2017年(平成29年)12月19日,東京拘置所において,死刑確定者2名に対する死刑の執行が行われた。いずれも弁護人がついて再審の請求をしており,うち1名は犯行時少年であった。同年8月に上川陽子法務大臣が就任してから初めての死刑執行であり,第二次安倍内閣の下での死刑執行は12回目で,合わせて21名になる。
死刑制度は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を有しているものであり,また,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものである。2014年(平成26年)3月27日に,静岡地方裁判所が,袴田巖氏の第二次再審請求事件について再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する決定をしたことは,えん罪による生命侵害の危険性を現実のものとして世に知らしめた。
当会はこれまで,政府に対し,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の存廃について,国民が十分に議論を尽くし意見を形成するのに必要な情報を広く国民に公開して,国民的議論を行うよう繰り返し求めてきた。
それにもかかわらず,政府が国民的議論のための情報開示を十分に行わないまま今回の死刑執行を行ったことは,死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を著しく欠いたものであり,死刑の執行を停止し死刑制度の存廃を含む抜本的な検討と見直しをする必要性を軽視したものであると言わざるを得ない。
とりわけ,死刑が執行された2名は,再審請求中の者であるが,再審請求中に死刑を執行することは,誤判・えん罪の可能性を審査する再審の機会を奪うことにほかならず,裁判を受ける権利(憲法32条),適正手続保障(憲法31条)との関係で重大な問題を孕む。このような問題を解消するためにも,再審請求に死刑執行停止効を持たせる規定の導入を検討すべきである。
また,2名のうち1名は犯行時19歳の少年であった。1994年(平成6年)に我が国でも発効した子どもの権利条約は,18歳未満の子どもに対しては死刑を科すことを禁止している。子どもの権利条約の前文に引用されている少年司法運営のための国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)は,少年の年齢を区別することなく,「少年とは,各国の法律制度の下において,犯罪について成人とは違った仕方で取り扱われている児童又は若者をいう」(第2条2(a))とした上で,「死刑は少年が行ったいかなる犯罪についても科してはならない」(第17条2)と規定しているのであり,子どもの権利条約の死刑禁止の趣旨は,犯行時18歳・19歳のいわゆる年長少年についても尊重されるべきである。
よって,当会は,政府に対し,今回の死刑執行について断固抗議するとともに,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の犯罪抑止効果,死刑囚の置かれている状況,死刑執行の選定基準やプロセス,死刑執行の方法,誤判・えん罪と死刑の関係など死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始するよう改めて求める。また,犯行時18歳以上の少年に死刑を科すことを許容することの是非について,より一層の国民的議論を深めるための諸施策の実施を改めて求める。
2018年(平成30年)1月11日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 亀 田 紳一郎