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東日本大震災から6年を迎えての震災復興支援に関する会長声明

2017年03月06日


1 はじめに
東日本大震災の発生から6年を迎えたが,現在でもなお多くの被災者が仮設住宅等での生活を余儀なくされている(平成29年1月31日現在,宮城県全体で,応急仮設住宅で1万2619名,民間借上住宅で9575名の合計2万2194名)。生活再建が進みつつある中で,一部自治体の仮設住宅等の供与期間終了に伴う転居先確保の問題等,復興過程における新たな課題も生まれている。
当会では昨年度に引き続き,被災者の意思を最大限尊重し,被災者一人ひとりが復興するための「人間の復興」という基本的な視点のもと,法律相談,各種提言等の被災者一人ひとりの生活再建のための支援活動を行ってきた。また,平成27年11月からは,在宅被災者問題に取り組み,沿岸被災地に赴いて,在宅被災者の自宅を訪問する戸別訪問型法律相談を実施している。とりわけ平成28年12月からは,石巻市との間で業務委託契約を締結して在宅被災者支援を行っている。これら当会のこれまでの活動により,また震災の発生から6年を経た今,以下のような被災者の生活再建支援における具体的課題が明らかになった。

2 在宅被災者戸別訪問型法律相談から見えてきた被災者支援の課題
① 災害ケースマネジメントの必要性と被災者生活再建支援法の改正
被災者一人ひとりが復興する「人間の復興」を実現するには,まずもって被災者一人ひとりがそれぞれ支援制度を十分に活用できる仕組みが必要である。しかし,国や自治体による多様で複雑な支援制度等の情報を,様々な境遇におかれた被災者すべてに行き渡らせるような仕組みが十分でないため,被災者がそれら支援制度を十分に活用できず,生活再建の重大な障害となっているケースがある。
そこで,被災自治体が,被災者台帳を作成,活用して,住宅被害のみならず生活の糧となる生業・仕事等の生活基盤の損壊も含めた被害を個別に把握した上で,被災者一人ひとりに必要な情報提供を行い,さらにそれぞれの被害状況に応じた支援メニューを作成した上で支援をしていくというシステム(災害ケースマネジメント)が必要である。
また,これを実現するため,被災者に対する情報周知や支援制度にかかる相談等を担当する被災者生活再建支援員制度の創設を内容とする被災者生活再建支援法の改正等が検討されるべきである。
② 戸別訪問型支援体制・ワンストップ型支援体制構築の重要性
上記災害ケースマネジメントを有効に機能させ,被災者の早期の生活再建を図るためには,いわゆる申請主義的対応ではなく,上記生活再建支援員などが在宅被災者に対し戸別訪問を行い,被害実態,被災者の抱える問題を把握し,当該被災者に対し,支援制度の説明や,再建方法の選択の支援などを行う必要がある。
また,当該被災者に対し,支援制度の説明や,問題解決にあたり複数の支援が必要となる場合には,ワンストップで総合的な支援を行う制度が必要となる。具体的には,前述のような被災者生活再建支援員制度の創設による被災者生活再建支援員による支援のほかに,社会福祉士,精神保健福祉士等の専門家を被災者宅に派遣し,被災者一人ひとりの実情を調査し,支援を行うことが必要である。
さらに,被災による生活再建のため老後の生活資金として蓄えた金融資産などを費消せざるを得なくなった年金生活者世帯,被災のために仕事を失った被災者,仮設住宅からの退去者のうち税金滞納などの理由から災害復興公営住宅に入居できない困窮者など,経済的問題を抱えている被災者が多く存在していることが明らかとなっている。それら被災者の中には,生活保護制度の利用の検討を要する被災者が含まれるが,生活保護制度を十分理解していない被災者や生活保護制度に対するマイナスのイメージから,自治体への相談を躊躇する被災者も少なくない。このような被災者の生活再建にあたっては,被災者のための各種支援制度のみならず,既存の社会福祉制度の適切な活用が必要となる場合もあり,被災者の個別の状況に応じて,災害ケースマネジメントから社会福祉制度の利用への適切な橋渡しがなされる仕組みが必要である。

