2018年(平成30年)12月14日
内閣府特命担当大臣(金融) 麻 生 太 郎 殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 宮 腰 光 寛 殿
金融庁長官 遠 藤 俊 英 殿
消費者庁長官 岡 村 和 美 殿
内閣府消費者委員会委員長 高 巌 殿
仙 台 弁 護 士 会
会 長 及 川 雄 介
「預託商法」について抜本的な法制度の改正を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 預託商法のうち,事業者による物品の販売と,販売業者又はその関連業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態のものについては,金融商品取引法の「集団投資スキーム」に該当すること並びに同法上の登録制及び行為規制の適用対象となることを明確にするよう金融商品取引法及び関係法令を改正すること。
2 その上で,更なる規制を課するべく,預託商法について投資型ファンドと同様の運用規制(忠実義務・善管注意義務,自己取引等の禁止,分別保管,運用報告書の交付等)及び不招請勧誘禁止を導入するよう,金融商品取引法及び関係法令を改正すること。
第2 意見の理由
1 預託商法とその問題点について
(1)預託商法の定義
「預託商法」とは,消費者が購入した商品を,販売業者やその関連会社に預託して運用を委託し,運用に基づく配当その他の経済的利益を受ける取引である。
和牛オーナー商法や健康食品・健康器具,自動販売機などを商材とした預託商法の被害はこれまでにも発生してきているところであるが,近年の事例では,パチンコ型スロットマシン機,太陽光発電パネル,コンテナ,カード決済端末機,加工食品などの商品を利用した商法が確認されている。
(2)預託商法の問題点
ア これら預託商法の多くは,消費者が業者から商品を購入し,同時に購入した商品を当該業者に一定期間レンタルするなどの購入商品の引渡しと預託を前提とした契約を締結する形式を取る。しかしながら,近時,商品の引渡しや所有権移転は著しく形骸化しており,実質的には,消費者が「第三者への商品のレンタル事業」に対し出資をし,当該事業の収益からの配当を受領するという,投資契約としての側面がますます顕著になっている。
このような預託商法においては,消費者は購入した商品が現存するか否かも確認できず,かつ,当該商品が運用されている実態も把握できない。そのため,実際は購入した商品が存在しなかったり事業の実態を欠いたりするケースが多く,消費者が気付かないうちに,業者が事実上破綻し,結果的に約定のレンタル料はおろか元金すら返還されないという事態が頻発している。
イ 例えば,近年の被害事例として,安愚楽牧場事件(和牛の預託,被害者数約7万3000人,被害金額約4207億円),ジャパンライフ事件(磁気治療機器商品等の預託,被害者数約7000人,被害金額約2400億円)などが存在する。いずれも被害金額が極めて高額であり,かつ,被害者数も多い大規模消費者被害を引き起こしている。
ウ 特に,ジャパンライフ事件は,主に高齢者をターゲットとして「レンタルオーナー制度」を全国展開(80店舗)していたジャパンライフ株式会社(以下「ジャパンライフ」という。)が,消費者庁から4度の行政処分を受けたにもかかわらず事業を継続していたところ,2017(平成29)年12月26日に銀行取引停止処分を受け実質的に破綻するに至り,債権者申立てにより,東京地方裁判所にて,2018(平成30)年3月1日付けで破産開始決定がなされた事件である。
ジャパンライフの「レンタルオーナー制度」は,顧客が磁気治療機器商品等を購入し,顧客が購入した商品を同社に預託した上で,第三者(レンタルユーザー)に賃貸することによって,顧客に賃貸料が支払われるという取引とされ,典型的な「預託商法」である。
エ さらに最近では,高齢者を中心に「オーナー制度」を展開していた株式会社ケフィア事業振興会(以下「ケフィア」という。)について,2018(平成30)年8月31日に消費者庁から消費者等に注意喚起が行われたが,その後,ケフィアは経営が破綻し,東京地方裁判所に自己破産申立が行われ,同年9月3日には,関連会社3社とともに破産開始決定がなされた。
ケフィアの「オーナー制度」は,ケフィアが消費者と買戻特約付売買契約を締結し,形式上は消費者が加工食品のオーナーとなり,買戻日が到来するとケフィアが商品を買い戻し,契約時代金の10パーセント程度を加算した「買戻代金」が消費者に支払われるという取引とされた。
同社のオーナー制度は,形式上は買戻特約付売買契約であるものの,売買契約後も対象商品がオーナーに引き渡されることなく,利回りが配当される仕組みであったところ,その実態は「預託商法」と異なるところはないと考えられる。
