2017年(平成29年)3月15日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 小野寺 友 宏
当会は、これまで特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号、2014年(平成26年)12月10日施行)(以下「本法」という。)について、2013年(平成25年)12月13日付会長声明、2014年(平成26年)2月22日付総会決議、同年8月19日付意見書及び同年11月13日付会長声明により、国民の知る権利の保障を害し、国民主権の基本原理にもとるなど多くの憲法上の問題点があることから本法の全面廃止を繰り返し求めてきた。
ところが、本法は廃止されないばかりか、施行から2年が経過し、運用上の課題も徐々に明らかになってきた。
そこで、以下のとおり、改めて本法の全面廃止を求めるとともに、本法の全面廃止までの間、以下のとおり本法の一部規定の即時廃止や運用の見直しを求めるものである。
意 見 の 趣 旨
1 本法は、民主主義にとって不可欠な国民の知る権利を侵害し、憲法に反するものであるから、当会は、同法が施行された現時点においても、同法の全面廃止を改めて求める。
2 本法の全面廃止までの間、次のとおり、本法の一部規定の即時廃止ないし運用の見直しを求める。
(1) メディアの正当な取材行為や市民による情報源に対するアクセスに対する保護を徹底すべきであり、捜査手続ないし公判手続を通して、これらの行為に対して漏えい罪の教唆(本法25条1項、23条)ないし取得罪(本法24条)を適用すべきではない。
(2) 本法においては、別表によっても何が特定秘密であるか明確にならないところ、さらに広範な処罰を認めることとなる独立教唆類型ないし共謀類型(本法25条)については、処罰範囲が無限定に広がることとなるのであり、直ちにこれを廃止すべきである。
(3) 国民主権の観点から、行政情報は原則として国民の共有財産(公共財産)であって国民に対して公開されるべきものであるから、行政機関の長は安易な秘密指定をしないよう特に留意すべきである。とりわけ行政機関の違法行為については、特定秘密に指定してはならないことを本法において明確に定めるべきである。
(4) 国権の最高機関である国会の権能である国政調査権の行使や衆参両院の情報監視審査会の勧告に対しては、法的拘束力を持たせるべきである。
(5) 本法又は公益通報者保護法において、各行政機関、内閣府独立公文書管理監及び情報監視審査会を通報先とする内部通報者保護規定を設けるべきである。
(6) 指定権者である行政機関の長は、主権者たる国民の民主的統制を経るためにも可能な限り指定期間が短くなるような運用を徹底すべきである。
(7) 特定秘密が記載された文書については、保存期間満了後、情報公開がなされるように、原則として全てを国立公文書館等に移管しなければならない旨の規定を公文書管理法等に設けるべきである。
意 見 の 理 由
当会は、上記のとおり、本法について、①特定秘密の範囲が広範かつ不明確で、恣意的な秘密指定がなされるおそれがあるため、知る権利の保障を害し、国民主権の原理にもとること、②秘密指定等の適正をチェックする独立した第三者機関が存在しないこと、③処罰範囲も広範かつ不明確であり、罪刑法定主義の観点からも重大な疑義が存し、国民やメディアにも深刻な萎縮効果をもたらすこと、④適性評価制度により国民のプライバシーや思想・良心の自由を侵害されるおそれがあること、⑤被疑者・被告人の防御権及び裁判を受ける権利を侵害しかねないこと、⑥国会、国会議員の活動を制約しかねないこと、⑦そもそも立法事実がないこと、などを指摘し、同法は廃止するほかないことを訴えてきた。
当会は、現在においても本法の廃止を求めるものであるが、本法の施行から2年が経過し、同法の運用上課題も徐々に明らかになってきたことも踏まえ、本意見書により現時点での総括をすることとした。意見の理由については、以下のとおりである。
第1 憲法の人権保障に対する重大な制約となること
本法には、人権保障との関係、特に表現の自由・国民の知る権利との関係で、情報にアクセスする側を不当に処罰しかねないという問題があり、メディア・市民活動の萎縮が懸念される。
1 特定秘密は、本法の別表一~四(防衛、外交、特定有害活動-スパイ-の防止、テロリズムの防止に関する各事項)に掲げる事項とされるが、例えば防衛に関する事項では「自衛隊の運用」とあるとおり、特定秘密の範囲が広範かつ不明確で、恣意的な秘密指定がなされるおそれがあるため、知る権利の保障を害し、国民主権の原理にもとるものである。
