本年8月2日,東京医科大学(以下「東京医大」という。)が本年2月に行った医学部医学科の一般入試で,女性受験生の得点を一律に減点し,女性合格者数を抑えていたことが報道で明らかになった。また,本年8月6日付東京医大内部調査委員会の調査報告書によれば,遅くとも2006年度の入試以降,継続的に女性受験生に不利な得点操作が行われてきたとのことである。
このような女性であることのみを理由とした入学試験での不利益取扱いは,性別のみによる不合理な差別であり,私人間においても尊重されるべき法の下の平等(憲法第14条第1項参照)の趣旨に反し,性別によって教育上差別されないとする教育基本法第4条第1項にも違反する。また,かかる不利益取扱いは,女性に対し,性別を問わず能力に応じて等しく教育を受ける権利(憲法第26条第1項参照),医師という職業を選択する自由(憲法第22条第1項参照)を不当に制限するものであり,これらを保障する憲法の趣旨にも反する。さらに、我が国は,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」を批准しており,教育の分野における女性差別の撤廃のため適切な措置を採る必要がある(同条約第10条(b))。
東京医大の調査報告書には,同大学がこのような不公正な得点操作を行った理由について,「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」という点が挙げられている。しかしながら,本来であれば長時間労働を余儀なくされるような労働環境を改善し,男女ともに働きやすい職場環境を整えることこそが必要なのであり,入試において女性を不利益に扱う理由として正当化することはできない。さらに,同大の不公正な得点操作は,女性が活躍する場を奪うものであって,我が国が目指す男女共同参画の実現にも逆行する。
文部科学省は,医学部医学科を有する国公私立大学に対し,入学者選抜の実施体制や実施状況等について調査依頼を発出し,本年9月4日,緊急調査結果(速報)が公表された。東京医大以外に,女性受験生の得点操作などの不正を行っていたと回答した大学はなかったとのことであるが,直近6年間の入試の男女別平均合格率(受験者数に対する合格者数の割合)をみると,男性が女性を上回った大学数の割合は8割近くに上っており,多くの大学の医学部入試において,他の学部学科の傾向と異なり,女性の合格率が低い実態が明らかになった。この調査結果をみる限り,東京医大以外の医学部においても,女性に対する何らかの不利益取扱いがなされている可能性が否定できない。
そこで当会は,国に対し,大学入試における女性差別撤廃のため,大学医学部入学試験における女性差別の実態やその原因を徹底的に解明するとともに,早急に再発防止に向けた施策を講じるよう求めるものである。
2018年(平成30年)9月19日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 及 川 雄 介