政府は、2018年4月6日、特定高度専門業務・成果型労働制、いわゆる高度プロフェッショナル制度の創設を含む「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(以下「本法案」という)を国会へ提出した。
高度プロフェッショナル制度の創設は、企画業務型裁量労働制の拡大とともに、2015年の第189回通常国会に提出された労働基準法改正案に盛り込まれていた。当会は、2015年2月5日付「労働時間規制の緩和に反対する会長声明」において、高度プロフェッショナル制度の創設について、長時間労働を助長すること、適用対象労働者の範囲が抽象的であり、およそ対象が無限定であること、ひとたび制度が創設されれば年収要件の引下げで適用対象労働者が拡大していくおそれが強いこと、労働者の生命と健康を脅かす極めて危険な内容であるとして反対する声明を公表し、同法案は実質審議が行われないまま廃案となったものである。これらの危険性について、本法案において、払拭されたとは言い難い。
さらに、2017年に公表された「過労死等防止対策白書」によれば、2016年度に労災認定された過労死や過労自死は191件に上り、近年は200件前後と高止まりが続いており、長時間労働の是正こそが喫緊の課題というべき状況である。
そして、政府は、2015年以来、もともと本法案にあった企画型裁量労働制の拡大について、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く者の労働時間の長さは、平均的な者で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」との説明により正当化してきた。しかし、政府は、今通常国会において、上記データが不正確なものであるとして、答弁を撤回し、企画業務型裁量労働制の拡大について法案から削除するに至ったところ、上記データは高度プロフェッショナル制度創設の根拠としても利用されてきたものである。法案の根拠資料が不正確であることが明らかになった以上、労働時間規制を全面的に排斥する高度プロフェッショナル制度を創設する立法事実、正当化根拠は疑わしい状況となっている。
労働基準法は、労働時間規制の歴史的経過も踏まえ、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない(1条1項)。」とし、1日8時間・1週40時間労働の原則を採用しているところ、係る法の趣旨に鑑みても長時間労働を助長する高度プロフェッショナル制度の創設は到底容認できない。とりわけ、職種や収入等を根拠に長時間労働を許容し得る高度プロフェッショナル制度の創設は、労働者が人たる生活を営むことを著しく阻害することになるものとして、労働基準法の趣旨を根底から否定するものと言わざるを得ない。
したがって、当会は、高度プロフェッショナル制度の創設の危険性について改めて指摘するとともに、国会に対し、同制度を創設する法案を廃案にすることを求める。
2018年(平成30年)4月26日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 及 川 雄 介