本法の別表及び「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(以下「運用基準」という。)を総合しても、秘密指定できる情報は極めて広範であり、恣意的な特定秘密指定の危険性が解消されていない。また、本法には、違法・不当な秘密指定や政府の腐敗行為、原発事故などの大規模な環境汚染の事実等を秘密指定してはならないことを明記すべきであるのに、このような規定がない。とりわけ、行政機関の違法行為については、秘密指定してはならないことが運用基準に定められたが、メディアや市民が違法秘密を暴いて摘発された際の無罪主張の法的根拠として、本来本法において明記すべきである。
2 一方、本法「第七章 罰則」において、漏えい罪(23条)の教唆類型や取得罪(24条)など、特定秘密の取扱業務に従事しないメディアや市民も処罰対象とされている。ここでいう「教唆」とは、刑法の一般原理と異なり、特定秘密の取扱業務従事者が実際に漏えい行為に着手することは不要とされている。加えて、これらの行為の未遂、過失も罰せられるほか、上記違反についての共謀も罰するとする。共謀については、漏えい行為等の実行を計画し、それについて合意しただけで処罰されることとなり、処罰範囲も極めて広範かつ不明確となるおそれがある。本来、法益侵害の危険を発生させる実行行為のみを処罰するという刑法の基本原則に反するものであり、共謀については、結果として個々人の考え(思想・良心)を罰することになり、憲法19条からも、憲法31条に定める罪刑法定主義の観点からも重大な疑義が存し、国家権力による恣意的運用を許すおそれがあり、市民の情報へのアクセスやメディアの正当な取材行為にも深刻な萎縮効果をもたらすものである。
3 かかる危険性に加え、実際に逮捕・勾留ないし捜索差押の対象となり、又は公訴提起された場合などには刑事手続上様々な点が問題となる。
(1)逮捕・勾留、差押に伴う問題点について
未遂、独立教唆等にとどまり、秘密情報が漏えいしていない事件では、被疑事実を特定するために秘密情報をそのまま逮捕令状等に記載できず(記載すれば、そのこと自体が秘密漏えいに該当しかねない(本法23条2項、10条1項1号ロ参照))。したがって、逮捕・勾留や捜索差押令状の記載自体からは、被疑者は、自身がどのような秘密に接近(アクセス)したことで逮捕・勾留、捜索差押を受けているのか分からないため、何らの防御もとれないこととなる。また、捜査に伴いメディアが使用しているパソコンなどが捜索差押されることとなれば、メディアに対する強力な規制になり得、その萎縮効果も極めて大きなものとなる。
本法は、その条文の文言上も、秘密の対象となる事項が非常に広範な定め方になっていることから、捜査機関が法律を濫用し、恣意的な逮捕・勾留や捜索差押をするとすれば、メディアは取材行為、市民は情報へのアクセスを行うこと自体を躊躇するようになるため、本法の存在自体が、メディアの正当な取材行為や市民の情報へのアクセスをも著しく萎縮させてしまうことになる。
(2)外形立証について
また、本法違反で起訴された場合、秘密の立証につき、政府は外形立証(①秘密の指定基準が定められていること、②当該秘密が国家機関内部の適正な運用基準に則って指定されていること、③当該秘密の種類、性質、秘扱いする由縁等を立証することにより、当該秘密が実質秘であることを推認する方法)によって行うとしている。
しかし、仮に外形立証によるとすると、被告人側において実質秘性の反証を行うことになるが、外形的事実に関する反証に限定されてしまえば、被告人の防御権は著しく制限されてしまうことになる。
また、本法の罰則が公務員法等の秘密漏えい罪などが1年以下の懲役等と規定されている事と比べて、法定刑が10年以下の懲役等と著しく重くなったため、量刑問題の重要性は格段に大きくなっている。犯情立証において行為責任の要となるのは、行為による被害の大きさであり、漏えい行為が具体的にどのような被害や危険性を生じさせたかという点の立証が不可欠となるところ、外形立証ではこの点が明らかにならない。そうすると、外形立証は量刑判断に関しても、著しく不相当である。
(3)重い刑罰が規定されていること
これまで、公務員が職務上知ることのできた秘密を遺漏した場合、国家公務員であれば、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科されることとされていたのに対して、本法では、特定秘密情報を扱う公務員や民間業者が情報を漏らした場合には懲役10年以下の刑罰が科されることとなるほか、情報を漏らすように働きかけた民間人らに対しても、懲役5年以下の刑罰が科されることとされている。
このように、本法は、これまでに比して著しく重い刑罰が科されることが規定されているため、このような点からも、メディアの取材行為や市民の情報へのアクセスに対して与える萎縮効果は計り知れないものがある。
4 国家機密に対するメディアの取材行為や市民の情報アクセスを刑事罰の対象としてはならないことは、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則。2013年6月)にも明記されており、アメリカやヨーロッパの実務においても、このような保障は実現されている。国連人権(自由権)規約委員会も、2014年(平成26年)7月31日、日本政府に対して、秘密指定には厳格な定義が必要であること、メディアや人権活動家の公益のための活動が処罰の対象から除外されるべきことなどを勧告した。
