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東日本大震災から8年を迎えての震災復興支援に関する会長声明

2019年03月07日


1 はじめに
  東日本大震災から間もなく8年という時間が経過する。当会は発災直後から,「人間の復興」の視座の下,被災者に寄り添いながら震災復興支援を続けてきた。発災直後の応急期・復旧期には電話相談や震災ADRを実施して被災者の抱える問題を多々把握・解決し,また復興期に入ってからはその把握した問題意識に基づき二重ローンや被災マンション再建要件,原発事故の消滅時効の問題など制度上の問題を指摘し,その改善を求める意見表明を行うなどして,現実の制度改善にも繋げてきた。
しかしその一方で,現在においても,被災時からの課題(住まいや生活,生業の再建などの課題)を解決できていない被災者も多数存在する。また,時の経過とともに,高齢化し問題がより一層深刻化している被災者や,災害援護資金貸付の償還が開始したことなどの理由で新たな経済的困難に直面している被災者も存在する。
東日本大震災から8年という歳月が流れ,被災者支援も少しずつ平時のスキームへと移行しつつあるが,その中でも支援を必要とする方々が「被災者」であるとの視点を持ち続けることは,その支援及び「人間の復興」のための課題解決にとって非常に重要な意味を持つ。かかる視点から,現行法制や行政上の運用の問題点を検証し,その課題を明らかにして解決に向けて尽力していくことは,被災地弁護士会である当会の責務でもある。そこで,本年は,以下のような課題とその対応等を指摘する。

2 災害ケースマネジメントの法制度化への課題
  震災後の被災者が抱える課題は,複合的・重層的であることが通常であり,その解決には多岐にわたる専門知識が必要とされる。そのため,複合的・重層的な課題は,各種専門家や自治体などに共有されることによって解決に結びついていく。
さらに様々な支援制度はあるものの,これらの支援制度は申請主義を前提とした制度設計となっているため,課題を抱えたまま適切な支援を受けられない被災者が多数存在する。
すなわち,被災者のための各種支援制度は,被災者自らが制度利用申請をし,その申請によって当該制度が利用できるのか否かを初めて行政側が判断するという申請主義が前提となっている。しかし,被災者においてそれらの制度を自分が利用できるのか否か,ひいては,そもそもそのような制度があること自体を知らないことが多い。そのために,被災者生活再建支援法の加算支援金を受給していない世帯がまだ多く存在することや,自治体独自の支援制度の利用率が低いままとなっている。
そこで,被災者に対する法的支援としては,本来,制度利用が可能な被災者に対して,支援者(主に県や市などの地方公共団体)側から積極的に制度利用について情報提供を行うアウトリーチ型の活動が必要である。
各種専門家との連携やアウトリーチ型の活動等の要請を一挙に解決しうる方策として,当会は,「災害ケースマネジメント」(被災者一人ひとりの個別状況に合わせた必要な支援を実施するために,被災自治体が被災者台帳を作成・活用するなどし,また,被災者一人ひとりの個別の被災の影響を把握し,それに合わせた支援策をパッケージし,各種専門家と連携して,支援を実施していく仕組み)の重要性を指摘し,その制度の構築を目指してきた。
この災害ケースマネジメントの趣旨をいち早く取り入れたものとして仙台市の被災者生活再建加速プログラムがある。同プログラムは仮設住宅入居者を対象としたものであったが,個別の被災状況に応じた生活再建の支援を行ったものとして評価されるべきものである。また,一部の地方公共団体(例えば鳥取県)では,災害ケースマネジメントの趣旨を踏まえた条例改正が行われた。さらに,国においても2018年(平成30年)12月頃から総務省行政評価局による在宅被災者に関する実態調査が始まり,在宅被災者を含めた被災者のあるべき生活再建支援の在り方が検討され始めるに至っている。
災害ケースマネジメントの制度構築にあたっては,その予算付けも必要となるところ,例えば生活困窮者自立支援法における生活困窮者自立相談支援事業などを,激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第3条第1項の対象事業として組み入れておくなどによって対応可能である。
よって,当会は,引き続き災害ケースマネジメントが速やかに法制度化されることを求めていくとともに,その実現に向けた具体的な取組みを今後さらに継続していく所存である。