オ このように,預託商法には潜在的に集団的消費者被害を引き起こす危険性が存するのであり,適切な法規制による被害予防がなされなければならない。
2 現行の法制度では預託商法による消費者被害が抑止できていないこと
このような被害の発生から明らかであるとおり,現行の法制度は,預託商法による消費者被害を効果的に抑止し得ていない。
これに対して,日本弁護士連合会は,安愚楽牧場事件を受けて,2013(平成25)年3月14日付けで「預託商法被害と特定商品等の預託等取引契約に関する法律の改正の在り方に関する意見書」を公表し,「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」(以下「特定商品預託取引法」という。)の抜本的改正の必要性を指摘した。
しかし,その後も改正はなされず,再びジャパンライフ事件のような大規模な消費者被害が発生することとなった。
その後,日本弁護士連合会は,さらなる被害の発生を防止するため,2018(平成30)年7月12日付けで「いわゆる『預託商法』につき抜本的な法制度の見直しを求める意見書」を内閣府特命担当大臣(金融),内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全),消費者庁長官,内閣府消費者委員会委員長宛に提出し,本意見書の趣旨と同様の法改正を求めた。
しかし,現時点でも法改正は進んでおらず,これ以上の消費者被害を防止するため,真に実効性のある法制度の改正が早急に行われる必要がある。
3 現行の法制度の状況とその問題点
預託商法に関連する法規制としては,特定商品預託取引法及び金融商品取引法が存在する。しかしながら,以下に述べる問題点から,現行法では預託商法による被害の発生を実効的に抑止することはできていない。
(1)特定商品預託取引法について
豊田商事事件を契機に制定された特定商品預託取引法は,政令指定商品について,3か月以上の期間にわたり,政令指定商品の預託及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し,契約者(消費者)がこれに応じて当該商品を預託することを約する契約を「預託等取引契約」と定めている(第2条第1項第1号)。その上で,同法は,預託等取引契約に対し,①正確な情報提供(書面交付義務,業務・財務書類閲覧等),②契約離脱権(クーリング・オフ,中途解約権),③行為規制(不当行為の禁止)を定めているほか,行政権限として,指示対象行為の規制(同法第5条),報告徴収・立入検査権(同法第10条),業務停止命令・指示処分(同法第7条)といった規制を定めている。
しかし,特定商品預託取引法による規制は政令指定商品にしか及ばないため,次々と政令指定商品外の新たな商品を利用して悪質な預託商法を行う業者に対しては,有効な規制を行うことができていない。
また,特定商品預託取引法においては,参入規制(登録制等)は導入されておらず,主務省庁に対する業者の定期的な報告義務等は定められておらず,その点においても被害を防止するためには不十分である。
(2)金融商品取引法について
現行の金融商品取引法においても,預託商法を同法の「集団投資スキーム」に該当すると解釈して同法の規制を及ぼす可能性があるが,以下のような限界がある。
ア 金融商品取引法の「集団投資スキーム」
同法の「集団投資スキーム」とは,①契約形式を問わず,出資者から「金銭」又は「金銭に類するもの」(有価証券,手形,拠出した金銭の全部を充てて取得した物品)の出資・拠出を受け,②その財産を用いて事業・投資を行い,③当該事業・投資から生じる収益などを出資者に分配する仕組みであり,かかる仕組みに関する権利(集団投資スキーム持分)を有価証券として扱う旨定義されている(金融商品取引法第2条第2項第5号,金融商品取引法施行令第1条の3,金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第5条)。
そして,「集団投資スキーム」の類型としては,(ⅰ)金銭拠出型集団投資スキーム(出資を受けた金銭を用いて各種事業を行うもの),(ⅱ)有価証券拠出型集団投資スキーム(金銭の代わりに有価証券を拠出するもの)(金融商品取引法施行令第1条の3第1号から第3号),(ⅲ)購入物品拠出型集団投資スキーム(顧客が金銭を拠出し,事業者が顧客のために対象物品を購入し,顧客が所有する対象物品を用いて事業を行い配当する取引)(金融商品取引法施行令第1条の3第4号)の3類型が挙げられている。
イ 預託商法の集団投資スキーム該当性と解釈による対応の限界
預託商法は,顧客が事業者から商品を購入し,これを事業者に預託するという形態であるため,法形式上は上記(ⅲ)の「購入物品拠出型集団投資スキーム」に該当する。