この点、メディアに対する保護規定(本法22条)は不十分であり、公益のために秘密を開示したメディアや公務員を処罰の対象から除くことが求められる。すなわち、本法の「第6章 雑則」に規定されている22条は、1項で知る権利に「配慮」すると定められているがその実効性は期待し難く、2項で、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。」と定めるものの、「著しく不当な方法」か否かは第一次的には捜査機関側が決めるものであるから、実効性は担保されない。
5 以上のような問題点については、2014年(平成26年)2月22日付当会総会決議においても指摘してきたが、これらの問題点の大部分はメディアや市民に対して漏えい罪の教唆や取得罪を適用しなければ解消されるものである。また、本法25条に定める独立教唆類型や共謀類型の処罰規定については、刑法の実行行為者を処罰するという基本原則に抵触するものであり、このような広範かつ不明確な処罰類型は即時廃止すべきである。
第2 秘密指定権者である行政機関についての問題点
1 秘密指定の構造的な問題
(1)本法成立に至る経緯を振り返ってみると、2007年(平成19年)8月10日に日米間において締結された軍事情報包括的保護協定(GSOMIA)では、「秘密軍事情報を受領する締約国政府は、自国の国内法令に従って、秘密軍事情報について当該情報を提供する締約国政府により与えられている保護と実質的に同等の保護を与えるために適当な措置をとること」(6条(b))とされており、ここにいう「適当な措置」として本法が制定されている。このような流れを背景に、本法別表一においては広範な軍事情報を秘密指定できるように規定されるに至っている。
そして、特定秘密に指定された情報は、「特定秘密の提出が我が国の安全保障に著しい支障をおよぼすおそれがある」(国会法102条の15第5項)という要件を当然に満たすことになり、国会に対する特定秘密の提供も拒めることとなっているなど、安全保障に関する情報については、構造的に秘密とされうる法制となっている。
秘密指定により充分な情報公開がなされないことが危惧される事例として、南スーダンPKO(国連平和維持活動)の部隊としての陸上自衛隊東北方面隊派遣が挙げられる。2016年(平成28年)12月12日からは「駆け付け警護」・「宿営地共同防護」の任務が実施可能となっているが、南スーダンPKOがPKO実施の5要件を満たしているのか疑わしく、派遣自体に憲法上の疑義があるため、情報を開示した上で派遣継続の是非について慎重に判断されるべきであることは、当会が指摘してきたところである(仙台弁護士会2016年(平成28年)10月20日付「憲法違反の安保法制の廃止を求めるとともに南スーダンPKOに対する運用・適用に反対する会長声明」)。
報道によれば2016年(平成28年)7月の陸上自衛隊の日報の一部が廃棄されたとされていたが、後に存在が確認され生々しい現場の実態が明らかになった。PKO活動に際して生じた出来事の情報については、「自衛隊の運用」(本法別表一イ)に該当するものとして秘密指定の対象となりうるため、何でも秘密指定される懸念が払拭できず、南スーダンPKOが憲法9条から導かれるPKO5原則に合致するものであるか否かを明確にするためにも、政府には、安易な秘密指定は許されず、情報の公開が求められるというべきである。
この点を考えるにつき、航空自衛隊のイラク派遣が憲法9条に反するとした2008年(平成20年)4月17日の名古屋高裁判決を忘れてはならない。けだし、同判決で国が秘密としていた航空自衛隊が米兵を運んでいたという実態が明らかにされたからである。これらの情報が秘密指定されれば、国民はPKO活動の実態を何も知ることができなくなり、主権者としての判断もできなくなろう。
(2)また、本法別表二(外交に関する事項)について秘密指定の運用が懸念される事例として、高江ヘリパッド建設予定地付近を通る沖縄の県道70号が共同使用地になった際の協定書などの公文書について、日米両政府の同意を得ずに沖縄県が県情報公開条例に基づき開示決定したのは違法だとして、国が県に決定取消しを求めた行政訴訟が挙げられる。
この事件当時は、本法施行前であったため、当該公文書が秘密指定されることはなかったが、県情報公開条例に則り沖縄県知事が開示決定を出したところ、国は、当該文書が日米双方の合意がない限り公表しないとされている日米合同委員会議事録の一部にあたり、米国から同意しないとの回答を得たとして、県情報公開条例7条1号(法令の規定により公開できない情報)及び7号(県,国等の事業に関する情報)に違反すると主張している。