3 生活再建支援に関する課題
  被災者の住まい及び生活の再建に関しては,未だ種々の課題が山積している。
第一に,被災者生活再建支援法に基づく支給内容が必ずしも個々の被災者の被害実態に即しておらず,そのため,被災者の生活再建にとって十分な役割を果たせておらず,住まいの再建が達せられていない被災者が未だ相当数存在することが挙げられる。
すなわち,現行の法制度のもとでは,「全壊」あるいは「大規模半壊」の被害認定を受けた住宅が支援金の支給対象とされている一方で,「半壊」の認定を受けた住戸については,自宅建物を解体する場合を除いて支援金の支給対象外となっている。しかし,半壊の認定を受けた住戸の中には,大規模半壊の認定を受けた住戸と実質的に同等の被害を受けたものも存在する。当会が実施した在宅被災者個別訪問相談においても支援格差の実態が明らかになったところである。被害内容のわずかな相違からその後の支援金額に百万円単位の差異が生じてしまうことは,被災者にとって看過できない問題である。未だ住まいの再建がなっていない被災者を対象とする速やかな対策とともに,将来に向けて,より段階的な被害認定の仕組みを構築し,各段階に応じた適切な額の支援金を支給するなど,被害実態に応じたきめ細やかな支援の在り方が検討されるべきである。
他方で,被災者生活再建支援金の受給手続につき申請主義が採用されていることに起因する問題が存する。
すなわち,当会の実施した在宅被災者戸別訪問相談によれば,震災後の生活上の事情変更や土地区画整理事業の進捗状況の周知不足等により,再建方法の定まらない被災者が少なからず存在することが判明している。加算支援金を受給できること自体を知らない被災者や,申請方法がわからないなど,申請主義の弊害が浮き彫りになっている。自治体サイドから被災者に対して支援金の受給を促す周知を徹底し,実際の利用に至るまで,アウトリーチ型の手法を取り入れた,きめ細やかな対応が求められる。
第二に,震災により失われたコミュニティの再建が未だ達せられていないことの課題を指摘したい。
まず,震災により失われた従前のコミュニティの再建の問題が挙げられる。東日本大震災の大津波によって住宅が多数流失して地域社会自体が破壊され,それまで長い時間をかけて形成された人間関係が分断されている一方,住宅の流失を免れたため,引き続き被災地域で生活を継続している被災者も相当数存在する。それまでの人間関係が断たれたり,地域社会の機能が壊滅的被害を受けたことによって,孤独感・疎外感に苛まれたり,日常生活上の不便が生じている被災者は少なくない。住宅の再建がなったとしても,従前のコミュニティの再建には,住まいを取り巻く環境の整備等のきめ細かい対策が必要である。しかし,現状としては,未だ管理が行き届いていない空家・空地のために住民の住環境が悪化していたり,住民同士のつながりを深める施策が十分でない状況も存在する。早急な対策が望まれる。
  他方,災害公営住宅等における新規のコミュニティ形成の課題が指摘される。報道によれば,災害公営住宅における2018年(平成30年)1月末までの孤立死者は計98人(男68人,女30人)であるところ,このうち60歳代以上が84人と全体の8割以上を占めており,特に高齢者の孤立死に関する問題が深刻化している。平時の施策の中で,災害公営住宅等に居住する住民が被災者であることを常に念頭に置いた対策が望まれる。

4 災害援護資金貸付に関する課題
  災害弔慰金の支給等に関する法律に基づく災害援護資金貸付は,東日本大震災の際,宮城県内の低所得世帯を中心に多くの被災者から利用され,生活再建の一助となった。これは,給付型の支援制度が不十分な現状の補完制度としての意義が認められるものであり,今後も活用されるべきである。
一方で,昨今,災害援護資金貸付の据置期間終了に伴う償還が開始し,償還困難者については,被災市町で償還の(一部)猶予を認める運用をしているものの,看過できない問題が現れている。
  まず,被災市町にて,災害援護資金貸付の据置期間が終了した世帯のうち,多数の世帯が滞納していること(特に仙台市では半数を超える世帯が滞納している),償還に関する連絡自体が取れない世帯も多数存在することが新聞報道で明らかになった。2018年(平成30年)3月に当会が実施した電話相談会にも,償還に関する相談が多数寄せられ,特に年金収入に頼る高齢者世帯で今後の償還が困難であるとの声が多くあった。このまま被災者に償還を強いれば,被災者の生活再建を阻害するおそれがある。
  他方,償還金回収事務が被災市町の多大な負担となっている。具体的には,償還金の督促事務のみならず,借受人死亡のケースでは,法律上は免除できるものとされているものの,実際には相続放棄をしない限り免除をしていないので,被災市町は複数世代にわたる相続人を全て調査して,細分化した償還金債権の相続放棄の有無を確認する必要があり,同事務の負担は過大である。
また,阪神・淡路大震災での災害援護資金貸付の例をみても,貸付から24年以上経過する現在においても,被災市町では,災害援護資金貸付の償還金回収事務に追われている。宮城県内の被災市町も,将来的に同様の事態になることが見込まれる。
さらに,災害援護資金貸付の原資は国・県が負担しており,被災市町は一定の期限のもと,貸付原資全額を県に償還する義務を負うが,現在の滞納状況に鑑みると,被災市町は過大な経済的負担を負わされることとなる。
  そこで,国は,災害援護資金貸付の据置期間及び償還期限を延長するように法令改正するべきである。また,生活保護受給者に準ずる低所得者など,経済的困窮者一般に償還免除対象を拡大するべきである。そして,現状の資力状態に鑑みて償還金を支払う見込みがないと判断できれば,その時点で早急に償還免除を認めるように法令改正すべきである。さらに,借受人死亡による免除については,相続放棄を要件とせず,被相続人の経済状態によっては直ちに免除するなど,法の趣旨に従った運用をすべきである。
  また,国は,貸付金の回収業務を担当する被災市町に対し,償還金回収の債権管理費用を負担し,管理に当たる人員の拡充などの人的資源の手当も行うべきである。
当会では,被災市町の県に対する償還期限の問題も含め,今後,国に対して,災害援護資金貸付に関する法令改正,運用改善を求める提言を検討する所存である。