しかし,現行法令では「購入物品拠出型集団投資スキーム」として,競走用馬のみが指定されている(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第5条)にとどまり,これ以外の物品については規制が及んでいない。そのため,条文を形式的に解釈する限り,競走馬以外の物品を対象とする預託商法は金融商品取引法の集団投資スキームの規制対象に該当しないようにも思われる。
もっとも,解釈論としては,その実質面を重視して,一定の預託商法については金融商品取引法の集団投資スキームに該当するとの見解が有力に唱えられている 。同見解に従えば,少なくとも商品の特定性・実在性が希薄で実質的には金銭拠出と同視できるような預託商法については,現行法の枠組み・解釈においても,実質的には「顧客が出資・拠出した金銭」を用いて事業を行うものとして,金銭拠出型集団投資スキームに該当することになる。したがって,解釈論としては,預託商法にも金融商品取引法の規制を及ぼすことが可能である。
しかしながら,法文上からは預託商法が規制対象となり得ることが明瞭になっておらず,かつ,預託商法に対する金融商品取引法の適用を妨げない旨の規定もないため,上記解釈に疑義を生じかねない事態となっている。一方で,現実には先述した預託商法による大規模消費者被害が依然として発生している現状にあるところ,預託商法が規制対象になることが法文上明瞭に明記されていないことは,金融商品取引法に基づく効果的な法執行の阻害要因となっている。
ウ また,現行法では,集団投資スキームのうち,投資型ファンド(出資総額の50%超を有価証券等に投資するもの)については,自己運用として投資運用業の登録が必要とされ,投資運用業に課せられている運用規制の適用がある。
他方,事業に投資する事業型ファンドについては,投資運用業の登録は不要とされており運用規制が及ばない。そして,特に大規模消費者被害を引き起こす危険の高い類型である購入物品拠出型集団投資スキームは,拠出を受けた物品を用いて事業を行う事業型ファンドであるため,運用規制が及ばないことになる。
エ このように,現行の金融商品取引法においては,預託商法被害を効果的に予防することはできない。
4 現行法令の改正の必要性とその方向性
以上詳述したところからすれば,現行法令を改正し,預託商法被害を防止するためには,預託商法被害が有する特徴に対応した効果的な法規制が必要となる。以下では,改正の方向性について述べる。
(1)規制対象の拡大
第一に,規制対象の拡大である。
過去の大規模預託商法被害に共通する最大の特徴は,形式上は消費者が商品を購入し,それを業者に預託しているとされているにもかかわらず,実在の商品による裏付けがない,単なるペーパー商法であったという点にある。
このような詐欺的預託商法が可能となるのは,「事業者による物品の販売と,その業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている場合」である。この場合,消費者が拠出した金銭が,真実,商品の購入に充てられているか,購入したとされる商品が実際に存在するのかを,消費者としては確認する術に乏しいため,結果として,悪質な業者によるペーパー商法の横行を許す潜在的な危険性が高くなる。
そこで,商品の実在性・特定性の希薄な預託商法の横行を防止するためには,この形態の取引を適切に規制することが必要不可欠であり,そのためには規制対象が拡大されなければならない。
(2)許認可・登録制の導入
第二に,許認可・登録制の導入である。
預託商法被害においては,消費者からの被害申告による問題の発見を待っていたのでは,被害防止が著しく困難になるという特徴がある。預託商法の顧客は,業者から運用に基づく配当その他の経済的利益の配当を受けている間は,当該配当が真実健全な運用に基づく配当か否かにかかわらず,その営業実態に疑問を抱いて第三者に被害の相談を行う,あるいは実態の調査を行う等の行動をとるインセンティブを有し難いためである。
業者も,早期に疑問を抱いた顧客が解約・返金を求めた場合には,これに応じることによって被害の発覚を免れようとする場合があることから,被害の顕在化が遅れる一因となっている。
他方,被害が顕在化しない間にも,業者の財務的基盤は時間の経過とともにますます劣化していくことになり,ついには経済的利益の配当が滞り,顧客であった消費者からの被害申告が多発することになる。しかし,その時点では,もはや業者の財務的基盤は失われており,被害の救済は事実上不可能となる。
このような被害実態を前提とした場合,個々の消費者からの被害申告を端緒とした行政権限の行使は必ずしも有効に機能するとは考えられず,被害拡大の効果的な防止のためには,むしろ,継続的・定期的な財務的基盤・業務実態のモニタリングこそが重視されねばならない。