本法施行後は、このような文書についても秘密指定されることにより開示しないことが正当化されるおそれがあり、知る権利ないし情報公開法制上の問題がある。この事例は国の地方公共団体への関与のあり方(地方自治法257条の2以下参照)についても大きな問題を提起した。
(3)公文書管理法も遵守されていない
公文書管理法4条は、「行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。」と規定し、その一号において「法令の制定又は改廃及びその経緯」を挙げている。
しかし、2014年7月1日の集団的自衛権の閣議決定に関して意見を聞かれた内閣法制局の検討過程の記録が残っておらず、文書は作成されていない、とされている。
閣議決定案件の審査ないし意見は、軽微なものではないため、「処理に係る事案が軽微なものである場合」に当たらない以上、集団的自衛権の閣議決定に関して意見を聞かれた内閣法制局の検討過程の記録については文書作成義務を負う場合に該当する。
したがって、内閣法制局が検討過程の文書を作成していなかったとされていることは、公文書管理法4条に違反する運用であったといえる。
2 行政機関による秘密指定に関する監督は機能しない
(1)行政機関による特定秘密指定に関する監督としては、内閣総理大臣による指揮監督の他、内閣保全監視委員会および内閣府独立公文書管理監があるが、いずれも行政機関内部による監督である。
政府の恣意的な秘密指定を防ぐためには、すべての特定秘密にアクセスすることができ、人事、権限、財政の面で秘密指定行政機関から独立した公正な第三者機関が必要である。内閣総理大臣及び内閣保全監視委員会は、行政機関の内部機関そのものであるし、独立公文書管理監には、特定秘密にアクセスする権限がない。また、独立公文書管理監を補佐する情報保全監察室についても出向職員の秘密指定機関への出戻り(リターン)がありうる制度となっているなど独立性確保のための制度がない。これらの点は、当会2014年(平成26年)2月22日付総会決議においても指摘してきたが、全く改善されていない。
(2)会計検査院
憲法は「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査する」と定め、行政機関内部でも独立性を確保された会計検査院の検査により法的見地から決算内容の合法性と適格性を担保している。
しかしながら、政府は、2016年(平成28年)2月12日、「会計検査院に対する特定秘密の提供について」との政府見解を示し、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがない」とは言えないと時の政府が判断する場合には、「会計検査院に対する特定秘密の提供が認められない」こととなった。
これは、本法という法律によって、憲法の上記財政規範を制限しようとするものであり、憲法秩序に明確に反する。
3 以上からは、行政機関は、秘密指定機関として情報公開に消極的であるばかりか、このような秘密指定機関の運用を是正する制度的保障がないと言わざるを得ない。
国民主権の観点からは、行政情報は原則として国民の共有財産(公共財産)であって、司法的統制が及びにくい防衛・外交に関する行政情報こそ国民に広く公開され、主権者たる国民の民主的統制を及ぼすべき必要性が本来的に高いはずである。行政機関の長は、安易に秘密指定をしないような運用を徹底すべきである。
第3 国会による民主的統制にも限界がある
1 国政調査権との関係
各議院又は各議院の委員会が、行政機関に対し、国政調査権(憲法62条)を具体化した国会法104条1項の規定によりその内容に特定秘密である情報が含まれる報告又は記録の提出を求めた場合において、行政機関の長が同条2項の規定により理由を疎明してその求めに応じなかったときは、その議院又は委員会は、同条3項の規定により、その報告又は記録の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができる。しかし、内閣が声明さえ出せば合法的に報告又は記録の提出を拒否できることから、国政調査権が骨抜きになるおそれがある。
2 情報監視審査会
そこで、特定秘密に対する国会の監視機能を強化するために衆参両院に情報監視審査会が設置されたが、以下のとおり同審査会は有効に機能し得ない。
(1)第1に、国会法102条の15は、内閣が、特定秘密の提出が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある旨の声明を出しさえすれば、特定秘密を国会に提出しなくてもよいとしており、情報監視審査会の委員でさえも特定秘密を見ることができない場合が広く存在することが予想されるので、実効的な監視は到底期待できない。