5 生業支援に関する課題 
  被災者の生業再建に資するものとして震災後に創設された,いわゆるグループ補助金は,2018年(平成30年)12月末時点で,交付決定団体は4262件にのぼり,給付型制度として一定の評価をしうるものであるが,補助率が100%でなく自己負担分につき,資金調達の問題が生じる。この自己負担分を補うものとして,最長5年据え置きで,返済期間20年以内の無利子の高度化スキーム貸付制度があり,貸付決定件数は,2018年(平成30年)末時点で426件に上った。
しかし,既存顧客や販路の喪失,復興需要の収束などの影響で,売上が震災前の水準以上まで回復したと回答した交付先企業は,報道によれば,2018年(平成30年)10月時点で,過半数を割り,水産・食品加工に至っては3割にすぎない。一方,労務費・材料費の高騰,補助金を原資に投資した設備の維持費増大などで事業費の増加が見受けられる。
このような状況の下,償還期限を迎えた高度化スキーム貸付資金を含む震災後の借入れの返還が困難となるケースが顕在化しつつある。
震災から8年を迎え,震災前の借入れではなく,震災後の借入れを原因として資金繰りに窮する被災事業者が増加することは想像に難くない。
そこで,被災事業主が確実に生業再建し,雇用を維持・創出することで,地域経済全体の復興を図るためには,震災後借入れについても柔軟かつ多様な支援策を講じるべきである。当会としては,被災事業主が復旧・復興し,事業を継続・発展できるよう法律相談に応じるとともに,新たな支援制度や既存制度の運用改善等の提言を検討する所存である

6 原子力損害賠償をめぐる課題
  原発事故による被害は未だ収束しておらず,適切な被害回復がなされているとは言いがたい。
2018年(平成30年)4月以降,原子力損害賠償紛争解決センターにおける集団申立事例において,東京電力による和解案拒否を理由に打ち切られる事例が頻発している。これにより,2万人以上の被害者の被害回復が棚上げにされる事態に至っている。
また,昨年までに,原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針を上回る賠償額を認容する集団訴訟判決が相次いで下されたものの,これらの判決はいずれも控訴審で争われており,また,多数の集団訴訟が第一審で係争中である。
他方において,いわゆる原賠時効特例法により,原発事故に関する損害賠償請求権の消滅時効期間が10年間とされたものの,あと2年で原発事故から10年を迎えることとなる。
原子力紛争解決センターによる解決機能が不全に陥りつつあり,広範な損害把握についての司法判断も確定していない中で,被害者が被った損害が時効で切り捨てられるような事態は断じて許されない。
当会は,今後も原発被害の実態を注視しつつ,適切な被害回復に向けた提言などを今後も継続して行う所存である。

7 最後に
以上の諸課題とその対応指針等に照らし,東日本大震災から間もなく8年が経過する今,当会は,支援を必要とする方々が震災により深刻な物的・精神的被害を受け,今もなお生活再建に不安を抱えている「被災者」であるということを常に念頭に置きつつ,引き続き「人間の復興」という基本的な視座に基づき,より一層充実した相談体制の構築や情報提供の充実を図り,被災者一人ひとりの生活基盤の確保・充実のための法的支援や被災事業者の復興に向けた支援活動に邁進する所存であることをここに宣言する。

 
2019年(平成31年)3月7日

仙 台 弁 護 士 会

会 長 及 川 雄 介

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