マンスリークリア取引に関する制度的な措置を追加的に設けることについて消極的な立場を示している。
報告書は,その理由として,①マンスリークリア取引には長期の支払猶予と同様の誘引性があるとは考えられないこと,②イシュアーは,クレジットカード利用者に対し包括的な利用枠を供与するにとどまるため,加盟店と利用者の間のトラブルに関してイシュアーに対して法的措置を課すことは不合理であること,③マンスリークリア取引に関しては一般的に消費者に手数料の支払を求めていないため,イシュアーに対してインフラ維持や法令遵守のコストを課すとその採算性が厳しいこと,④今回検討しているアクワイアラーへの加盟店調査義務の履行によりマンスリークリア取引に関するトラブルの未然防止が図られることが期待される等の事情を挙げる。
その上で,現時点においてマンスリークリア取引を抗弁接続等の民事ルールの適用対象とすることは適切ではなく,苦情処理義務といったイシュアーに係る制度的な措置を追加的に課すべき状況にはないとして,各イシュアーの自主的な対応を期待する旨を述べるにとどまっているのである。
⑵ しかしながら,報告書の上記結論及びその理由付けは不適当である。
まず,マンスリークリア取引の誘引性の指摘(①)については,確かに長期分割支払と比較すればその誘引性の程度が小さいとの指摘はあり得るとしても,利用者にとって取引時に現金支払いをしなくて良いというメリットは大きく,相応の誘引性が存在することは事実であり,現にマンスリークリア取引を利用してしまったことによる被害が多数報告されていることに照らせば,殊更マンスリークリア取引を他の取引と区別し,法規制を課さなくても良いということにはならない。
次に,イシュアーとアクワイアラーの役割分担の指摘(②,④)についてであるが,加盟店に関する苦情はカード利用者からイシュアーに届くのが通常であるところ,いくらアクワイアラーに加盟店の調査義務を課していたとしても,イシュアーの元に届いた苦情がアクワイアラーに確実に伝達されることが担保されていない限り,かかる調査義務は機能しないし,加盟店の排除及びカード利用者の救済が完遂されない。
またインシュアーにコストを課すことが適切ではない旨の指摘(③)については,不適正な販売行為によるリスクを消費者が負担する制度は不合理であって,イシュアーのコストや収益性の議論を行う大前提として,カード利用者の被害防止の体制が構築されることが必要不可欠である。
⑶ 以上を踏まえ,マンスリークリア取引に関しても,イシュアーのアクワイアラーに対する苦情伝達義務及び苦情処理体制の構築義務を課すことはもちろん,現に消費者被害が生じてしまった場合を想定した民事的な救済措置として抗弁接続制度を設けるべきである。
以上