(2)第2に、情報監視審査会の委員は、衆議院及び参議院で各8名ずつのみで組織され、各会派の議員数に比例させるとしている(衆議院情報監視審査会規程2条及び参議院情報監視審査会規程2条)ため、与党及び本法に賛成する立場の議員が委員の大多数を占めることになるところ、与党及び本法に賛成する立場の議員が本法の運用を監視することとなり、チェック機能を果たし得ない事態が想定し得る。同審査会については、チェック機能が充分果たされるような委員構成がなされるべきである。
(3)第3に、本法においては、情報暴露に関する公務員以外への制裁の禁止、情報源及び内部通報者の保護等が規定されていないため、報道機関が特定秘密にアクセスすることは極めて困難となり、また、公益通報者保護法上も過剰な秘密指定を公益通報した者を保護する規定、特に刑事上の免責を認める規定を有していない。
よって、メディアへの情報提供、行政機関職員等の内部通報等は期待できず、国政上特定秘密に関連する事項が問題になって情報監視審査会で検討する必要が生じたような場合を除くと、情報監視審査会は必要な端緒情報を得ることが極めて難しく、活発に機能することを期待できないことは明らかである。
情報暴露に関する公務員以外への制裁の禁止、情報源及び内部通報者の保護、違法・不当な秘密指定を公益通報した者を保護する明文の規定が設けられるべきである。
(4)第4に、情報監視審査会が特定秘密の指定を解除すべきだと判断したとしても、なし得るのは勧告だけであり、法的拘束力はないという点である(国会法102条の16)。特定秘密の適正な指定を確保するため情報監視審査会の判断に法的拘束力を持たせるべきである。
3 国会には、国民の知る権利に奉仕するために政府を監視し、健全な民主制を支えていく責任が課せられている。国会にこのような機能を果たさせるためには、本法や国会法の抜本的な改正が必要である。
第4 公文書管理・情報公開との関係での課題
1 指定権者である行政機関の長は、秘密指定をする場合でも5年以内でできる限り短い有効期間とすべきであり、長期間秘密指定が継続されることがない運用を徹底すべきであること
本法4条は、特定秘密の有効期間を5年以内とし、延長する場合は5年に延長し、有効期間が通じて30年を超えるときには内閣の承認が必要であるとしているが、指定権者である行政機関の長の判断を追認する形で内閣の承認がなされることが予想される。また、30年を超えて秘密とされていた情報を事後的に検証しても、遅きに失することが容易に予測される。南スーダンPKO派遣の真実の姿がこれから30年後明らかにされても殆ど事後検証の意味がないであろう。したがって、指定権者である行政機関の長は、原則5年以内で有効期間をできるだけ短く設定すべきであるし,安易に有効期間が延長されることがないよう厳格な運用をすべきである。
2 特定秘密が記載された文書は国立公文書館へ移管されるべきであること
特定秘密が記載された文書が不適正に廃棄されることを防ぐには、特定秘密が記載された文書は廃棄せず、基本的には全てが国立公文書館等に移管するものとすべきである。
本法4条6項は、指定の有効期間を30年超とすることについて内閣の承認が得られなかった特定秘密が記録された行政文書ファイル等は保存期間満了とともに国立公文書館等に移管しなければならないものとし、運用基準は、その他に、「行政機関の長は、指定の有効期間が通じて30年を超える特定秘密に係る情報であって、その指定を解除し、または指定の有効期間が満了したものを記録する行政文書のうち、保存期間が満了したものは、公文書管理法第8条第1項の規定にかかわらず、歴史公文書等として国立公文書館等に移管するものとする」としている(運用基準15ページ)。
これらの規定は、後世の国民により特定秘密の指定等の経緯を監視し、当該特定秘密を前提になされた政治を事後的に検証することを可能にするためのものである。この考え方によれば、行政機関の長において定める指定期間がたまたま30年以下であったからといって、指定等の経緯を監視する必要性がないということにはならない。
ところが、特定秘密指定の有効期間が30年以下の場合には、当該特定秘密が記録された行政文書ファイル等は保存期間満了後に内閣総理大臣の同意を要件として廃棄することも可能となる(公文書管理法8条1項,同法5条5項)。そのため、行政機関の長が、内閣総理大臣の同意を得て廃棄してしまうと、特定秘密の指定等や当該特定秘密を前提になされた政治を事後的に検証する機会が奪われてしまう。
このような観点からすると、本法4条6項は、特定秘密の指定及び解除を検証・監視するための規定としては不十分であるから、原則的に特定秘密が記載された全ての行政文書を国立公文書館等に移管する旨の規定が公文書管理法等に設けられなければならない。
第5 結論
以上のとおり、本法には多くの問題があり、知る権利をはじめとする憲法上の人権を大きく制約するものであるから、全面的に廃止されるべきである。また、全面的な廃止に至るに先立ち、上記の意見の趣旨に掲げた本法の一部規定の即時廃止、そして運用の見直しを速やかに実施する必要がある。
以 上