したがって,主務省庁による継続的な監督に服させるための前提として,許認可・登録制の全面的導入が必要不可欠である。その上で,主務省庁が継続的かつ定期的に預託商法業者の財務的基盤・業務実態を把握し得るような法制度の整備がなされなければならない。
(3)契約類型別によらない行政処分
第三に,契約類型別によらない行政処分を可能とすることである。
預託商法は,対象となる商品が多種多様であるだけではなく,形式的にも様々な契約形態を用いることができる。そのため,特定の契約類型について業務停止等の行政処分を受けたとしても,業者は形式上の契約形態を変更することで当該処分を容易に免れ,実質的に同じ預託商法を継続することが想定される。
過去の預託商法による被害事例においても,ジャパンライフは,消費者庁から預託等取引契約や訪問販売に関して業務を停止されると,形式的に契約形態を業務提供誘引販売取引に変更して業務を継続し,さらに,消費者庁よりこの業務提供誘引販売取引についても業務停止処分を受けると,今度は「リース債権譲渡契約」なる名称でほぼ同様の商法を継続するなどして,4回にわたり消費者庁から業務停止を命ぜられていたにもかかわらず事業を継続させていた。
したがって,特定商品預託取引法に基づいて契約類型別に行政処分を行うという枠組みでは,業者が同様の事業を継続することを効果的に抑止できないのであるから,一回的な処分により全面的な業務停止を可能とする制度が必要である。
(4)主務省庁への破産申立権限の付与
第四に,主務官庁への破産申立権限の付与である。
消費者庁は,ジャパンライフが,2016(平成28)年度末(2017(同29)年3月末)時点において約338億円の債務超過であったことを把握し,これを踏まえて業務停止等の処分を行っていたものの,上記のような同社の対応により,業務継続及び被害の拡大を抑止し得なかった。
仮に主務省庁に破産申立権限が付与されていたならば,かかる事態は防止し得たと思われる。もっとも,主務省庁が破産申立権限を適切に行使するためには,継続的かつ定期的に預託商法業者の財務的基盤・業務実態を把握し得ることが前提となるため,この点を含めた法制度の整備が不可欠である。
5 金融商品取引法の早期改正を実現すべきこと
(1)金融商品取引法の規制対象として明示するべきこと
現行法令に存在する問題点及び預託商法の特徴からすれば,預託商法を規制する最も簡便かつ効果的な方法として,商品の実在性・特定性が希薄な預託商法について,包括的に金融商品取引法の「集団投資スキーム」として規制することを明確化する法改正が行われるべきである(具体的な改正案については第6項で述べる。)。
法改正が実現すれば,現在の預託商法が投資取引となっているという実態に合致した規制を明確にでき,金融商品取引法において既に整備されている各規制・制度をそのまま活用することができる。
加えて,現行の特定商品等預託取引法の枠組みにおける規制よりも実効性が期待でき,もって上述した現行金融商品取引法の問題点を解決することができる。
(2)金融商品取引法による規制・制度の活用
以上を敷衍すると,預託商法が「購入物品拠出型集団投資スキーム」の一種として金融商品取引法による規制対象となることを明確化することにより,以下のとおり,金融商品取引法の規制・監督が預託商法に及ぶことも明白となり,預託商法による被害を効果的に防止することが期待できる。
ア 登録制
預託商法業者は,集団投資スキーム持分の自己募集を行う者として,第二種金融商品取引業の登録を要することが明確となる(金融商品取引法第29条)。
悪質な預託商法では,スキーム自体が出資法違反の疑いを禁じ得ないものも多いため,登録審査に当たっては,当該スキームが,出資法以下の金融法制に照らし許容されるものか否かについても確認し,事業スキーム自体が出資法に抵触するおそれがあるような場合には登録を認めないという制度運用を行えば,このような悪質な預託商法や業者を入り口の段階で排除することが可能である。
また,登録自体を行おうとしない業者がいたとしても,無登録営業に対する罰則は5年以下の懲役,500万円以下の罰金(併科あり)であり,無登録で営業したということだけで摘発できるため,違反の場合は迅速な対応が可能であるほか,無登録業者による未公開有価証券の売り付け等について原則無効としている現行法の規制(金融商品取引法第171条の2第1項)を,預託商法の無登録営業に対しても行えば,民事効による解決も期待できる。
イ 行為規制
預託商法業者は,第二種金融商品取引業者として,以下のとおり各種行為規制が課せられることが明白になるため,被害発生の防止が期待できる。
・ 顧客に対する誠実義務(金融商品取引法第36条第1項)
・ 名義貸しの禁止(同法第36条の3)
・ 広告等の規制(同法第37条)
