2015年(平成27年)9月19日に強行採決された「平和安全法制整備法」(※1)及び「国際平和支援法」(※2)(以下併せて「安保法制」という)は、本年3月29日に施行された。そして、安保法制によって改正されたPKO法(※3)に基づき、同年11月から南スーダンPKO(国連平和維持活動)の部隊として派遣される予定の陸上自衛隊東北方面隊に対して「駆け付け警護」・「宿営地共同防護」の任務付与が検討され、それに向けた武器使用等の訓練がなされているとの報道がなされている。
「駆け付け警護」では、襲撃されている他国要員等を防護するための武器使用が認められ(改正PKO法第26条第2項)、「宿営地共同防護」では、外国の軍隊の部隊の要員と共に宿営する宿営地に攻撃があったときに当該宿営地に所在する者の生命又は身体を防護するための武器使用が認められている(同法第25条第7項)。これらの任務は、敵対勢力の反撃次第で戦闘行為に発展する可能性があり、その場合には憲法第9条が禁止する「武力の行使」又は「武力による威嚇」に抵触する。そして、本年8月12日に採択された国連安保理決議は、陸上自衛隊が参加するPKO部隊であるUNMISS(国連南スーダン・ミッション)の指揮下に置かれる部隊の増派を決定するとともに、その部隊は国連要員や民間人らへの攻撃に「積極的に対処する」としているため、陸上自衛隊が戦闘行為に関わる可能性は一層増していると言える。
そもそも陸上自衛隊の派遣先である南スーダン共和国は、2013年(平成25年)12月から政府と反政府勢力との間で激しい戦闘状態が続き、本年7月にも大規模な戦闘があり、本年10月8日にも首都ジュバ近郊で民間人が襲撃され、多数の市民が死亡したとの報道がなされており、UNMISSも国内各地で暴力や武力紛争が増加していることに懸念を示している。このような状況下における派遣は、憲法第9条との矛盾抵触を防ぐために定められたPKO実施の要件(「武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合に、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される活動」(同法第3条第1号イ。いわゆるPKO5原則の第1ないし第3原則))を満たしているのか疑わしく、派遣自体に憲法上の疑義があるため、情報を開示した上で派遣継続の是非について慎重に判断されるべきである。
当会は、安保法制は憲法第9条に違反することを指摘して、その成立に反対し、廃案を求める意見を繰り返し表明してきた。安保法制が施行された現在においても、これらの法律が違憲であることに変わりはなく、その運用・適用は認められない。そして、今、安保法制によって改正されたPKO法に基づいて憲法違反の自衛隊活動が実行されかねない事態が迫っている。
よって、当会は、引き続き憲法違反の安保法制の廃止を求めるとともに、その運用・適用に強く反対し、その具体的場面として検討されている南スーダンPKOへの「駆け付け警護」及び「宿営地共同防護」の任務付与に反対する。
2016年(平成28年)10月20日
仙 台 弁 護 士 会
会長 小野寺 友 宏
※1:「平和安全法制整備法」の正式名称は、「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」。
※2:「国際平和支援法」の正式名称は、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」。
※3:「PKO法」の正式名称は、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」。