3 住まいの再建の課題
① 住まいの再建のままならない被災者が多数いること
上記在宅被災者調査及び各種法律相談の結果から,住まいの再建が果たせない被災者が多数存在することが明らかとなっている。
建物の被害が甚大であった沿岸部などでは,自力での生活再建が容易ではなく,仮設住宅から退去できない被災者が多く見られる。
まず,防災集団移転促進事業等による造成宅地に自宅を再建する予定であった被災者の中には,震災から6年もの間に失業や離婚等で事情が変わったり,年齢や収入から自宅を再建するために十分な住宅ローンを組めなかったり,あるいは建築コストの高騰のため自宅が再建できない被災者もいる。しかし,災害復興公営住宅は当初からそこへの入居を希望していた被災者数を前提に建設されていることもあって,途中で自宅再建を断念した被災者は,原則として災害復興公営住宅に入居できない。
また,自治体の中には,税金滞納や各種公共料金を滞納していないこと,連帯保証人が必要であることを災害公営住宅の入居要件とするなど,被災者の生活状況に照らして厳しく運用がされており,災害公営住宅に入居できない被災者もいる。さらに,震災後,世帯を分離した被災者が災害復興公営住宅に入居できない事例や災害復興公営住宅の所得要件について,同居世帯単位で画一的な取扱いを行った結果,実際には同一に生計を営んでいない実質的な複数世帯であっても一世帯と扱われ,所得要件を超過し,家賃が高額になるため,災害復興公営住宅への入居を諦めざるをえないという事例も生じている。
このように,多くの被災者が,災害復興公営住宅の入居を希望しても入居することができない状況にある。その被災者の多くは民間賃貸住宅に入居せざるをえないところ,沿岸部においては,そもそも受け皿となる民間賃貸物件が少なく,被災者(とりわけファミリー世帯等)のニーズに合う民間物件が不足していること,民間賃貸借上住宅(みなし仮設住宅)の影響もあり,震災後,家賃が上昇していること,災害復興公営住宅以上に入居要件(所得要件や連帯保証人の要件)が厳しいことから,民間賃貸住宅に入居することが困難となっている。
他方,自力では被災した自宅を修理することができずに劣悪な住環境のもと生活せざるをえない在宅被災者も少なくない。在宅被災者の多くは,生活再建支援法の加算支援金を受領していることから,災害復興公営住宅に入居することができず,また,津波浸水区域であることから売却して他に自宅を再建ないし賃借することも困難である。
このように,震災から6年目を迎える今なお住まいの再建さえままならない被災者が多数いる。
② 被災者に対するさらなる支援の拡充の必要性
「人間の復興」は生活の基盤となる住まいの安定的な確保が前提である(憲法13条,25条)。しかしながら,このような住まいの再建さえままならない被災者の現状は,「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)が脅かされているものと言わざるを得ない。そこで,災害復興公営住宅の絶対数を確保するとともに,自力では住宅を確保することが困難な被災者が災害復興公営住宅へ入居できるよう入居要件を更に緩和するとともに,被災者の生活状況に応じた公営住宅の家賃の低減化,民間賃貸住宅へ入居する被災者に対する家賃補助制度の創設など支援を拡充することが必要である。
また,上記災害ケースマネジメントの創設のほか,災害救助法に基づく応急修理制度の上限額の引き上げや被災者生活再建支援法に基づく加算支援金について被災の程度や世帯の人数に応じて増額するなど法令の改正を行うとともに,修理可能な建物の所有者に対する修繕費用の給付制度の創設も検討すべき課題である。かかる支援の拡充により,被災者は早期に住まいを再建できるだけでなく,従前の地域コミュニティの維持にも資する。それにとどまらず,被災した自宅を早期に再建できることから,仮設住宅や災害復興公営住宅の建設コストや維持管理費を削減することができ,有限な復興費用を適切に配分することにもつながることから,早急に検討がなされるべきである。

