福島県は,2015年6月15日,福島第一原子力発電所事故により政府からの避難指示を受けずに避難した方々(いわゆる区域外避難者)に対する,災害救助法に基づく住宅の無償供与を2017年3月末日で打ち切ると発表した。その後,福島県は,住宅の無償供与の打ち切りに代わる支援策として,家賃の一部補助,公的住宅の提供支援等の新たな支援策を打ち出した。
しかし,かかる新たな支援策における支援の内容は,家賃の一部補助にとどまり,対象期間は2年に限定され,収入要件も課されるなど,従前の支援と比べて大きく後退する内容であった。
2016年6月20日に福島県が発表した避難者意向調査結果では,(1)区域外避難者のうち64.9%が無償供与される住宅に居住していること,(2)区域外避難者のうち51.1%が住まいについて不安を抱えていること,(3)区域外避難者のうち45.3%が家族を分散させて生活していることなどが明らかになっている。
区域外避難者は,家族の健康を守る一心で,自宅,仕事,友人,家族など多くのものを失う中で,避難先での新たな生活を切り開いてきた。
今後,住宅の無償提供が打ち切られれば,区域外避難者に住居費の負担が新たにのしかかることになる。区域外避難者に対する数少ない支援であるところの住宅の無償供与を打ち切ることは,住宅の無償供与を前提に生計を維持してきた区域外避難者の「最後の命綱」を断ち,ようやく築きあげた避難先での生活を奪うことに他ならない。
2012年6月27日に公布・施行された「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(いわゆる,原発事故子ども・被災者支援法)は,放射性物質が健康に与える影響について科学的に十分に解明されていないことから,避難という選択も十分に尊重されるべきものとしている(同法第1条,第2条)。現在に至っても,福島県内の除染作業は不十分なままであり,宮城県にも2,648人もの避難者がいるとされる(復興庁発表。2016年年9月12日時点)。
「最後の命綱」であるところの住宅の無償供与を打ち切ることは,「居住,他の地区への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう,被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない」(同法第2条第2項)と定める同法の基本理念に反するのみならず,区域外避難者の生存権(憲法第25条)や自己決定権(憲法第13条)をも実質的に侵害するものであり,到底許されるものではない。
よって,当会は,福島県に対し,区域外避難者への住宅無償提供を一律に打ち切ることなく,区域外避難者の実情に応じた適切な支援を継続することを求めるとともに,国に対し,原発事故子ども・被災者支援法に基づき,原発事故避難者の恒久的な住宅支援策を講じることを求める。
そして,宮城県に対しては,上記の福島県及び政府の措置が実現するまでの間,区域外避難者に対し,宮城県独自の住宅支援措置を可能な限り講じることを求める。
なお,当会は,宮城県内で被災された方々への支援はもちろんのこと,県外から宮城県内に避難された方々も含め全ての被災者に寄り添い,今後も全力で支援を継続していく所存である。
2016年(平成28年)10月20日
仙 台 弁 護 士 会
会長 小野寺 友 宏