・ 契約締結前の書面の交付(同法第37条の3)
・ 契約締結時等の書面の交付(同法第37条の4)
・ 断定的判断の提供の禁止(同法第38条第2号)
・ 説明義務(同法第38条第9号,金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1号)
・ 内閣府令で定める行為の禁止(同法第38条第9号)
・ 適合性の原則等(同法第40条)
・ 分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止(同法第40条の3)
・ 金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止(同法第40条の3の2)
ウ 主務省庁による監督及び破産申立権限
第二種金融商品取引業者に対しては,以下のとおり,主務省庁の恒常的かつ継続的な監督権限が整備されている上,被害発生の懸念が生じた場合には,事業継続そのものを強制的に停止させる権限も主務省庁に付与されている。
これらの権限を主務省庁が預託商法業者に対して行使できることが明白になれば,被害拡大の防止が期待できる。
(ア)事業年度ごとに事業報告書を提出(同法第47条の2,金融商品取引業等に関する内閣府令第182条第1項)
第二種金融商品取引業者に対しては,少なくとも,事業年度ごとの事業報告書の提出が義務付けられており,恒常的な監督に服させることが可能となっている。なお,事業報告書の提出義務違反,虚偽の記載をした報告書の提出については,1年以下の懲役又は300万円以下の罰金(併科可能)が科せられている。
(イ)報告の徴取及び検査(同法第56条の2)
本条に基づき,モニタリング調査票(①ファンド名,②業者区分,③取り扱う業務,④ファンドの形態,⑤運用期間に関する事項,⑥販売形態,⑦権利者に関する事項,⑧直近1年間の募集等の額,⑨運用財産額に関する事項,⑩純財産額に関する事項,⑪商品分類に関する事項,⑫投資対象に関する事項)の提出が求められている(金融商品取引業者向けの総合的な監督指針Ⅱ-1-1(4))。
(ウ)緊急差止・停止命令(同法第192条)
金融商品取引法違反を早い段階で差止め,被害の拡大を防ぐ手法として効果が期待できる。なお,裁判所への申立て権限は,金融庁長官から証券取引等監視委員会に委任されている。
この命令は,無登録業者による未公開株の勧誘,集団投資スキーム持分の募集・私募・運用,適格機関投資家等特例業務届出者の行為規制違反などについて申立てられた実績がある(2012(平成24)年5月22日開催の第89回消費者委員会資料3「金融商品取引法違反行為に係る裁判所への申立て(実施状況)」)。
また,この命令の違反は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科,法人は3億円以下の罰金等が科せられている。
(エ)破産申立権限
詐欺的ファンド商法等による被害の増加を受け,金融機関等の更生手続の特例等に関する法律が2010(平成22)年に改正され,第二種金融商品取引業者に対する申立ても可能となった。改正前の同法に基づく金融庁による破産申立事例として,2000(平成12)年3月の南証券株式会社,2008(平成20)年3月の日本ファースト証券株式会社がある。
エ 自主規制団体(第二種金融商品取引業協会)によるモニタリング
第二種金融商品取引業の登録には,自主規制団体である第二種金融商品取引業協会への加入(もしくは,協会の定款その他の規制に準ずる内容の社内規則の作成)が要件とされている。同協会は,会員に対するモニタリングにおいて,①法令の規定を遵守させるための会員及び金融商品仲介業者に対する指導・勧告等,②会員及び金融商品仲介業者及び金融商品仲介業者に関し,契約内容の適正化,資産運用の適正化,その他投資家の保護を図るため必要な調査,指導,勧告等,③会員及び金融商品仲介業者の金融商品取引法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分若しくは定款その他規則又は取引の信義則の遵守の状況の調査などを行っており,行政による監督・指導との相互補完が期待できる。
オ 民事効
預託商法が購入物品拠出型集団投資スキームとして,金融商品販売法の規制に服することが明白となり,同法の規制,民事効(説明義務,断定的判断・確実性誤認勧誘の禁止,損害額と因果関係の推定)が及ぶことが明らかとなるから,被害救済に資することが期待できる。
6 具体的な改正試案(意見の趣旨第1項)
金融商品取引法の集団投資スキーム持分の定義は,上述のとおり,「金銭等の拠出」,「事業等の実施」,「配当等の分配」の三つが要件とされている。
預託商法では,消費者から拠出させるのは形式上では金銭ではなく「物品」であり,かつ,事業者が行うとされているのは当該物品の「預託を受けて行う」レンタル業その他の「事業」である。