4 債務の返済に関する問題
震災から6年を経過し,復興が進む中,以下の問題点が明らかになっている。
①  災害援護資金貸付返済開始に伴って生じる問題
平成23年に災害援護資金貸付を受けた被災者については,6年の据置期間が終了することになり,返済が開始する。
しかし,震災による被害,二重ローン問題,経済不況等により,生活再建が進まない被災者が多数存在する。被災者の中には,生活再建資金が必要であるにもかかわらず公的給付の要件に合致しないためその支給対象外とされ公的給付制度を十分に利用できず,貸付を受けざるを得なくなかった被災者も存在している。
一方,阪神・淡路大震災を見ても,震災後20年以上を経ても災害援護資金貸付の未返済は多額に上る。少しずつ返済を続けるものの,完済の見込みの立たない被災者も多数いる。東日本大震災における生活再建の現状を見れば,東北被災県でも,返済の見込みが立たず,返済で生活を困窮させる被災者が多数出ることが予想される。
「人間の復興」を進めていく上では,被災者一人ひとりの生存を脅かすような事態は極力避けられるべきである。当会は,災害援護資金貸付の返済で困窮する被災者に対する相談体制の拡充を図り,支援に積極的に取り組む所存である。また,災害援助資金貸付の免除要件の弾力的運用,さらなる要件緩和の法改正など,当会としても,必要な提言をしていく所存である。
②  二重ローン・被災ローン減免制度問題
被災者の中には,住宅ローン等の債務について,一定期間弁済の猶予を受けてきた者も少なくない。その猶予期間が満了し弁済が再開することにより,今後の弁済が困難となる被災者については,個人版私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)の利用が積極的に検討されるべきである。
また,仮設住宅からの退去等に伴い,住宅ローンや家賃等の新たな住居費の負担に実際に直面した結果,支払が困難になる被災者もありうる。さらに,一度は被災ローン減免制度の利用を検討したものの,要件に該当しないなどの理由で利用を断念した被災者であっても,その後の事情の変更により要件に適合し再度の申出を検討してしかるべき場合もありうる。
これらの被災者を被災ローン減免制度の利用につなげるためにも,被災ローン減免制度についての継続的な広報活動が必要である。
当会は,今後も,被災者一人ひとりの生存が二重ローンによって脅かされることのないよう,個人版私的整理ガイドライン運営委員会や金融機関その他の関係団体と積極的に連携し,被災ローン減免制度の利用促進に尽力していく所存である。

5 原発問題
福島第一原子力発電所事故は,居住の自由(憲法22条),営業の自由(同条),財産権(憲法29条),平和的生存権(憲法前文,13条,25条)に対して甚大な打撃を与え,その被害は深刻化,個別化しており,6年経過した現在に至っても収束していない。
当会は,平成24年2月25日に総会決議で原子力発電からの撤退を求めた。今後も原子力発電からの撤退を引き続き求める。
また,平成28年10月20日に,区域外避難者への住宅無償提供打ち切りに反対し,原発事故避難者の恒久的な住宅支援策を講じることを求める会長声明を発表し,関係各機関に対し被害者の実情に応じた支援の継続を求めているところである。
なお,現在まで行われてきた被害者に対する対応は地域間で格差があり,その対応の内容は個々の被害者の実情に即したものとは言い難い。
当会は,これから全国各地で示される司法判断の動向なども注視しつつ,被害実態に即した被害回復のために必要な提言等を今後も継続して行う所存である。

6 その他の課題
以上述べてきた課題の他にも,多くの課題,問題がある。具体的には,①自治体ごとに打ち切りか継続かで対応が異なる医療費免除の問題があり,被災者の生活再建支援という視点からは,最後の一人が生活再建できるまで,必要な被災者には医療費免除を継続するべきである。②災害弔慰金の支給・災害関連死の問題については,災害弔慰金の受給資格があるものの制度を利用していない方が想定されるため,自治体側からご遺族等に対しての周知徹底に努める必要がある。③被災者生活再建支援法に基づく基礎支援金および加算支援金の申請期限が平成30年4月10日と定められていることから,自治体は,有資格者に対する周知徹底とともに,更なる延長についての検討が必要である。④震災後の復興事業について,相続関係が不明で地権者が特定できない等により事業が遅れるという相続関係不明地等の問題もある。そのほか,被災者・被災地の生活再建・震災復興における問題・課題は数多く存在する。

7 まとめ
以上の課題・問題に照らし,現在でもなお多くの被災者が現実的な問題に直面し,不安を抱えているという現状を踏まえ,東日本大震災から6年を迎え,当会は,引き続き「人間の復興」という基本的な視点に基づき,より一層充実した相談体制の構築,情報提供の充実を図り,被災者の一人ひとりに向き合い,その不安を解消し,被災者一人ひとりの生活基盤の確保・充実のための法的支援や被災事業者の復興に向けた支援活動に邁進する所存であることをここに宣言する。

2017年(平成29年)3月6日

仙 台 弁 護 士 会

会 長 小野寺 友 宏

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