したがって,上記定義のうち,「金銭等の拠出」,「事業」の各要件において,預託商法(事業者による物品の販売と,その事業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態のもの)が対象となる旨を疑いなく明確にするよう,以下のとおり法改正すべきである。
(1)「金銭等の拠出」の要件について
ア 金融商品取引法施行令第1条の3第4号を以下のとおり改正するべきである。
「四 法第二条第二項第一号,第二号,第五号又は第六号に掲げる権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭(前三号に掲げるものを含む。)の全部又は一部を充てて取得した物品(予め預託を受けることを約して出資者等において物品を購入させた場合を含む。)」(下線部が改正部分である。)
イ 金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令第5条(令第一条の三第四号に規定する内閣府令で定めるものは,競走用馬とする。)は削除するべきである。
(2)「事業」の要件について
金融商品取引法第2条第2項第5号を以下のとおり改正するべきである。
「民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約,
商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約,投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成十七年法律第四十号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利,社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち,当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(出資又は拠出をした金銭で取得した財産の預託を受ける事業も含む。)(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって,次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)(以下略)」(下線部が改正部分である。)
7 更なる規制の追加整備(意見の趣旨第2項)
預託商法の被害防止のためには上記第6項の改正が急務であるが,預託商法による被害の発生・拡大をさらに効果的に防止するためには,現行の金融商品取引法の規制に加えて,より積極的に,以下の規制を導入すべきである。
(1)運用規制の導入
上記第6項の改正が実現すれば,預託商法は,金融商品取引法の集団投資スキームのうち購入物品拠出型集団投資スキームに法文上明確に該当することになる。もっとも,前述のとおり,現行法では,集団投資スキームのうち,投資型ファンド(出資総額の50%超を有価証券等に投資するもの)については,自己運用として投資運用業の登録が必要とされ,投資運用業に課せられる運用規制に服する一方で,購入物品拠出型集団投資スキームは,拠出を受けた物品を用いて事業を行う事業型ファンドであるため,投資運用業の登録は不要であり運用規制が及ばない。
しかし,事業型ファンドであっても,顧客から拠出された物品については,分別保管義務や善管注意義務を負うべきであるし,預託商法が繰り返し大規模被害を引き起こしてきたとの経過に鑑みれば,顧客に対する運用報告書の交付は必要不可欠な義務として課すべきである。
したがって,被害の可及的防止の見地から,購入物品拠出型集団投資スキームについても,投資運用業の登録を要するものとし,投資型ファンドと同様に,下記の運用規制を導入すべきである。
・ 忠実義務・善管注意義務(金融商品取引法第42条)
・ 禁止行為(同法第42条の2)
・ 分別管理(同法第42条の4)
・ 運用報告書の交付(同法第42条の7)
(2)不招請勧誘禁止の導入
不招請勧誘の禁止は,リスク耐性のない消費者が不用意に高リスク商品の取得勧誘にさらされる機会そのものを制限するという点で,被害防止に最も効果的な勧誘規制である。もっとも,現行法では,不招請勧誘の禁止は,店頭金融先物取引,店頭金融オプション取引,個人を相手とするその他の店頭デリバティブ商品に限定されている(金融商品取引法第38条第4号,金融商品取引法施行令第16条の4第1項)。しかし,預託商法は,リスクのある投資商品であり,リスク耐性に乏しい高齢者に被害が集中することが多い上,大規模な被害を繰り返してきたことに鑑み,不招請勧誘を禁止すべきである。
以 上